乾燥した風が頬を優しく撫で、髪の毛を少し跳ね上げさせて通り過ぎる。
紅葉をした街路樹が並ぶ通りを歩いていると、趣のある大きな建物が右手に見えてきた。
美術大学らしい石造りの外見は歴史を感じさせ、キャンパスからは学生たちが行き来する姿が伺えた。
玲子は出先から戻る途中だった。
何度も来たことのある街なのに、じっくりと街並みを意識して見たことがないことに気づいていた。
冬の足音が近づくこの季節がこんなに美しいなんて、忙しさにかまけて気づかなかったなんて、思わず溜息をついた。
ほんの数分だったが立ち止まって空を見上げ、冷たい空気を吸い込む。
進藤玲子は40手前になっていた。
親の借金を完済すると忌まわしい日々からは開放され、あの男からの接触は絶えた。
20代を過ぎて30代という女盛りを忘れることのできない日々に費やさなければならなかったが、肩の荷が下りてしまうと不思議と空虚感が残った。
半分は吐き気を催すようなことばかりだった。
もう半分は……あの望まぬ快楽にいつの間にか飲み込まれ、脳と体に記憶されてしまっていた。
感じやすい体質を呪ったこともある。
だが、だからこそ現実逃避から真正面に受け止めることができたのかもしれない。
あのめくるめく快感に逃げなければ、精神が崩壊していただろうと思うのだ。
その結果、進藤玲子には副産物が残された。
体はすっかり開発が進んで感じはじめたが最後、否応なくオーガズムに突き進むようになった。
公共交通機関を利用すればどういうわけか、学生のころよりも痴漢に合うようになってしまった。
男を惹きつける魅力を纏ってしまったかのように……。
玲子はそのたびに相手を払いのけた。
それでも年に数回は強者に遭遇することがある。玲子の鉄壁を崩されてしまうと女の部分を覚醒させられる。そうなると踏みとどまることは不可能になり、淫靡な世界に誘われてしまう。
そういう輩は味をしめると目的を達成しようと、さらなる手を打ってくる。
再び遭遇するときには数人を引き連れ、玲子を囲んで行為に及んできた。
両手は拘束され、大粒で存在感のあるそこを触り心地良さそうに攻めた。
玲子は努めて平静さを装うしかなく、それでいて体ば真逆の反応を示す。
憤りに燃える眼差しは冷たく相手を突き刺しながらクリトリスに触れる指に膝を震わせ、挿入された指の蠢きに理性は薄れゆく。
あとは順番にペニスを挿入されていた。
これまで若い女の子たちを散々毒牙にかけてきたであろう痴漢師たちは、玲子に魅了されることになった。
堅く閉ざした肉の輪をやっと潜り抜けた錯覚を覚える膣口を潜ると柔らかな粘膜に包まれ、すぐに入口が締つけられる。
膣壁全体が拷問機さながらに奴らを翻弄する。
ある者は玲子の片脚を持ち上げ対面で、ある者は柔らかな尻の肉をクッションにしてペニスを突く。挿入を果たした皆が一様に苦悶の表情を浮かべ、絡みつかれる極上の感触に酔いしれた。
若い女の子の狭い膣もいいが、体を絞りインナーマッスルや骨盤底筋を鍛えられた玲子の中は次元が違った。
入口は言うまでもなく、全体的に強弱をつけて締まるのだ。
切なそうでいながら呆けたように甘い表情を見せ、嫌々をするように頭を振る。
心底気持ちよさそうに頭を反らせて感じる玲子の色気に、痴漢師たちは興奮した。
内腿に伝い落ちる白い精液が床に落ちる前に、次のペニスが挿入される。
普段なら自分が済めばそれで次のものに移るが、あまりにも良くて2回戦に及ぶ者まで出た。
気が付くとベンチに座る自分を駅員に揺さぶり起こされるということが、これまでに2度経験させられた。
回想から現実に戻った玲子に午後の西陽が当たる。
目を細めて歩き出したところだった。
ーーーあのう、デッサンモデルに興味はありませんか?
聞くと目の前の美術大学の学生らしく、モデルを募集しているのだという。
同じ学生がモデルを務めることもあるが、一般でもアルバイトで募集もかけているのだとか。
………わたしよりももっと適任の人がいると思いますよ?
ーーーあっアタシここの3年生なんです、お姉さんならぴったりなんです、ダメですか?
学生でも男性だったら断っていただろう。
同性の学生にモデルとしてぴったりだと言われ、嫌な気持ちなわけがない。
ただ、ヌードモデルも考えて欲しい……思わぬことを言われてさすがに考えてしまった。
ヌードモデルといっても芸術であることは理解できる。
もっとも初めから裸体のすべてを晒すわけではなくて果物や壺、布張りが用意されるらしいけど。
どうして承諾してしまったのだろう。
以前の淫らな体験を思い返していたからか、もう半年以上も男性と交わっていないからだろうか。
芸術の場を捌け口にしようと思ったわけではないが、無意識に性的な匂いに吸い寄せられてしまったのだろうか。
2週間後の今、玲子はキャンパスの中を歩いていた。
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