香織は翌朝も、1号車を選んだ。
前日の柳田との再会で、心が少し軽くなっていた。
あの夜の熱が、まだ身体に残っている。
子宮の奥に注がれた精液の感触が、歩くたびに甘く疼く。
でも、電車に乗る瞬間だけは、警戒心が蘇る。
車両は昨日より少し空いていた。
香織は一番奥の角に立ち、カバンを胸に抱え、
壁に背中を預けて目を閉じる。
イヤホンから流れる音楽に集中しようとする。
池袋を過ぎ、電車が新宿に向かって加速する。
乗客が増え、身体が押し込まれる。
そして——
また、あの感触。
後ろから、確信犯のように、
痴漢の手がスカートの上からヒップに触れる。
昨日と同じ、ぬるりとした指先。
香織の身体が硬直し、心臓が喉まで跳ね上がる。
(……また……
同じ人……
どうして……先生に守ってもらったのに……
まだ……続くの……?
怖い……怖い……
手が……もっと……
スカートの下に……入りそう……
だめ……だめ……
叫びたい……
でも、声が出ない……
周りに人が……
みんな気づかない……
助けて……先生……
昨日みたいに……
また……守って……)
痴漢の指が、さらに大胆になる。
スカートの裾を軽く持ち上げ、
ストッキング越しに太ももの内側を這い上がり、
秘部に近づく。
香織の膝がガクンと崩れそうになり、
涙がこぼれ落ちる。
彼女は必死に身体を捩り、
カバンで後ろを押そうとするが、
満員の中、力が入らない。
指が、ストッキングの縁を越え、
パンティの布地に触れようとした瞬間——
後ろから、強い力が働いた。
痴漢の手首を、誰かがねじり上げた。
「やめろ」
低い、抑えた声。
中年男性の声。
香織はよろめきながら振り返る。
そこに立っていたのは——
柳田だった。
スーツ姿で、眼鏡をかけた柳田。
塾の講師として働く彼は、
今日もこの電車に乗っていた。
偶然か、必然か。
柳田は痴漢の手首を強く捻り上げ、
低い声で吐き捨てる。
「二度と触るな。
警察に突き出すぞ」
痴漢は痛みに顔を歪め、
人混みに紛れて逃げていく。
柳田は香織の肩を支え、
電車が新宿駅に着くのを待つ。
ドアが開き、人波に押されながら、
二人はホームへ出る。
香織は柳田の腕に凭れかかり、
震える声で呟く。
「……先生……また……
助けてくれた……」
柳田は静かに頷き、
彼女をホームの端、柱の影へ連れていく。
人混みから少し離れたところで、
香織の肩を抱き、
低い声で言う。
「……お前を……放っておけねえんだよ」
香織の涙が、止まらなくなる。
彼女は柳田の胸に顔を埋め、
震える声で繰り返す。
「……先生……
怖かった……
毎日……電車で……
先生のこと、思い出して……
でも……先生がいないと……
耐えられなくて……」
柳田は香織の髪を強く掴み、
耳元で囁く。
「……もう、怖がらせねえ。
今日から……
俺が毎日、この電車に乗る。
お前を……守る」
香織は小さく頷き、
柳田の胸にしがみつく。
「……先生……
ありがとう……
私……先生のそばに……いたい……
ずっと……」
二人はホームで、
人混みの中で、
静かに抱き合っていた。
電車の音が遠く響き、
朝の喧騒が二人を包む。
香織の心に、
あの熱が、再び灯り始めていた。
痴漢の恐怖は、
今、先生との再会という、
甘く危険な希望に変わりつつあった。
彼女の通勤は、
これからは、
先生と一緒に——
始まる。
香織は、静かに思う。
(先生……
これからも……
毎日……
一緒に……
私を……守って……
そして……
夜は……
あの熱で……
私を……満たして……)
二人の日常は、
再び、
情熱と欲望の鎖で繋がれていく。
電車は、新宿へ向かって走り続ける。
香織の新しい朝は、
先生の腕の中で、
静かに、甘く、始まっていた。
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