街中を抜けてしばらく走ると、急に畑ばかりの風景に変わった。
さらに走ると道が細くなり山間になったのか、道の両側にまばらだが古い民家が迫り出すように立ち並び、その姿を見せるようになってきた。
よく見ると細い電線を猿が渡っている。
野生の猿を見たのは初めてで、その姿を目で追っているとあることに気づいた。
周囲に点在する柿の木や民家の屋根の上、そこかしこに猿の姿があるではないか。
こんなにも野生動物が人間社会に溶け込んだ生活は、この地ならではなんだろうな、玲子はそんな風に思いながら車のハンドルを握っていた。
海沿いに出ると急に視界が開け、走らせる車から近かった海面がどんどん下っていく。
いつしか道は登り坂になり、かなりの崖になったのが分かる。
いくつかのカーブを抜けると、崖の側に適度に広がった土地がある。
小さな白い建物が建っているのが見えてきた。
減速をしてハンドルを切ると、車を駐車スペースにすべり込ませる。
目指していた喫茶店だった。
いつだったか映画のロケ地にもなっていた筈だ。
今ではバイク乗りたちの聖地になっており、玲子のようにふらりとドライブで立ち寄るドライバーの休息地にもなっているとか。
玲子は先に停まっていた古いスポーツカーの隣に自分の車を駐車した。
玲子の車もそれなりの旧車で、80年代後半の小さな車種はミニ・クーパーと呼ばれている。
木造建築の喫茶店に入ると女性店主に迎えられ、オリジナルプレンドのコーヒーを注文した。
海を見下ろすように崖の上に建っているので、窓際の席に腰を降ろす。
手造りらしいカウンターテーブルにコーヒーが運ばれてきた。
香りを楽しみながら一口啜ると、適度な苦味と酸味が舌を喜ばせてくれた。
玲子の後ろを先客が通り過ぎる。
料金を支払って店を出ていった。
先に停められていたあの古いスポーツの持ち主だろうかと見ていたら、やはりそうだった。
まだ20代……もしかしたら30代になっているかもしれない。
女性にモテてそうなハンサムな顔立ちをしていたが、あまり生気を感じさせず寂しそうな雰囲気だった。
車に乗ってからもその場から動こうとせず、呆然と海を見ている。
玲子は胸騒ぎがした。
彼が車を降りるのが見えて、玲子は急いで料金を支払い店の外に出た。
彼は柵のある崖っぷちに立ち、微動だにせずに強い風にあたっている。
やがてその柵に手をかけて跨ごうとするのを見て、彼の服を掴んで後に引き倒した。
彼は玲子が近づくのにも気づけない、それほど思い詰めていたのかもしれない。
…………何があったのか知らないけど、こんなところで死なれたらお店の人が迷惑だと思わないの?
暗い目をした彼が、玲子を見上げる。
落ちついてから話を聞いた。
まだ20代後半の若い彼は、駆け出しの映画監督なのだと話してくれた。
よくある話、制作費を全て持ち逃げされて金策に走るもどうにもならず、ついに闇金に手を出したらしい。
膨れ上がる借金を制作した映画で、返済は十分に可能なはずだった。
彼はその世界では名のしれたインディーズ映画の監督なのだという。
だが役者同士がデキてしまい、出演を拒否されてしまって暗証に乗ってしまった。
あってないようなギャラしか出せないとなると、新たな役者はとても呼べないと。
すでに首が回らなくなった状態に陥ったことを見抜かれ、自己破産しないように見張られているという。
返済ができないのなら海外行きのキップが待っている……逃げられないよう、付き添い付きで……。
恐らく彼は体のパーツを抜き取られ、再び生きて日本の地を踏むことはない。
天涯孤独だという彼は、自分がいなくなっても困る人はいないらしい。
どんな作品を制作していたのかを聞いたら、玲子も作品の一つを見たことがあったのだ。
そういえばインディーズ作品だったことを思い出し、感銘を受けたことを彼に伝えても寂しく笑うだけだった。
彼を救いたい気持ちはあるが、どうしたらいいか玲子には分からない。
試しに聞いてみた。
すると彼は自分を朝笑いながら、こう言った。
利益を求めるとなると、ポルノ紛いの作品しかないという。
本番行為こそないが、如何にリアリティを出せるかによって売上は左右されるのだという。
それにはやはり演技力があり、見た目にも美女でなければならない。
それなりのギャラも必要だった。
玲子は胸が苦しくなった。
数年前の自分を見るようで、ある意味自分よりも深刻な状況にある彼を、話を聞いてしまった以上は放おっておけなかった。
自分が見捨てれば彼は………。
そうかと言って玲子にはその手の知り合いもツテもあるわけがない。
結局こうなるのか………暗い気持ちで彼に聞いた。
私じゃ需要はないかしら…………。
2、30代じゃあるまいし、断られると思っていた。不思議な顔をした彼が、何を言い出すんだと言わんばかりに玲子の顔を見る。
尻餅をついていた彼は立ち上がりながら、 玲子の姿を見始める。
今更ながら玲子の美しさ、その美貌に気づいた彼が後ずさりを始める。
ーーーそりゃあなたくらい綺麗な人ならさ、何の文句はないよ。
でもあんた、何者だよ。本当は色気で俺を捕まえて連れて行くつもりなんだろ?奴らの手先なんだろ、あんた?
いきなり美味しい話を持ちかけられて、警戒したくなる気持ちは分かる。玲子も散々騙されてきたのだ。
玲子は仕方なく過去に経験した出来事を、彼に話して聞かせた。
聞き終えた彼は話があまりに壮絶過ぎて、信じられないと玲子を睨みつけた。
だがよほどの役者でもなければ玲子は辻褄が合わない、そんな態度だった。
握りしめた手は血流が滞り、白くなっている。
唇を僅かに震わせて逸らすことのない、その綺麗な目には涙が滲んでいた。
事実らしい………信じられなかったが、自分の状況を鑑みればこの日本で起こっても、何ら不思議ではないのかもしれない。
ーーーあなたに縋ってもいいんですか?
…………それで、あなたが救われるなら。
ーーー売れ行き次第だけど、ある意味、良い作品になれば借金を返済しても利益は残ると思います。それを全部、あなたに差し上げます。
玲子はお金に関しては信じないことにして、笑顔で応えた。
彼も玲子は信じていないと感じたが、何としても利益の残る作品に仕上げ、玲子に渡すことで証明しようと決意していた。
彼にとって金は何かをするための手段でしかなく、自分の作品ほどに魅力はないのだった。
後日2人は外見は倉庫、中は撮影スタジオ、そんな場所にいた。
ここは一般に業界人にレンタルされて、ドラマや映画、はたまたAVの撮影……と、幅広く使用されているらしい。
家具から何から全てのセットが揃っていた。
彼は監督もカメラマンも、そして役者もこなさなければならない。
玲子は一つだけ条件を出した…顔が分からないようにと。
目線はあり得ず、ボカシなどは安っぽいAVのようになってしまうという。
今はAI技術でいくらでも修正が施せるとあって、修正前のオリジナルは完成の後に、玲子の手に渡される約束になっている。
撮影が始まった。
年齢差のある2人が許されざる恋に燃える、そんなインディーズらしいストーリー設定だった。
撮影中でも彼の指示があった。
その場面は全て編集されるのでおかしな感じだが
、その通りに演じた。
ソファにて並んで座る彼、がいきなり唇を重ねてきた。
人目を忍ぶ恋人らしく激しく舌を絡ませる官能的なディープキス。
いつまでも服の上からしか触ってこない彼に、業を煮やした玲子は手を取ってニットの中に引き入れる。
それでも遠慮勝ちにしか触らない彼に言った。
リアリティを出すんでしょ?もっと露骨に愛撫して。分かってる、演技でしょ?
再び彼と舌を絡ませながら彼の手を豊かな乳房へと、自然に見せかけて誘導していく。
ニット中でブラジャー越しの乳房を揉みほぐす。
鼻息荒く玲子は感じて見せる。
ニットの裾を掴んだ彼がいいか?と、目顔で聞いてきた。
態度で了承すると、捲りあげられてレース仕立てのパールブルーのブラジャーが露わになった。
それがずらされて愛撫を受けるシーンへと流れる。
ちゅぱちゅぱと音を出して白熱の演出が続く。
実際は乳首にも触れず、その周辺を舐めているに過ぎなかった。
歯痒くて玲子は彼の頭を寄せて誘導するが、巧みにバストトップを避ける……あくまで演技だった。
彼の鼻先が触れる……不可抗力だが疼きが増すだけだ。
スイッチを容れられて乳首はとうに勃起をしていたが、彼の股間も反応を起こしている。
彼の頭で隠れる角度になっているからか、彼の口はそこには触れてはくれなかった。
彼がソファから降りる。
玲子ので膝を開き、目顔でいくよ?と伝えてくる。
彼の顔がギリギリまでスカートの中に入った。
ブラジャーと揃いのショーツを目のにして、彼はどういう気分なのだろう。
カメラはクンニを受ける玲子を映し出し、スカートの生地を押し上げる頭が動く卑猥さを克明に撮っている。
決して触れようとしない彼の頭を、玲子は思い切って押しつける。
素人だからいくらかその気にならないと、演技にも見えないから………そう前もって彼には伝えていた。
胸は巧みに避けられたが、下半身は逃げられない。
本気とは思えないあくまで彼の演技だが、彼の口が気持ちの良いところを刺激する形になった。
勃起を果たした大粒に気づかない筈はない。
ショーツ越しにも分かる大きさと硬さ、その存在感に触れずにはいられなくなった。
彼女もこれくらいなら許してくれる、そう過大解釈した彼の愛撫が始まる。
唇で甘噛みをしてみせ、ショーツ越しに擦り上げる。
頭に手を添えて腰をうねらせる玲子、久しぶりのクンニリングスだった。
すぐにクロッチを滲ませてしまった。
彼女を必要以上に辱めたくなくて、ここまでに留める。
スカートの中から抜け出した彼は、玲子の顔の前に仁王立ちになった。
ーーーする真似をしてください…どうせカメラからは見えませんから
そう言った彼のズボンに手をかけて、ファスナーを下げる。
下着に手をいれると彼が腰を引いてびっくりしていた。
ーーーそこまでする必要はないですよ、フリでいいんですから
…………あたしは素人なの、ブッつけ本番でそれらしくなんて無理よ。
リアリティを出さないと売れないんじゃないの?
だったら恥ずかしがってないで、女のあたしがここまでするんだから我慢して。
ーーーいやっ、我慢とか恥ずかしいとかじゃ…………あっ…
彼の本意は理解している、私を騙そうなんて邪なことは考えていない。
私に負担をかけないように、ひたすら考慮していてくれている。
リアリティよりもリアルなほうが、良いに決まっている。
どうせカメラからは見えないのだ。
実は本当にしているんじゃないかと思わせるには、本当にしたほうが早い。
取り出したペニスを躊躇せず、口の中に入れてしまった。
尿と蒸れた特有の悪臭が鼻を突く。
彼の腰に手を添えて、玲子は頭を前後に振り出した。
ーーーちょっちょっと…ちょっちょっあっ…
言うことを聞かせるには、感じさせればいい。
培った玲子のフェラチオのテクニックは、伊達ではない。
ペニスの形に隙間なく唇の粘膜を密着させ、強弱をつける。たったこれだけのことだが、れだけの女性が忠実に出来ているのだろう。
玲子は完璧だった。
鬼頭に舌を這わせ、舌の裏側も駆使して球体に近い表面をくるくると回す。
間髪入れず根本まで飲み込み、そして鬼頭を攻める。
並の男性は5分と持たないが作品の性質上、彼を持続させなければならない。
彼には申し訳ないが、散々翻弄させてから射精に導いた。
本当にしていたと分からなくする為に、玲子は飲み込んだ。
立ち上がった玲子は立ち位置を入れ替わり、彼をカメラから隠してソファに座らせる。
その目の前でスカートに手を入れ、自らショーツを降ろしてみせた。
………こういうシーンがあると、リアリティが増すでしょ?
そう言うと玲子は彼の両膝を跨ぎ、そのうえに座った。
それなりの丈の長さが下半身を全て、覆い隠す。彼の肩に手を添えて、腰を前後にゆっくりと動かして見せる。
割れ目に埋まった彼のペニスが腰の動きに合わせ、小陰唇…大陰唇を掻き分けて粘膜を移動する。
クリトリスを行き過ぎるたび、得も言われぬ何かが玲子にもたされる。
速度を上げて一段と卑猥となった腰つきは、見る者を惹きつけるに違いない。
動きを止めて、玲子は腰を浮かせた。
スカートに手を入れて見せる。
見るものにはペニスを上向きにさせ、標準を合わせているように見える。
そして………腰をゆっくり降ろしながら顔を上げる、そんな仕草を玲子は見せた。
実際には………入っていた。
玲子の感じる仕草、彼の耐える表情、玲子の体の動き、そのすべてがリアリティを持つ迫真の演技となって映る。
だがリアリティではなくリアルなのだから質が悪い。
存分に彼のペニスを味わい、喘ぐ彼に構わず玲子は可能なかぎり腰を動かした。
堪らずに射精をしたように見えるシーンも実際にしているのであり、ほとんどインターバルを設けずに動かされて苦悶に歪む彼の表情は本物だった。
見かけによらず彼は、どうにか4回までは耐えた。
萎える間を与えないために、深くまで飲み込んで子宮口に擦り続ける。
男性とは思えない声を上げ、壊れゆくそのさまをカメラ入って克明に撮影していた。
射精のときになっても、もはや枯渇した精液は出ない。
その感覚に苦しみながら射精感を味わうというのは、玲子には分からなかったが。
彼が廃人になる前に、玲子は腰を上げた。
製品になったエイぞには、スカートを上げて丸出しになった玲子の尻が映し出されていた。
性器が映らないようカメラワークがなされ、画面からギリギリ外れていた。
ただ、流れ落ちていく精液はそのまま映し出されていた。
濃厚さと水っぽさが混ったそれは塊のようになって糸を引きながら流れ落ち、液体状の゙精液が垂れ落ちるとまた濃厚なのが繰り返し流れ落ちた。
一部のマニアには評判が拡がり、本番行為だと騒ぐものが跡を絶たなかった。
だが現代のテクノロジーなら、あの程度のリアルさを作り出すことは容易いとする声も根強くあり、結局は精巧に制作されたフィクションとして落ち着いた。
約束通りオリジナルは玲子に渡され、作品映像には顔の違う別人女性が映し出されていた。
玲子の願い通りに作品はヒットして、彼は借金から脱却を果たした。
彼は馬鹿正直に残りの利益を玲子に持ってきたが、極少量だけを受け取るとあとは全てをその場で返してしまった。
…………あなたの人生に役立てて。
そう言い残して、玲子はその場から去っていった。
彼は天使と悪魔が混在したような、そんな美しい彼女を今でも事あるごとに思い出す。
もうあんな拷問のようなセックスは、御免だ………そう思うのに、実態のなくなった射精をさせられ続けた地獄のような快感を思い出すと、勃起を収めるのに苦労するのだった。
彼は思った。
適度がいい…………適度ならいいのに、と。
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