11/13(金曜日)
17時には先生達は職務を終えて学校を後にしました。私は残り番のため、そのまま職員室に。
その日の私は、朝から普段通りに仕事をしていても、ソワソワしていました。
試合を、しかも生徒と許可なくする事がバレたらという不安もありましたが、
A君の部活動の区切りとして、更生させるためという、大袈裟に言えば彼の人生を決める試合をこれからする。という事に、私は緊張していたと思います。
いつも大会の前はこんな気持ちだったかな。私は懐かしく感じていました。
そして、この緊張した気持ちを、今頃はA君も感じているだろうか?
そんな事を考えていました。
18時に私の勤務時間が終わり、全教室の窓や扉の施錠の確認を行いました。
そして荷物を持って職員室を出て、人目が無いことを気にしながら校舎から少し離れた体育館へと移動。
外はすっかり暗くなっていましたし、体育館の中は更に暗くなっていました。
少し細かい話になりますが、体育館は簡単に言うと、1つの建物の中に、2つの建物があるイメージで、「コート場」と「格技場」の2つに別れていました。
コート場は1階が卓球や筋トレ設備、2階がバレーボールやバスケットができる施設。
格技場は1階が相撲と剣道、2階が柔道場。という感じです。
私は柔道場に着くと、やはり暗いのですが、月明かりが窓から入り1階や廊下に比べて遥かに明るく感じました。
時刻を見ると18:30。約束の時間は19:00なのでまだ少し時間があります。
私はA君が来る前にと思い、直ぐに柔道着に着替え始めました。
私は現役の時は柔道をする時はブラトップ(ブラのついたタンクトップのようなもの)を着用していました。胸の大きい人ならブラジャーとかで固定した方がやりやすいかもしれませんが、私は小ぶりな胸だったため、ブラトップが1番動きやすく感じていました。
しかし、使用していたブラトップは今は実家に置いてあります。
舐めているつもりはありませんが、今日の試合はブラジャーにTシャツでも十分動きに問題なく、勝つことが可能だと思っていました。
が、それでもやはり心のどこかでは万が一を考えていましたし、A君には全力で相手をしてあげたい気持ちもありました。
そして、柔道場の薄暗さをみて、「これならノーブラでもA君には見えないし分からないだろう」と、確信をしました。
なので、A君が来るまでにノーブラのTシャツ、下はパンツ。その上から柔道着を着ました。
やはり、思った通りでブラジャー着用よりもノーブラの方が違和感も少なく、動きやすいと思いました。
そして、軽く柔軟や準備運動をしていると、階段をのぼる音が聞こえました。
その音を聞いて私は「いよいよ来たのだ」と心が高揚しました。
柔道場に姿を現したA君は、パンパンに膨らむ学校指定のスポーツバックを肩にかけていました。
「先生、こんばんは。」
軽く会釈をしてA君は柔道場を見回しました。
「へぇ、、、確かに電気つけなくても大丈夫そうっすね。」
A君はスポーツバックから自分の柔道着を取り出し、着替え始めました。
「準備運動は?」
私がA君に尋ねると
「あー、、そうですね。怪我はしたくないんで、時間かけてしたいですね。」
と。続けて
「先生も準備運動は念入りにした方がいいっすよ。久しぶりの試合でしょ?先生に怪我させちゃうかもしれないんで」
と言ってきました。
発言の意図はともかくとして、確かにお互い怪我をする事は避けたい。私はA君の言葉に同意しました。
本来の試合前ならペアになって軽めに打ち込み稽古や軽めの乱取り稽古をしますが、それはせず、各々が各々の準備運動をしました。
11月中旬の夜の柔道場は少し肌寒いのですが、準備運動をしている内に、お互いに身体が温まってきました。
時刻は19:30過ぎ。
動きながら、私はA君に事前に確認して決めたルールを、もう一度確認をしました。
・A君の気持ちの整理が着くように、制限時間は設けない。どちらかが1本を取ったら一区切りとして、少し休んでまた再スタート。どちらかがギブアップと言うまで続ける。
(本来の中学生の試合時間は3分です。)
・禁止なのは関節技(中学生では関節技は禁止になっているため)
・場外はどちらかの身体が試合範囲の枠となっている赤い畳をでたら、そこで「待て」として、元の位置に戻る。
・技の判定は試合しながら私が判定する。
以上が大まかなルールです。
A君はOKです。
と短く返事をしました。
薄暗い柔道場ではそこまで見えませんが、どことなく普段よりも硬い表情でした。そして口数も少なく、緊張しているのが分かりました。
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