◆第一部最終回
妻は、
カメラの真正面に腰掛け、
何も知らずに、
媚薬入りのシャンパンを飲んでいる‥
上田君は、そんな妻の様子など気にする素振りも見せず、
妻が焼いたステーキをナイフで切り分けながら口に運んでいる。
妻に媚薬を飲ませる事など、
彼にとっては今更、何でもない事なのだろう‥
「うん、旨い‥!
良子‥この肉、凄く美味しいよ‥!」
「そう‥
良かった‥お口に合って‥!」
妻は、料理には手を付けようともせず、
彼が食べる様子を、両肘を付き顎を乗せ、
眩しそうな表情でジーと眺めている。
上田君は次から次へと、
妻が作った手料理を口へと運んでいる。
「うん‥このロールキャベツも凄く美味しいよ‥!」
「本当‥?
無理に美味しいって言わなくても良いのよ、和也‥!」
「いや、本当に旨いんだって‥!」
「ぅふッ‥和也ったら‥
ありがとう‥!」
妻は‥ハニカミながらも、
嬉しそうに満足気な表情で微笑んでいる‥
目の前で繰り広げられるシーン‥
それは‥
まるで、
仲の良い新婚夫婦のワンシーンを観ている様に思えた。
自分の姿が、
まさか隠し撮りをされているなんて、
知るよしも無い妻の素顔がそこに有った‥
私が知り得なかった妻の裏の顔‥
今、私の目の前で、その妻の仮面は‥
徐々に剥がれ落ちている‥
「良子も‥ほら、
見てばっかりいないで‥
一緒に食べようよ‥!」
「うん、
食べる、食べる‥!」
上田君に促され、
妻もやっと料理に箸を付け始めた。
「しかし、
毎日、こんなに旨い良子の手料理を食べれる旦那さんって本当に幸せ者だよね‥!」
「そんな事無いわよ‥!
主人なんて‥何を作ってあげても、
和也みたいに美味しいって言ってくれることなんて無いのよ‥!」
妻が放った一言‥
それは妻の本音だった‥
確かにここ何年も‥
妻が言う様に、
妻が作る料理に対して、
誉め言葉の一つすら口にしてあげた事など無かった‥
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