Chapter Ⅴ 稼ぎたい女には・・・・(第3編)
那央が席について授業が始まった。講師の説明の声だけが流れているうち
は、スイッチを入れずタイミングを待つ。説明が一区切り付いて、テキスト
の練習問題に皆が取りかかる。一斉に電卓を叩く音が始まったので、ここで
スイッチを入れる。斜め前に座っている那央の背中が固まったみたいに、ビ
クンと反応した。
計算のワークが続いているので、しばらく動かしたままにしておく。今日の
那央はデニムのミニにいつもの黒タイツ、上は黒でところどころレースのな
ったチュニックに同じ黒で首まわりがクシュクシュっと縮めてあるようなニ
ットのインナー。後ろの席から見えてる左足が切なそうに左右に動いてい
る。
一旦、区切りがついたところでスイッチを切る。ググッと上に持ち上がって
いた那央の肩がホッとしたように下がった。机の上に置いていた左手を足の
上に下ろしてきた。またしばらく説明が続く。講師のまん前で、クリトリス
にローターくっつけて授業に出てる女・・・・次の計算タイムが始まったので、
10秒づつ間をおいて、オンとオフを繰り返す。
下ろした左手で一生懸命押さえつけて音が漏れないように気にしてるよう
だ。この授業は2回で休憩に入った。那央が立ち上がりバッグを持ってトイ
レに行くようだ。メールで<取ったらダメだよ。ドレイちゃん!>と送って
おく。
戻ってきた那央。休憩時間はいつも稚華美や、友さんと喋ってるのに、おと
なしく席に座ってる。次の5時限は3回、最後の6時限にも3回動かして、
授業が終了。日直から号令が掛かる。「起立」の声に合わせて立ち上がろう
とした那央に最後の電波を飛ばす。ちょうど立ち上がった瞬間に小さく「あ
ぅっ・・・・」と声がしてイスに腰が落ちた。講師がちょっと不思議そうに「ど
うした?・・・」と聞いてきたので、「あっ、いえ、ちょっと・・・」と必死にゴ
マかそうとしている。
帰り支度をしているとメール<打ち合わせ通り行ってきます>と書いてあ
る。<ヌルヌルのまま行くの?匂うかもよ!>と返すとメールを見た那央が
振り返った。目がなんかウルウルしてるみたい。「イジワルッ」と口が動い
て、出口に向かって歩き出した。
3人が向かうのは同じ駅にある大型ホテル2Fのコーヒーショップ。ここに
ニセイベントのプロデューサー役で、例のワインバーのマスターが登場し、
先に待っていた。オレもちょっと離れた席で和佳子の背中側の席に座る。
4人で座り、イベントの企画書やイメージ図を見せて説明している。結構凝
ったものが作ってある。これなら信じるはず。もちろん、昨日の内に、PC
が大得意な那央に、作らせてるから完璧なはず。
一通り説明が終わり、雑談に移っていく。「■■さんと●川さん、会ってい
ただいてどうですか?」と那央がマスターに振る。「もちろん、こんな綺麗
なお二人なら、全く問題ないでしょう!是非この仕事お願いしたいと思いま
すよ!」「じゃあ、合格ってことでいいですよね。良かった!」
稚華美が口を開く。「あのー、どうしてこんなに日当出せるんですか?逆に
ちょっと不思議なんですけど・・・・」「お二人はもう結婚されてるから、分か
らないと思うけど、どれだけお金を使っても、いい結婚をしたいと思う女性
多いんですよ。今回も、50人の参加枠全部埋まってるしね。だからいいギ
ャラでいい人を集めることが出来るんですよ!」「へー、凄いですね。独身
の子はみんなお金持ってるんだね。私も結婚して、前みたいに自由に使えな
くなっちゃったしね・・・・」
「だったら、こういうチャンスにお小遣い稼いでもらって、エステでも、美
味しいモノでもなんでも自由に使ってくださいよ!●川さんもね!」と景気
の良さそうな話を繰り返す。
稚華美がいよいよ仕掛けに入る。「他にも、いいバイトあるんですか?教え
てくださいよ!」「紹介しましょうか?こういう接客型の仕事なら自分以外
にも仕切っているヤツ多いですから・・・・そういえばちょうど1本、依頼のメ
ールが来てたなあ・・・」と来てもいないメールを見る振りをする。
「どんな内容ですか?聞きたいです!」「ちょっと待って、電話してみるか
らね!」といったん店の外に出る。5分位で戻ると「いいギャラの仕事だ
よ。ちょうど今、事務所にいるらしいから、詳しくは来てもらえれば案内で
きますって!どうされます?」稚華美が「そうなんですか・・・行きたいよね、
●川さんも行かない?」と誘う。「あっ、でもこのあと予定があるし・・・遅く
なるとマズいです」「何時までならいいの?」「8時迄には家に帰らない
と・・・・・」「だってまだ5時半だし、行けるよ!一緒に行こう!せっかくの高
額バイトじゃない!」
稚華美の必死の演技が続く。何せしくじったら罰として、電車で待ち合わせ
集団痴漢のエジキにされると言い渡してあるんで、なんとしても連れて行こ
うという気迫がこもってる。「うーん、じゃあ時間だけ気にしてもらえれ
ば、行きます」と和佳子が同意した。
「車、正面に回しますから」とニセプロデューサーが席を立つ。那央がケー
タイを開く。「あっ、稚華ちゃん、ゴメン、ちょっと急用できちゃった。ま
た話の内容、後で教えてもらっていい?」と2人に告げた。店を出た3人。
エスカレーターで降りて行った。
向かう先は・・・・事務所どころか、快感の楽園に向かうんだよ。でもまだ稚華
美も何処に行くのかは分かっていない。ただ、普通に行くだけじゃないこと
だけは理解してるはず・・・・
マスターのベンツに2人が乗り込み、那央は見送って帰っていく。歩きだし
た那央。近くにオレがいることは気づいてないようなので、駅の構内に入っ
たところでスイッチを入れる。予想外の動きにヒザが崩れた。キョロキョロ
とあたりを見渡すが見つからないように隠れる。メールが来た。<どこ?止
めて!>知らない振りして<はあん?今2人を追ってるけど・・・そっちこそ何
処だよ>と返す。<今動き出したよ>と来たので、<これリモコン共通だか
ら、別の誰かが入れたんじゃねえの?探して止めてもらってよ>
<止められないの。外していい?> <勝手に取っちゃダメだよ。家で待っ
てな。こっちが片付いたら止めに行ってあげるから> <こんなのあったら
電車乗れないし、もう歩けない> <ダメだよ、じゃあ家でね!>と返し、
ケータイの電源を落とす。
タクシーで後を追い向かったら、ちょうど目的のビルの地下駐車場に入って
いくところに追いつけた。このビルの1Fの事務所が次の仕掛けの会場にな
る。
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