◆綾子の告白⑨
今はその声がどんなに大きかろうと、
周りの騒音がそれを掻き消してくれるので一切、気を使う必要もない‥
「ジ、ジロー兄‥
ま、待って‥!」
その時、突然‥
私の唇から離れ、
我に返った綾子が呟いた。
「ジロー兄に話さないといけない事が有るの‥!」
そう呟いた綾子は、急に真剣な表情に変わり私を見つめている。
「ど、どうしたの‥‥?」
「 ‥‥‥‥‥ 」
「綾ちゃん‥?」
「 ‥‥‥‥‥ あのねジロー兄‥ ‥‥‥‥‥ ‥‥‥‥‥ この前、ジロー兄、言ったよね‥!
‥‥‥‥‥ お姉ちゃんが浮気しても許すって‥!」
きたーーーー!!
やっぱり綾子は妻の浮気に気が付いていたんだ‥!
話したい事ってやっぱりこの事だったんだ‥!
「あ、ああ-‥
言ったよ‥!
ま‥まさか良子が浮気をしてるとでも言うのかい‥?」
私は精一杯の芝居を打つ事になってしまった。
「‥‥うん‥!
私‥‥私、見ちゃったの‥
お姉ちゃんが男の人と腕組んでホテルに入って行くとこを‥‥!」
「いつ‥?
いつ何処で見たんだい‥?」
「9月の半ば‥!
新宿大丸のデパ地下で‥!
その日は私、仕事がお昼迄だったので、帰りにお夕飯の買い物をするのにデパ地下に寄ったの‥!
でね‥
お買い物してて、何気なくエスカレーターの方に視線を向けたら二人が腕組んでエスカレーターで降りて来るのをたまたま見てしまったの‥!」
「それで‥?
その後、どうしたの‥?」
「うん‥
それで私、その時、咄嗟に隠れて‥!
だから、お姉ちゃん私には気づかなかった‥!
それでその後私‥
気が付いたら二人の後をつけてた‥!
二人はデパ地下で買い物を済ませて表に出ると仲良く腕を組んで歌舞伎町のホテル街の方に歩いて行ったの‥!
で、そのまま一件のラブホテルに入って行く所迄を見届けて帰った‥!」
私はわざとらしく驚いた表情と憔悴しきった態度を取って見せていた。
「その男って‥
どんな感じの男だった‥?」
「んー‥
はっきりと覚えてはいないんだけど、
年齢は、30代に見えた‥!
背丈はジロー兄と同じ位だったと思う‥!」
間違いなく上田君だ‥
そんなとこを綾子に見られていたなんて‥
私は無言のまま、
憔悴しきった態度を取り続けた。
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