私は現在156cm体重は51kg、対するA君は身長が168cmで体重は分かりませんが多分60~65kg。で体格差はA君の方が有利です。
お互いに柔道特有のフットワークで小刻みに間合いをはかりつつ、少しづつ近付いて行きます。
時折、相手の袖をとる仕草を見せ、警戒して、それの繰り返しが続きました。
A君もそうだと思いますが、お互いに久しぶりの試合、乱取り稽古もしていない実践に立ち上がりは慎重でした。
拉致があかないと思ったのか、私の動きを見切ったと感じたのか、先にしかけてきたのはA君でした。
勢いよく私に接近し、奥襟を狙ってきます。
それを私は手早く身体も動かしながら捌き、取られた袖を振りほどきながら後退しました。
A君が追撃を辞め、元の位置に戻ります。見ると私は赤い畳を超えて場外になっていました。
最初のA君の仕掛けを、捌いて落ち着いてきました。思ったよりも力がある、そして2年生の乱取り稽古の時よりも腕のリーチがあります。
まともに掴まれたら危ないと思いました。ですが、腕のリーチとパワーにさえ気をつければ勝てるという確信もこの時感じました。
試合を再開します。
A君は様子を見ること無く、私を捕まえるためにグイグイ攻めてきます。私は組手の攻防は得意だったので、要所要所を捌きながら、隙を狙っていました。
A君は後先考えないほど、序盤から攻めてきます。やはり力があります。いや、想像していたよりも力強さを感じました。
私は落ち着いて対応をします。しかし、A君は足を引っ掛けながら私の懐に飛び込みんで来ました。
反射神経と経験、そして持ち前の柔軟性でギリギリに躱すと、間髪入れずに私の左ふくらはぎの辺りを掴み、私のお腹の辺り体を潜り込ませ肩車という荒業に出ようとしました。
それも手をほどき、何とかかわしました。
時間にして2分は経過していたと思います。
私は防戦一方な状況で、少しの焦りがありましたが、すぐに気持ちを鎮めました。
息が少し上がります。
更に攻めてくるA君、動きに勢いが増して行きます。彼は行ける!と判断して気持ちも乗っているのだと思いました。
私は彼に警戒させ、勢いを、そごうと言う考えから、崩しきっていない不完全な形で一本背負いを仕掛けます。
やはり、不完全なため背負い込む事が出来ませんでしたが、A君はそのまま体重をかけて私を潰しにきました。
この時、明らかにA君の体重が60ちょいでは無いと思いました。明らかに想定より重い。70は無いにしても、60kgちょいでは無い。そう感じました。
このまま寝技の様相となり、私は体を丸めて首元を手でガードして、A君の押さえ込む攻めに備えました。
しかしA君は、私の上に乗り上手く体重をかけつつ、帯と肩のあたりの道着を掴みにきました。
A君は狙った所を無事に掴むと、乗るのを辞め、立ち上がり私を力の限り持ち上げました。
あまりの腕力に私の体は空に持ち上げられ、A君はそのまま、私をぶん投げました。
私は畳に右半身から落ち、動揺しましたが、すぐにA君が攻めにきて、とにかくガードを固めて丸まりました。
彼は今度は背中に乗ってこず、代わりに首後ろの帯の当たりと左腕の当たりの道着を掴み、上下にブンブンと力の限り振り回してきました。
あまりの力に、私の上半身は起き上がっては下に叩きつけられてを繰り返しました。
何とかしないと、と焦りが強くなりましたが、為す術が今はありません。
とにかく耐えるしか無い。
そしてA君はタイミングをみて無理やり押さえ込みに入ろうとします。
そのせいで道着はだいぶ乱れ、帯は解けてしまいました。
しかし、道着が乱れたおかげで、無理やり押さえ込もうとしたA君から脱出でき、立ち上がることが出来ました。
A君はゆっくり立つと、「道着、、なおして、、ください」と一言。
私は所定の位置にもどり、道着を直しました。
A君はひたすら攻めているためか、汗をかき、息もあがっています。
しかし、それは私もでした。
何でもそうですが、スポーツで疲労が溜まりやすい状況はまさに防戦一方のときです。
私はA君以上に汗をかき、息もあがっています。
そして、さっきの力技に抵抗した時に、だいぶ体力を消耗しました。身体が重くなってきているのを感じました。
道着を整える間に少し呼吸と気持ちを落ち着かせます。
試合が再開されます。A君は更に勢いをつけて攻めてきます。さらに、袖を掴めば振り回そうと強く引いたりと、どんどん荒い動きになってきました。
私は何とか捌きつつ、隙を探します。
焦りはあるものの、私はまだ奥の手を出していませんし、この3年間で一度も見せた事がありませんでした。
私は現役時代、巴投という、技が得意でした。
今のA君みたいに、動きが雑でグイグイ前に来る相手には効果的面です。
あとはタイミングだけ、、、
これまでの攻防で何度か仕掛けるタイミングがありましたが、感覚が鈍っていた事と、巴投を失敗すればカウンターで抑え込まれやすいリスクがあり、仕掛けずにいました。
しかし今は時間はありません。私自身、体力の心配が見え始めています。
A君が私の首後ろの奥襟を取ろうと前に突っ込んできました。動きが乱雑で、疲れからか上半身が浮いています。
私は今だと思い、勝負に出ました。
A君の襟を掴みそのまま体重を乗せるように背中から後ろ倒れつつ、足をA君の内膝と鼠径の辺りにかけ、巴投の体制に入りました。
入る!!これは決まる!!
試合での経験から、確信しました。
しかし、A君は咄嗟の判断で上手くバランスを保ちました。
次の瞬間には巴投は不発で私が下、A君が上になる形、つまりマウントを取られてしまいました。
動揺しつつも瞬発的に両足でA君の胴を挟み、それ以上攻撃に転じれないようにします。
体重をかけつつ、挟んでいる私の足を手で解こうとしてきます。
必死にもがきながら抵抗しているうちに、再び柔道着が乱れます。不意にA君の手が私の胸元に当たりました。
まばたきほどの一瞬ですが、A君の動きが鈍りました。私は必死ながらもノーブラなのがバレたと悟りましたが、今はそれどころではありません。
恥ずかしさよりも負けたくない気持ちが強く必死に抵抗します。
A君は私の右襟を掴むことに成功し、再び力で振り回すように腕を煽ります。
柔道着が完全にはだけ、私は上半身はTシャツだけになりました。
「待て」をかけられるのは私ですが、この時はその事を忘れ、抵抗しようともがいていました。
A君は私の両腕を掴み、畳に押し付けました。
A君の顔は、「ほらね?力でねじ伏せられてんじゃん?」とでも言いたげに口角が少しだけ上がっていました。
抵抗できない程に腕を力強く押さえつけられ、数秒後にはその腕をはなし、今度は挟んでいる両足を剥がしにきました。
何とか抵抗しようにも、体力の削れた私は、片足を外されてしまいました。
このままだと抑え込まれると思い、私は体を捻じり、うつ伏せになりますが、腕を抑えられ、逆に仰向けにされ、ついにそのまま回り込まれて抑え込まれてしまいました。
説明がしずらいですが私が仰向けで、逆方向からのA君はうつ伏せ、シックスナインの形と言えばイメージつきやすいかもしれませんね。
A君のお腹のの当たりが私の顔を潰しながら抑え込まれました。
息切れしている私は苦しく悶えました。
それでも何とか逃げ出そうと必死にもがきますが、どう足掻いても無理です。
私は凄く悔しかったのですが、息が苦しいこともあり、なくなく、、タップをしました。
A君は抑え込みを解きます。
ゼェゼェと息切れを起こしている私と比べ、A君は息が上がっているくらいでした。
「先生、、負けたけど、、まだやる?」
呼吸を整えながらA君は聞いてきました。
私は返事ができないほどに疲労しており、首を縦に振って、継続する意思をみせました。
A君は無言で元の位置にもどり、正座をして息を整えています。
悔しい。今のはまぐれだ。私は負けを認められませんでした。このままで終わりたくない。
そう思い、私はゆっくり立ち上がります。
疲労の蓄積は凄く、フラフラしました。
すぐに始めたらこの状態では負ける。
私は息を整えつつ、道着をつけなおし、考えました。今はとても不利です。
予想以上に力強く、強引で、そして、体力もあります。巴投も不発に終わりました。
本来冷静なら勝ち目が薄い状況と分かるのに、それでも悔しさが勝り、勝つ気でいました。
酸素の足りない脳は、今度はひたすら攻め続けてやると。答えを出しました。
呼吸が落ち着いてきて、私が立ち上がると、A君も立ち上がりました。
お互いに無言でしたが言葉はいらず、2回戦目が始まりました。
私は気合いを入れて声をだし、今度は攻めに行きました。
逆にA君は1回戦目の私のように様子を見るように受けに転じます。
袖を掴み、相手の組手を警戒しながら、足払い等で体勢をくずしますが、A君の体幹は中々崩れません。
スピードを重視しうごきを多くします。
A君は冷静に動きを見て対処します。
1回戦目の体力は回復出来ておらず、開始30秒程で息切れが始まりました。
身体も重く感じます。
それでも私は攻めました。
A君の体勢を崩しながら、ちょうど良く袖と襟を掴むことができ、私は払腰という技をかけますが、踏ん張られてビクともしません。そのまま後ろに返されてしまい、私は背中から倒れました。
A君は追ってこずに、元の位置に戻ります。
私は息切れしながら、すぐに起きふらつきながら元の位置にもどりました。
その後も私は必死で攻めますが、A君はビクとも動かず、技をかえされたり、振りわ回されたり。
気づけば私は息切れし体力もそこをつきかけていました。動きは鈍く、力が入りません。
そんな私をA君は、すぐに捕まえ、振り回さしてきたり、首後ろの襟を掴み下に圧をかけてきたりと、完全に私を掌握しているようでした。
あまりの疲労と一方的に為す術の無い状況に、私は悔しさを忘れ、頭の中がぼやけていました。
それを悟ったのか、A君は振り回すのを辞めて私を思い切り投げ飛ばしました。
私は抵抗もできず、なされるがままに倒されました。試合なら満場一致の1本です。
試合ならここで終わりです。しかしA君はそのまま抑え込みをしてきました。抑え込みは綺麗にきまり、もはやもがく力もありません。
体重をかけてきたため、胸の当たりが苦しく、
静寂の中、私のゼェゼェと息切れの音だけが響きます。
私はタップをしました。
A君は勝ち誇ったように、私に問いかけます。
「え?もう終わり?」
「ね?先生、、やっぱり男に勝てなかったでしよ?」
「でもさ、先生は思ったほど強くなかったね。だって中学生の俺に負けちゃうんだから」
多分悔しい気持ちがあったと思いますが、それが追いついてこない。あまりの疲労と苦しさで。
「先生、認めてよ。舐めた態度取ってすいませんでした。って。ほら、はやく。」
私はそれに答えることは出来ませんでした。というより、やはりプライドが高いのでしょうか?
認めたくない気持ちがありました。
代わりに、「、、、ぜぇ、、ゼェ、、ギブアップ、、します」と呟きました。
A君は少し黙り、そしてニヤリと笑い、
「これに懲りたら強気なこと言うなよ?」
と、、。私は、頷かないと、抑え込みを解いて貰えないと頭の中で言い訳をしつつ、頷きました。
「先生、負けたら言う事聞くって言ってたよね?」
それに答えずにいると、
「ねぇ!先生!!きいてる??」
と言いながら、頬をバカにするように叩いてきました。
私は情けない気持ちと、それとは別の何か違う感情が芽生えてきましたが、その正体には気付かずに頷きました。
すると、A君は抑え込みを解いていいました。
「じゃあさ、もう一回だけ試合してよ。今度はたっぷり可愛がってあげるから」
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