弥生とその少数の一手は虎御前の本隊から離れて先に連絡のために砦に入ろうとした。砦を囲む敵方との間で小競り合いが起こる。そのどさくさの中、弥生は身なりの良いおなご衆5人と出会してこれを捕らえた。敵方の軍兵を追い散らした後、弥生の手の者達は当然の権利として捕らえたおなご衆を弄び犯そうとする。それを抑えて弥生が尋ねた。「そなた達、身なりや言葉から身分のある者と見うけられる。正直に名乗るが良い。それなりの扱いをしよう程に。さもなくば軍兵共の慰み者とするしか無い。」
慌てた様子で一行の中の年上のおなごが前に出た。「こちらは桜姫様にございます。桜姫様におかれましては、許婚たる日向介様とお会いになるところ、戦に巻き込まれましてございます。」桜姫は見たところ年のころ14才くらい。俯いて顔は薄物の布で隠してはいたが、まだ幼いながらも美しさの程が伺えた。桜姫の許婚日向介は今弥生達が入ろうとしている砦を攻めようとしている軍勢を率いる武将であり、桜姫の実家は敵方の中でも勢力のある大名クラスの武将である。なんと価値のある人質を捕らえたもの..。状況が劣勢な中、この人質を上手く使えば籠城する味方が助かる可能性も出てきた。
弥生は信頼出来る者達におなご衆を見張らせると共に味方から襲われる事の無い様にと用心した。
籠城する軍兵達の中に兵糧を運んで逃げられなくなった不運な小荷駄隊がいた。権兵衛の率いる100人程である。不運に落ち込む中、敵方の姫を捕らえたと言う朗報は一同を喜ばせた。更に頭の権兵衛にとって家で待っている筈の幼妻の梅が弥生と共に砦に来てくれた事はたまらなく嬉しくもあったが、愛する妻を戦に巻き込む事はたまらなく辛い事でもあった。幸い虎長の軍兵の規律は苛烈極まる為に陣中で梅が味方から怪しからぬ振る舞いをされる心配は少なかった。むしろ普段から優しい頭と部下に慕われていた権兵衛の幼妻と分かると梅は周りからは温める目で見られる様になった。
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