6日目
ユキは仕事が終わると足早に相田のいる部署に向かった。
ユキの所属している部署と違って相田の所属している部は定時で帰るのは難しい。
ユキは相田を見つけて、あたかも仕事の話があるかのように声をかけた。
相田は突然のことに少し面食らった様な表情を見せた。そして、ユキの促すジェスチャーに従い、素早く席をたち、ユキに着いていった。
ユキについて行くと誰も居ない社員食堂にたどり着いた。
「あの、相田さん、、」
「うん、来週の話、、、だよね?」
ユキが要件を言う前に相田が遮って言った。
ユキは頷いて、相田が説明するの静かにを待った。
「あまり誰にも言わないで欲しいんだけどね?
実は友達の誘いで初めて馬券買ったんだけどさ、そしたら大当たりしたんだ!!」
相田は少し嬉しそうに身振り手振りで話した。
誰にも言わないで欲しいと言う割に、相田の声は高らかだった。
「18万円勝ったんだけど、その日のうちに友達と呑みに行ったから5万円使っちゃって、、、。
競馬誘ってくれた友達に奢りたかったからさぁ。」
ちょっと申し訳なさそうに、言い訳がましく相田は言いうと、呼吸を整えて話を続けた。
「でね、僕その時に思ったんだけどさ、、本来僕は大金を手にしちゃいけないタイプだと思うんだ。なんて言えばいいのかな?
金銭感覚が狂いそうだし、浪費しそうで怖くなっちゃって。。」
ユキは口を挟んだ。
「つまり、当てたお金は要らないんですか?」
相田は優しく微笑んで答えた。
「うん、要らない。というより、、、最初は親に仕送りしようと思って電話したんだけど、賭けで稼いだ金なんか要らない!!って怒られちゃって、、笑」
ユキは頷くことで話を促した。
「で、貯金に回そうかと思ったんだけど、、そういえばユキさんが金銭的に大変みたいな事を言ってたから、それで。」
ユキは話の統合性に違和感を感じる事無く聞いていた。むしろ、ユキの中の相田という人物像に直結して納得出来ていた。
そして、このお金がたまたま当たった賞金という事は、、、つまり1度きりの大金である事を考えた。
ユキからすれば、いくらお金の為とはいえ、ブサイクで汚い男と定期的に会う事は耐え難い事だった。
それに、定期的に会って金をせびる事は、1、2回せびる事よりもリスクが高く、いざ切り離す時に面倒である事も考えた。
だからこそ、この1回限りの金を得るチャンスにユキは興味を持ち、どうやって得るか?その後どうやって切り離すかという計画を既に立て始めていた。
「でもさ、、1つ問題があるんだけど、、、。」
ユキは今まで見せた事ない、柔らかな口調で、すっとぼけた様にわざとらしく聞いた。
「問題?なぁに??」
「いや、、これ、ある意味賭け事で稼いだお金でしょ?そんなお金だとユキさん的には嬉しくないのかなって、、、。」
(チッ!)
心の中でユキは舌打ちした。
この手の質問に答えるのは面倒だし、しのごの言わずに早く金を渡せ!と苛立った。
「私は、、、そんなの気にしないけど、、。
でも、いいの?そんな大金。」
ユキは相田みたいに「話したいタイプ」には、簡潔に答えて質問する事が効果的だと知っていた。
相田がどう思っているかを話させる方がいい。
そう考えていた。
「うん、幸い貯蓄はあるし。
正直、、、いきなり大金が入ってきた事が怖くてしょうがないんだよ。
ユキさんの生活の足しになるのなら、そっちの方がいいとおもってさ。
ほら僕、ユキさんになんでも言ってね!って言ったしさ。」
ユキは既に10万円を貰う気でいた。
しかし敢えて、
「ありがとう。本当に、、気持ちが凄く嬉しいよ。でも10万円は私にとっても大金だし、いくら相田さんが良くても心の整理がつかなくて。。。
少し考える時間を貰ってもいい?」
ユキは答えを後回しにした。
相田はちょっと驚いた様な顔をしたが、直ぐに笑顔になって、
「ユキさんこそ優しいね。
うん、大丈夫だよ!ちゃんと取っておくから。あ、でももし大丈夫なら、、、次の食事に行く時までには決めておいて欲しいな。」
相田がそう答える事はユキにとっては想定内だった。だから用意していた笑顔を作り、
「ありがとう。分かった!次食事行く時までに考えとくね!」
と答えた。
その後ユキは帰路につき、相田は仕事に戻った。
相田は目の前の作成書類を仕上げる前に、スマホを取り出し、LINEを打った。
「お疲れ様です。ほぼあなたの言う通りのやり取りでした。予定通り、返事は次の食事までになりましたし、食事の約束もなんの抵抗もなく済みました。」
相田は一読して漢字の間違いがないか見てから送信ボタンを押して仕事に向かいあった。
「彼」が言っていた通りの展開になった事に、少しだけ寒気を覚えたが、相田は既に覚悟を決めていた。
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