もし丸さんが痴漢の現行犯で捕まったら…。そんな不安が拭いきれないまま、私が会社のロッカーの前で着替えていると、
『ブルル…ブルル…』
携帯のバイブが…メールが届いたようです。
慌てて受信BOXを開くと丸さんからメールがきていました。
『お母様を捕捉しました!これから計画を実行します。経過、結果はまた後日』
と書かれていました。
当然、仕事に集中できる訳もなく、妄想ばかりしていたように思います…。
その日の夜、そそくさと帰宅した私をキッチンで出迎えた母はいつもと変わらない様子。会話も他愛もないもので、よそよそしくなっていたであろう私の方が
『どうしたの?何かあったの??』
と聞かれる有り様でした。
かといって私から探りを入れるわけにもいかず、悶々としたまま風呂に入り、布団に潜り込んだものの、全く寝付けません。
何本も煙草を吸いながらメールすら届いていない携帯を何度も開けたり閉めたり…。気がつけば夜が明けようとしていました。
それから1ヶ月近くがたったでしょうか。
丸さんからのメールはありません。
母も少しも変わった様子はありません。
『やられた…冷やかし…』
そう思う事にしました。また募集すればいい事。
しかし、丸さんほどの理解者が見つかるだろうか?
そんな気持ちで携帯を手に取ると、着信メールが!丸さんでした。内容は
『大変ご無沙汰してしまってすいません!計画は順調ではありませんが進行はしています。まだ報告できるような成果はありませんが…。
実はお願いが1つあります。昨日、発売された週刊〇〇〇を買ってきて、お母様の目につく場所に置いておいてもらえませんか?』
承諾するしかありません、山ほど聞きたい事がありましたが我慢してすぐにコンビニに走りました。
『ありがとうございます!あなたも読んでおいて下さいね』
丸さんはどの記事を。とは言いませんでしたが、ページを捲っていくとすぐに彼の意図が理解できました。その記事は…
《増加する痴漢と冤罪》と銘打たれてました。その記事には、
・痴漢犯の増加によりその冤罪も増えている。
・痴漢被害のでっち上げにより無実の男性が示談金を搾取される被害が急増。
・痴漢被害を届けた女性も社会的に追い込まれる変わらぬ事実。
といったものでした。
丸さんは最後の内容を母に読ませたかったのでしょう、果たしてそれがどれほどの効果があるか私にはわかりませんでしたが、ともかく指示通りにリビングのテーブルの上に他の本と一緒にさりげなく置いておきました。
果たして母は本を読んだのか…。また丸さんからの連絡は途絶え、母に変わった様子もなく、いつもと同じ日常が2ヶ月以上も繰り返されていきました。
あのメールが届くまで…そのメールは無題で、ただ本文に
『お母様、崩れました』
とだけ打ち込まれていました。
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