香織の視界は涙で完全に霞み、部屋の輪郭が溶け合うように歪んでいた。
沢田の指が鎖骨からブラウスの二番目のボタンへ、ゆっくりと、まるで時間をかけて味わうように降りていく。
指先が布地を軽くつまみ、ボタンをわずかに引っ張る。
布がきしむ小さな音が、部屋の静寂を切り裂き、香織の耳に直接突き刺さるように響く。
桑田は顎を掴んだまま、親指で下唇を押し続け、視線を完全に固定する。
その圧力が、少しずつ、少しずつ増していく。
香織の呼吸は完全に浅くなり、胸が激しく上下するたび、制服の生地が擦れる音がする。
心臓の鼓動が、耳の奥で爆音のように反響し、頭痛がするほど速い。
汗が額から滴り落ち、顎から床へ落ちる音が、自分の耳にだけ異様に大きく聞こえる。
外の廊下から、誰かの足音が——本当に聞こえた気がした。
一瞬、心が跳ね上がる。
でも、それはすぐに消え、ただの幻聴だった。
希望が灯って、すぐに消える残酷さが、胸を抉る。
涙が止まらずに頰を伝い、顎から滴り落ち、床に小さな染みを作る。
その染みが、ゆっくり広がっていくのが、視界の端でぼんやりと見える。
沢田の息が、耳元でさらに熱く、湿ってかかる。
声は低く、抑揚をほとんど殺したまま、しかし確信に満ちている。
「先輩……
身体、こんなに熱くなってきてるじゃん。
柳田のジジイにされたこと、思い出して……
今も、こんなに震えてんのか?
俺たちに話さねえなら……
ここで、柳田がしたことと同じこと……
ゆっくり、丁寧に……確かめてみるしかねえよな?
お前の声、ちゃんと聞かせてくれよ。
どんな声出すのか……俺たち、楽しみにしてるぜ」
桑田の指が、顎から首へ、ゆっくり降りていく。
鎖骨のくぼみをなぞり、三番目のボタンに触れる。
指先がボタンを軽くつまみ、わずかに引っ張る。
布地がきしむ音が、再び響く。
今度は、ボタンが少しだけ外れかかる。
布がわずかに開き、肌が空気に触れる冷たさが、香織の全身を震わせる。
香織の膝が、完全に崩れそうになる。
壁に凭れかかっていないと、立っていられない。
涙が止まらずに頰を伝い、顎から滴り落ちる。
下腹部が、認めたくない熱を帯び、昨夜の記憶が鮮やかに蘇る。
先生の指、先生の息、先生の低くねっとりした声。
それが、今、この二人の指と重なり、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回す。
(……だめ……だめ……
触らないで……
先生以外の人に……
身体が、熱い……
嫌なのに……反応してる……
昨夜のせいで……こんなに……
心臓が、破裂しそう……
息が……吸えない……
涙が、止まらない……
叫びたい……
でも、声が……出ない……
もし、このボタンが外れたら……
もし、この手がもっと下へ行ったら……
私は……もう……
先生のものじゃなくなっちゃう……
怖い……怖い……怖い……
先生……
先生……
助けて……
お願い……
誰か……
この指が、もっと奥へ滑ってきたら……
私は、どうなってしまうの……?
もう……限界……)
香織の唇が震え、
ようやく、ほとんど息のような、
か細い声が漏れた。
「……やめて……
お願い……
やめて……
帰って……
お願い……お願い……お願い……」
しかし、二人の目はさらに熱を帯び、
指の動きが、わずかに速くなる。
部屋の空気が、限界を超えて張りつめ、
一瞬の沈黙が、永遠のように長く続き——
香織の精神は、糸が完全に切れる寸前まで、
静かに、しかし確実に、引き裂かれようとしていた。
この瞬間、香織の心は、完全に崩壊の淵に立っていた。
先生に守られたはずの秘密が、
今、別の脅威に晒され、
彼女の精神は、静かに、しかし確実に、落ちていく。
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