香織の視界が、涙でぼやけ始めていた。
沢田の指が首筋から鎖骨へ、ゆっくりと滑り落ちる。
布地の上をなぞるような動きが、まるで肌を直接撫でるように感じられ、
香織の身体が無意識にびくりと震える。
桑田は顎を掴んだまま、親指で下唇を軽く押し、唇をわずかに開かせる。
その圧力が、わずかでも増すたび、香織の喉が詰まり、息が浅くなる。
部屋の時計の秒針が、カチ、カチと刻む音が、異様に大きく耳に響く。
一秒が、一分のように長く感じられる。
外の廊下から、誰かの足音が遠く聞こえた気がして——
香織の心臓が一瞬止まり、再び激しく鳴り始める。
でも、それはすぐに消え、ただの幻聴だった。
希望が一瞬灯って、すぐに消える残酷さが、胸を抉る。
沢田の声が、再び耳元で低く響く。
息が熱く、湿って、耳たぶを濡らす。
「先輩……
身体、熱いな。
今も、柳田のジジイのこと思い出して、こんなに震えてんのか?
俺たちに話さねえなら……
ここで、柳田がしたことと同じこと……
確かめてみるしかねえよな?
ゆっくり、丁寧に……
お前がどんな声出すのか、ちゃんと聞かせてくれよ」
桑田の指が、顎から首へ、ゆっくり降りていく。
鎖骨のくぼみをなぞり、ブラウスの一番上のボタンに触れる。
指先がボタンを軽くつまみ、わずかに引っ張る。
布地がきしむ小さな音が、部屋に響く。
香織の呼吸が、完全に乱れる。
胸が激しく上下し、涙が止まらずに頰を伝う。
膝が折れそうになり、壁に凭れかかっていないと立っていられない。
下腹部が、認めたくない熱を帯び、昨夜の記憶が鮮やかに蘇る。
先生の指、先生の息、先生の低くねっとりした声。
それが、今、この二人の指と重なり、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回す。
(……だめ……だめ……
触らないで……
先生以外の人に……
身体が、熱い……
嫌なのに……反応してる……
昨夜のせいで……こんなに……
心臓が、破裂しそう……
息が……吸えない……
涙が、止まらない……
叫びたい……
でも、声が……出ない……
もし、このボタンが外れたら……
もし、この手がもっと下へ行ったら……
私は……もう……
先生のものじゃなくなっちゃう……
怖い……怖い……怖い……
先生……
先生……
助けて……
お願い……
誰か……)
香織の唇が震え、
ようやく、ほとんど息のような、
か細い声が漏れた。
「……やめて……
お願い……
やめて……」
しかし、二人の目はさらに熱を帯び、
指の動きが、わずかに速くなる。
部屋の空気が、限界を超えて張りつめ、
一瞬の沈黙が、永遠のように長く続き——
香織の精神は、糸が完全に切れる寸前まで、
静かに、しかし確実に、引き裂かれようとしていた。
※元投稿はこちら >>