六月に入ると長雨がつづきもう梅雨かと思うほどだった。
勇夫が突然の転勤で当分の間、会社の寮で暮らし、そのうちに安い借家を探
して一緒に暮らす事にしていた。
しかし、勇夫は性欲を満たすために月に二、三度は帰省していた。
ある金曜の夕方、小雨降る公園でひとり遊ぶ加藤の子供を見かけた。
見るからに薄汚れた少年に美佐江は声をかけた。
「ボク、お父さんはいつ帰るの・・・」
「わからない・・・」とこちらを振り返り答えた。
まだ、あどけない少年は一年生ぐらいにみえた。
美佐江は亡くした自分の子と重なり不敏に思えた。
「おばさんとこでご飯、食べない」と誘った。
少年は腹をすかしているのか首を振って付いて来た。
加藤の住む住宅は道を隔てた角にあるのだが、雑木と板塀に囲まれた美佐
江の家は閉ざされていて、夜になると人気はなかった。
「ボク、待っててね、今すぐ作るから」
少年は美佐江の親切な言葉がうれしかった。
部屋に置かれたテレビを観ながら、自分の家では味わえない暖かな雰囲気
を子供心に感じていたのだ。
「ボク、名前は・・・」
「大樹・・」
「そう、いい名前ね、おばさんは美佐江、覚えてね」
「うん」・・・
美佐江は大樹に自分の携帯から加藤に連絡をとるように伝えた。
「お父さん出た?」そう言って大樹から携帯を取ると加藤と話した・・
「大樹君、お父さんは今晩遅くなるけど、着いたら迎えに来るから」
暫くして、少年に食事を与えた。
ガツガツ食べる姿がとても切なく美佐江は思った。
「大樹君、後からおばさんとお風呂入らない・・・」
少しためらっていたが首を縦に振ると二コリと笑った。
母親の愛情に飢えた少年が見せた子供らしい姿に涙ぐんだ。
「さあ、ここで汚れた服を脱ぐのよ、おばさんも脱ぐからね」
少年は恥ずかしそうにパンツを脱いで美佐江の方を見た。
母親のような化粧の臭いと白い肌、大きなオッパイを見ていたのだ・・・
「さあ・・・はいるわよ」
かけ湯を向かい合ってすると少年は美佐江の下の黒いヘアーを珍しそうに
見つめていた。
湯船に浸かりながら少年の生立ちや、加藤の生活もおおよそ分かったが、
務所帰りの粗暴な男とは知らなかったし、少年も口にしなかった。
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