◆綾子の告白⑤
綾子は上目遣いで私を見つめると、はっきりとした口調で言う。
「それも有る!」
「あんな事して‥
私がお姉ちゃんに言いつけるかもって思わなかったの‥?」
「ごめん‥
あの時の俺は、理性を無くしてしまって後先の事なんか考えていなかった‥」
「 ‥そう?‥ 」
そう答えた綾子は暫くの間、物思いに更ける様にグラスを見つめ、黙り込んでしまつた。
私はこの時一瞬、
綾子が先日の事を、本当に妻に話してしまうのでは、と不安になっていたのだった。
もしこの事が妻に知られたら‥
現在上田君と進行中の計画全てが終わりになるだけではなく、下手すると離婚に発展する事だってあり得る。
もしそうなったら、妻の心は間違いなく上田君に向かってしまうだろう。
しかし私は、
先日綾子から感じ取った態度と反応で、綾子が妻に告白する事は決して無いだろうという自信が心のどこかに有ったのだ。
「ねぇジロー兄‥?」
「ん‥?」
「あの時私がどんな思いだったか教えてあげましょうか‥」
「う、うん‥!」
「本当はね‥
嬉しかったのよ‥
‥‥‥‥‥‥ 私、昔からジロー兄の事が好きだったから‥!」
「えッ‥?
昔からって‥?」
それは余りにも突然の綾子の告白だった。
「そう昔から‥!
お姉ちゃんが初めてジロー兄を家に連れて来たあの日から、ずーっとよ!」
「それって‥
まさか15年も前‥?綾ちゃんがまだ20歳の時‥?」
「そうよ‥!
知らなかったでしょう‥?」
「あ、ああ~‥」
「そうよね‥
由衣が生まれる迄はそんなに会う機会も無かったし、
家族付き合いする様になった時にはお互い家庭を持った立場だったから絶対に気持ちを知られない様にしてたし‥
でも好きな気持ちはずーっと変わらなかったよ‥!
お姉ちゃんと前の主人には申し訳ないと思ったけど‥」
「 ‥‥‥‥‥ そうだったんだ‥
そんな前から‥」
「ねぇジロー兄‥!話したい事が有るの‥!」
「ん‥何‥?」
「うん‥
ねぇ、場所変えない‥?
人に聞かれたくない話しなの‥!」
「そうかぁ‥?
じゃあ‥
カラオケBOXにでも行く‥?」
「うん、そうしよう‥!」
人に聞かれたくない話しって何‥?
ひょっとして先日、気になっていた例の話しか‥?
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