香織は倉庫の薄暗い壁に背中を強く押しつけられ、瘦せ型の男に肩を掴まれたまま、息を殺していた。
埃っぽい空気が喉に絡みつき、息を吸うたび、胸が締めつけられるように苦しい。
外のグラウンドから、遠くで部活の掛け声やボールの跳ねる音が聞こえてくるのに、
この閉ざされた空間は、まるで真空のように静かで、重い。
壊れた鍵の扉は、ただ閉められただけで、いつでも開けられるはず——
なのに、香織の心の中では、昨夜の用具室のように、三重の鍵がかかった牢獄に変わっていた。
足元に散らばった古い道具の影が、足を絡め取るように伸び、逃げ場を塞いでいる。
心臓の鼓動が、耳の奥でどくどくどくと鳴り響き、頭痛がするほどに速い。
汗が背中を伝い、制服のブラウスを冷たく湿らせる。
大柄な男がゆっくりと一歩近づき、ニヤリと口の端を歪めて笑った。
その笑みが、柳田先生の昨夜の満足げな笑みに重なり、香織の視界が一瞬揺れた。
男の影が彼女を覆い、息が酒と煙草の混じった臭いを帯びて、顔にかかる。
距離が、わずか数十センチ。
逃げられない。
男の太い指が、香織の顎をゆっくり持ち上げ、顔を固定する。
その感触が、昨夜の先生の指に似ていて——
下腹部が、じわりと熱くなった。
恐怖と、認めたくない興奮が、胸の奥で渦巻く。
「おいおい、落ち着けよ、先輩。
別に怖いことするわけじゃねえよ。
ただ、昨夜の用具室のこと……
柳田のジジイと、何してたんだ?
顔、火照ってたぜ。
出てきたとき、足元ふらついてたよな?
あの部屋、鍵かかってたけど……
中から、変な音が聞こえてきてよ。
喘ぎ声みたいな……
まさか、柳田のジジイに、抱かれてたんじゃねえの?」
瘦せ型の男が、背後から香織の耳元に唇を寄せ、熱い息を吹きかけながら囁く。
その息が、首筋を這うように感じられ、鳥肌が全身に広がる。
男の指が、肩から腰へゆっくり滑り、スカートの生地越しに骨盤を軽く押さえる。
わずかな圧力なのに、香織の膝がガクンと崩れそうになる。
「俺たち、たまたまグラウンドの掃除当番でさ。
夜遅くまで残ってたんだよ。
あの部屋の隙間から……
お前らの影が見えたぜ。
柳田のジジイが、お前を抱き寄せて、ブラウスのボタン外して……
あれ、何かヤバいことしてたんじゃねえの?
教えてくれよ。
黙ってるなら……
ここで、確かめてみるか?」
香織の息が完全に止まった。
視界が狭くなり、倉庫の壁が迫ってくるように感じる。
心臓の音が、頭の中で爆音のように反響し、吐き気が込み上げる。
汗が額から滴り落ち、唇が震えて言葉が出ない。
喉が渇き、息を吸おうとしても、肺が拒否するように浅い。
(……見られてた……全部……
先生に抱かれて、喘いで、腰を振って……
四つん這いで「犬になります」って言ったところまで……?
心臓が、破裂しそう……
恥ずかしくて、死にたい……死にたい……
学校中に広められたら……
みんなの視線が、変わる……
お母さんに知られたら……
部活の仲間たちに……
私の人生、終わる……全部、壊れる……
逃げなきゃ……叫ばなきゃ……
でも、声が出ない……足が動かない……
この二人の視線……先生のと同じ……いやらしい……
嫌なのに……身体が、熱くなって……
下腹部が、疼いて……
昨夜のせいで、こんな状況でさえ、興奮してる……
私、壊れた……完全に、おかしい……
どうしよう……この指が、もっと滑ってきたら……
抵抗できる? それとも……昨夜みたいに、感じちゃう?
怖い……怖い……怖い……
先生……早く来て……助けて……
でも、もしこの人たちが……私に何かしたら……
私は、どうなってしまうの……?)
大柄な男の指が、顎から首筋へゆっくり滑り落ちる。
瘦せ型の男の息が、耳たぶにかかる。
倉庫の空気が、ますます重く、息苦しく張りつめ——
一瞬の沈黙が、永遠のように長く、香織の神経を限界まで引き伸ばす。
扉の外から、かすかな足音が聞こえてきた。
誰かが、近づいている——?
その瞬間——
扉の外から聞こえてきた足音が、近づき、止まった。
ガチャリ。
壊れた鍵の扉が、勢いよく開かれた。
柳田の姿が、そこにあった。
彼の目は、いつものねっとりしたものではなく、鋭く、怒りに満ちていた。
「何をしてるんだ、お前ら!
香織に触れるな!」
大柄な男と瘦せ型の男が、びくりと身体を硬直させる。
柳田の声は低く、威圧的で、学校の教師としてではなく、守る男として響く。
男たちは慌てて香織から手を離し、後ずさった。
「先生……ただ、話してただけですよ……」
大柄な男が言い訳するが、柳田は睨みつけるだけで、男たちは逃げるように倉庫を出て行った。
柳田はすぐに香織に近づき、震える彼女の肩を抱いた。
「大丈夫か、香織……
あの連中、何かしたか?」
香織の瞳から、ついに涙が溢れた。
(……先生……来てくれた……
怖かった……本当に、怖かった……
でも、今……先生の腕の中で……
昨夜の熱が、また蘇って……
私は、もう先生なしじゃ……生きられない……)
彼女は柳田の胸に顔を埋め、震える声で呟いた。
「……先生……ありがとう……
用具室……行きましょう……
あの部屋で……また……」
柳田の唇が、ゆっくりと歪んだ。
二人は倉庫を出て、用具室に向かった。
鍵を閉め、再び、二人の秘密の時間が始まる——。
昨夜の続きは、まだ終わっていない。
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