「そこの組頭、その首を持ってすぐに本陣に行け!弥生、そなたが案内せよ!」近くでおなごの声がした。見るとそこに馬上の虎御前の姿があった。
いつ切り落としたか左手に能登守の首を握っていた。生き残った..。殺されると思ったのに..。しかし小心者の権兵衛は新たな恐怖に駆られた。俺、配下の足軽達に逃げられて陣に穴を開けたんだ..。きっと俺が開けた穴から敵が攻め込んでる。陣法では打ち首じゃ..。虎御前様に見られてる。俺が逃げない様にと腰元衆を見張りにつけたんじゃ。重い足を引きずって本陣に行き、幕の中でじっと待たされた。俺が打ち首になったら母様も連座で殺されるかなあ..。梅は、梅はまだ俺の家族じゃない。助かるかもしれん..。梅、済まぬ。お前の尻は虐めてやれん..。母様が処刑されたらお前は逃げろ。人買いなどに売られるな..。
ああ..、せめて敵将の首を取った引き換えに一目母様と梅に会わせてもらえんじゃろうか..。やがて本陣に慌ただしい動きがあった。「その方、御屋形様がお呼びじゃ!御前に進め!」
半ば諦めた権兵衛が虎長の前で頭を地面につけて土下座する。「面を上げい!」恐る恐る顔を上げると正面には御屋形様、その左に虎御前が座っていた。
虎御前が言った。
「そなた、先の戦でわらはが女童を宛がった独り者じゃな。確か梅とか申したが連れて帰ったと聞く。どういたしておる?」今回の、今日の戦の事では無いのか..?しかし、どうお答えすれば良いのか...?幼い女童だが毎日おなごとして責めておりますと正直に言えばどうなる?答えに窮した権兵衛に虎御前の方が助け船を出した。「そなた、さぞ毎晩梅を可愛がっておるのであろう?わらはが馳せ参じた時、そなたは梅の尻を責める梅の尻を責めると叫びながら能登守と戦っておった。」権兵衛は顔を赤くした。それと同時にこの恐ろしい虎御前が先の戦で宛がった女童の事までちゃんと覚えていて、その後の事にも気を配っているのでは?と思ってた。
駄目で元々、虎御前様に縋ってみよう..。
「お願いにございまする!何とぞ、何とぞ今回の私の罪への刑罰、梅だけはお助けくださいますよう!」虎御前の爽やかな笑い声が聞こえた。
「この度の戦が負け戦であったなら、そなたと同じ家に住む梅も連座を免れぬところであったな。打ち首か磔、それもあの幼い身体を素っ裸でのう。幸いにもそなたが能登守と斬り結んでくれた為に敵は攻め入らず、反対にわらはの手勢が敵陣につけ入る事が出来た。そなたの功じゃによって、足軽どもの逃散は不問との御屋形様のご意志じゃ。」
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