真希「彩香おはよ~!元気になって良かったよ~!」
彩香「おはよう!うん…もう大丈夫!真希のおかげだよ…。ありがとうね!」
真希「な~に言ってんの!もうすぐ文化祭なんだから、彩香も楽しまないと♪」
手術の後、原田からの連絡はパタリと止むように来なくなった。
術後数日間…腹痛、膣の痛みが激しく、さらには全身の筋肉痛に悩まされた彩香。さらに浴室で鏡に映る自分の身体を見た時、大腿部や腕に痛々しい赤い筋が残っているのに気がついた。彩香はロープによって吊り上げられた傷跡だとは夢にも思わなかったが、産むことができなかった赤ちゃんの痛みと比べれば、と目を閉じ、痛みに耐え続けた。
その後数日が経過すると、幸いにも術後の経過は良く、下腹部の違和感も徐々に治まり、ロープによる赤い筋も次第に跡形もなく消え始めていた。
精神面はもちろん、肉体面もまだまだ万全とはいえない彩香だったが、これ以上両親にも心配をかけたくないという思いから、術後2日間だけ学校を休むと水曜日には登校を始め、早くも1週間が経過していた。
(あたしも……日常を取り戻したい…!)
自分を犯した飯塚、増田、2年の3人も何事も無いかのよう練習に参加していることや、健人が怪我で練習には参加出来ずに見学をしていることが理由で、部活には一度も顔を出さなかったが、少しでも前向きにこの期間を楽しむことを決め、勇気を出して登校したのだった。
心配してくれるクラスメイトも多く、常に体調を気にかけては元気付けてくれる親友の真希のおかげもあって、彩香は少しずつではあるが元気を取り戻し始めていた。
そんなこの時期…学校は1週間後に迫る文化祭の話題でいっぱいだった。
星降祭…照星高校の生徒たちが一年の中で最も盛り上がる丸3日間の文化祭。
病み上がりの彩香だったが、学級委員を任されていたため、準備作業に追われていた。
「ねぇねぇ!星は誰に渡す?」
「ロマンチックだよね!交換できたら両思いなんだって!」
「あたしも交換してみたいなぁ~!」
文化祭の準備中、女子生徒たちが盛り上がっていた話題。
文化祭というイベント自体が楽しみで盛り上がっているのはもちろんだが、星降祭にはお年頃の高校生達にとって2つの目玉イベントがあった。
その一つ目が照星にちなんだ星型のバッジの交換だ。
文化祭初日に生徒全員に星型のバッジが配られ、男子には青い星を、女子には赤い星が配られる。
その星のバッジを好きな者同士で交換出来たらカップルが成立する、というものだ。
交換はどのタイミングでもいいが、2日目の本祭の夜…キャンプファイヤーが終わった後に好きな生徒に告白し、星を交換し合うのが人気の告白方法だった。
「お前、彼女とカップルルーム行ってみろよ!」
「噂では隠れてイチャイチャしてるカップルも多いらしいぜ!」
「あ~!男子って本当にそういうことしか考えてないよね~!」
女子生徒に対して男子生徒が特に盛り上がっていたのが、二つ目の目玉、カップルルームというもので、厳密には一般的な教室よりも広い多目的室という部屋を間仕切りで簡易的に区切ってあり、各々が休憩所として使えるようにしただけの場所なのだが、本祭で星を交換したカップル達が、後夜祭の日にそこに行き、静かに愛を確かめ合うというのがもっぱらの噂だったため、カップルルームなどと呼ばれていた。
女子は星を交換する淡い恋愛を、男子は交換した後の女子との戯れを想像して盛り上がっていた。
もちろん、彩香もこの話を聞いたことがあり、この年、照星に入学した1年でさえみんな知っている情報だった。
(もし…健人くんと…交換出来たら…。)
彩香はそう思いつつも、健人を傷つけて、健人を諦めた私が今更何を言っているんだと自分を戒めた。
そんな時、一緒に準備をしていた真希が話しかけてきた。
真希「どうしたの?神妙な面持ちで!彩香は渡す人、いるの~?」
彩香「え!あ…そんなんじゃないよ!ただ…そんな人いたらいいなぁって思って…。」
真希「え~?そんなこと言って、本当はいるんじゃないの~?…あたしはね、実は…渡したい人いるんだ…!」
彩香「え?うそ!いいなぁ~!…誰?誰??」
親友の恋愛話には、普段あまりはしゃぐことのない彩香も胸を躍らせる。
真希「それ聞く~?…じゃあ…彩香だけに…言うね…?」
真希が彩香の耳に口を近づけて、声をひそめる。
真希「同じクラスの…田島くん…。」
彩香「…!!」
彩香ははしゃいでいた気持ちが嘘のように、一瞬背筋が凍りついてしまうような感覚に襲われた。
(真希の…真希の好きな人が…健人くん…?)
彩香は一瞬、自分と健人と交際していたことを真希に知られていないか心配になった。
しかし、2人が交際していたことはバスケ部員にこそ知られていたが、健人も彩香もそのことを誰かに吹聴するような性格では無く、交際期間も短かったために、知らなくても不思議ではなかった。
それに何より、自分の好きな人を彩香に伝えて耳から顔を離した後、火を吹きそうなほど顔を真っ赤にして恥ずかしそうに見つめる真希の姿に、彩香は真希が本気であることを悟った。
彩香「…すごく…いいと思う…。あたし、応援する!」
彩香は自分の気持ちを悟られないように真希にそう伝えると、真希の表情はさらに明るくなった。
真希「ホント!?ありがとう彩香~!…じゃああたし、キャンプファイヤーの後に田島くんに渡しちゃおっかな…!」
真希の満面の笑みに、彩香も笑顔で応えた…。
一方…2人と同じ部屋で準備をしている健人は真希の気持ちなど知るはずもなく、彩香と同じく星について悩んでいた。
(星の交換か…。オレが渡したいのは…彩香以外にはいないけど…彩香は受け取ってくれるだろうか…。もし受け取ってくれるなら…その時にもう一度彩香としっかり話をしよう。)
しばらく休みがちだった彩香が登校を始めたのを見て、一刻も早く部活にも参加してもらえるようにと健人も治療に専念していた。医者も驚く回復力で、すでにギプスを外し、松葉杖を使わずとも歩ける状態になっていたが、それでも医者からは部活動への復帰は時期尚早と止められていた。
(彩香にダサい格好ばっか見せられない…早く足を治して…復帰しないと…!)
ダメ元であることは分かっていても…たとえ嫌われたとしても、健人は文化祭という絶好の機会にもう一度彩香に想いを伝えたいと思っていた…。
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その日の放課後…。
教室から帰ろうとする彩香を健人は呼び止めた。
健人「彩香!!」
彩香「…!!」
健人「彩香…ちょっと話があるんだけど…いいか?」
彩香「…健人くん…あたしとなんか…喋っちゃダメ…。」
真希を応援すると言った手前、健人と話しづらくなってしまった彩香は素っ気なく答えた。
健人「なんだよそれ…。とにかく、ちょっと話したいことがあるんだけどいいか?」
彩香「…え…け、健人くん…!」
健人は返事を待つことなく彩香の手を握ると、人気の無い校舎裏へと彩香を引っ張っていった。
彩香「ちょっと!……急にどうしたの?」
健人「ごめん……でもオレやっぱり、彩香のこと諦められないんだ…本当に気持ち悪いし…しつこいよな?…オレ…。」
彩香「そ、そんなこと…ない…よ…。」
(そんなことない…健人くん…。悪いのは全部…あたしなの…。)
俯いて答える彩香に健人は本題を切り出した。
健人「あ、あのさ。オレ、文化祭の…アレ!あの…星!あるだろ?…それなんだけど、彩香に渡したいと思ってる。」
彩香「…!!」
顔を上げて驚いた彩香は、すぐに自分もそのつもりだったと答えたかったが、今更そんな都合のいいことは言えない。
さらに、親友の真希のことを思い、彩香は自分の気持ちを押し殺すように黙って俯いた。
健人「本祭のキャンプファイヤーの後…彩香が嫌なら来なくていい。オレ、バスケ部の部室で待ってるから。…ごめんな!無理矢理連れてくるようなマネして。それじゃあ、また明日!」
彩香「え!あ、ちょっと…!」
彩香の制止を振り切るように、健人はニコリと満面の笑みを彩香に見せると、いつものように部活の見学に向かった…。
健人が去った後、彩香は部活には行かずに学校から帰宅した。
夕飯を食べた後、ゆっくりと湯船に使って一日の疲れを癒すと、いつものパジャマに着替えてベッドに横になる。
(健人くん…なんであたしなんかに…まだそんなに優しくしてくれるの…?)
健人の優しさに涙が目に滲む。
健人の気持ちを裏切ってばかりの自分が、健人を想う資格などない。
親友の真希のためにも、もう健人を想ってはいけない。
彩香はそんな風に思っていた。
しかし、そんな風に思えば思うほど頭から離れない、健人のあの笑顔…。
(あたし…やっぱりまだ…健人くんのことが……!)
彩香の体の奥で、何か熱いものがジンジンと疼く…。
火照るように身体が熱くなると、彩香の腕は明確な意思を持ちながら、身体をなぞるように下半身へと向かう…。
入学して間もなく水泳部の倉庫で男たちにレイプされて以降、様々な男たちの性欲を満たすため、毎日のように性行為を強要されてきた彩香にとって、原田からの連絡も来ないこの期間は、いわば初めて与えられた自由、夢にまで見た一般的な女子高校生の日常だった。
普通の女子高校生として勉学に励み、部活に打ち込むことも、文化祭を心待ちにすることも、甘酸っぱい恋愛だって出来る。
約半年ぶりに彩香に与えられた、男達との性行為等とは無縁な日々を送れる、かけがえのない期間…。
だが、それを許さなかったのは他でもない、彩香の身体そのものだった…。
性行為が彩香に与えたものは、恐怖や痛み、羞恥、汚辱、屈辱だけではない。
性の悦び…。それは今の彩香にとって、レイプされた凄惨な記憶や、失恋の痛みさえ一時的に忘れさせる麻薬のような危険で甘美な快楽…。
その行為は己の愛欲を満たし、安堵や快感をもたらすことも彩香の身体は覚えてしまっていた。
(健人くん…っ……健人くん……!)
健人を想う度に身体の火照りが強くなる…。彩香の腕はパンティに滑り込み、指はパンティの中で疼く性器を優しくなぞり始めた…。
彩香「……ひぁっ………んっ……くぅっ……。」
彩香自身のしなやかな指でクリトリスを優しくこね回し、熱をもって愛液を滲ませるワレメをなぞるように上下させる…。
一番気持ちがいい場所は、彩香自身が一番理解していた。
(け…健人くん…健人くんのが…あたしの…中に…っ!)
熱く硬い健人の肉棒の感覚を思い出しながら、自らの膣に中指と薬指の二本を絡めるようにして挿入する。
クチュ……!
彩香「…はぁぁ…っ…!」
ベッドの中、密かに、それでいて大胆に繰り広げられる愛に飢えた自慰行為…。健人との甘いセックスを妄想し、その快楽に溺れていく。
彩香は顔を真っ赤にして息を荒げながら、自ら性感帯への刺激を続けた。
(健人くんっ……欲しい…!…健人くんのを……あたしの中に…っ…中にいっぱい…出して…!)
-----健人は彩香の唇を奪うと、舌を貪るような激しいディープキスと共に、荒々しく腰を振りながらペニスを突き入れる。彩香はその激しい挿入をさらに自身の奥へ奥へと導くかのように、両脚を健人の腰に絡めて、さらに結合部を密着させる…。-----
高校生になってすぐに始まった陵辱の日々…。そこで培われた経験から、それまでの彩香には想像もつかないほど刺激的な妄想が頭の中で繰り広げられ、それに呼応するかのように性器を愛撫する指も一層激しさを増す。
ニチュっ…クチュクチュクチュクチュ!
彩香「ぁっ…あっ…やぁっ…ぁんんっ!…っ!」
膣内で起こる健人の脈動、胎内を満たしていく精液を想像しながら、彩香は身体を仰け反らせ軽いオーガズムを迎える。
しばらくして息も整い、オーガズムの波が去ると、その後彩香を襲うのは、自分への嫌悪感とやり場のない喪失感だった。
(あ、あたし…何で…?あたしって…最低…!もう…嫌…!)
自分の指に絡みついた糸を引く愛液…。我に返った彩香はすぐにその愛液を洗面所に行って洗い流した。
彩香は親友の真希を裏切ってしまったように感じたこと、健人を想って自慰をしてしまったことから、ベッドで1人、涙を流した…。
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部活を見学し、学校から帰った健人。
彩香がベッドで自慰をしている頃、時を同じくして健人も自慰に耽り、自らのペニスをしごいていた…。
健人「うっ……くっ……!」
限界を迎えるまでしごくと、陰茎をティッシュで包むようにして射精をした。
健人のオカズはもちろん、彩香との思い出だった。
ペニスに絡む彩香の舌の感触、熱く柔らかく包み込む膣肉の感触…。健人は思い出すだけで我慢が出来なかった。
(何やってんだオレは…!)
健全な男子高校生の健人にとって、彩香との初体験を思い出すのは仕方のないことだった。
大好きな彩香による口淫、導かれるような形で筆下ろしまでされたのに、その後急に別れを告げられる…。
それは空腹時に大好物の料理を見せられるだけ見せられ、わずかスプーン一口分だけ食べさせられた後、急にお預けをくらったようなものだった。
それでも彩香をオカズにしてしまったことに自分を責める健人は、自分がどれだけ彩香のことが好きなのかを再確認した。
しかし…同時に健人の脳裏に浮かぶのは例の動画だった。画質も悪く鮮明な映像ではなかったにしても、その表情の作り方や醸し出す雰囲気が、健人が幼い頃から知っている彩香にそっくりだった。彩香であるはずがないとは思っていても、考えれば考えるほど気になってしまう。
(くそっ…そんなわけない!…オレは彩香に告白するんだ…!)
交錯する3人の想い…。彩香は健人への悲しい恋心を胸に秘めたまま、文化祭を迎えた。
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校門には星降祭と書かれたカラフルで大きい看板が掲げられ、文化祭という青春の雰囲気を醸し出す。
校内には各クラスで出店した屋台やイベントブースなどが所狭しと配置され、集まった一般客や他校の生徒などで溢れ返り、大きく賑わいを見せていた。
真希「彩香~!ほら、見て見て!お化け屋敷入ろうよ!」
真希「同じポーズで写真撮ろ~!!」
真希「みんなでたこ焼き食べよっか!」
文化祭初日…彩香は学級委員で忙しかったが、空いた時間に真希やクラスメイトに誘われるがままに文化祭を楽しんだ。
(…楽しい…!こんなに…楽しんで…いいのかな…?)
彩香は瞳を輝かせ、高校に入って初めてといって良いほどの満面の笑みを浮かべていた。未だ悩みは絶えないが、高校生になって初めて自分なりに、思う存分青春を謳歌していた。
あと数日したら原田との日々が再び始まることなど忘れ、人目もはばからずにはしゃぐ彩香。
だが…0時を回れば解けてしまう、シンデレラにかけられた魔法のように、彩香の幸せな時間、青春のタイムリミットは、人知れず、彩香自身、そして、原田さえも知らない場所で静かに迫っていた。
彩香の感じている青春など、所詮は夢や魔法でしかなかったことを思い知らされることになるタイムリミットが…。
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迎えた2日目…。
文化祭の本祭にあたるこの日の醍醐味は、何と言っても夜から校庭で行うキャンプファイヤーだった。
真希「わあぁ!すごいね、彩香!」
彩香「うん!すごい…綺麗…!」
火の粉を飛ばしながら火傷しそうなほど熱く燃え滾るキャンプファイヤーの炎が、照星という高校名にふさわしく、キャンプファイヤーとその周りを囲む生徒たちは一つの恒星のように輝き、夜空を赤く照らしていた。
明日には楽しかった文化祭も終わってしまう…そんな寂しさを感じるほど、彩香はこの日も文化祭を存分に楽しんでいた。
だが、この日が来るまで昔から変わらない健人への想いと、親友である真希のことをずっと悩み続けていた。
星を交換するため部室で待っていると言ってくれた大好きな健人…。
しかし、いつも自分を元気にしてくれる親友の真希が、健人に告白して星を交換しようとしている…。
好きな人と親友、どちらかを選ばなければならない…。
そんな思春期の悩みを抱えながらも、真希と一緒にふざけたようにはしゃいで踊るフォークダンスは形容しがたい程に楽しく、文化祭の最中も真希のおかげで心の底から笑うことが出来た…。
手を繋いでふざけて踊っていた真希が急に真剣な表情をし、口を開いた。
真希「あ、あのさ?彩香にお願いがあるんだけど…田島くんて、彩香は中学一緒だよね?」
彩香「…うん…そうだよ?」
真希「あのね、彩香……お願い!!キャンプファイヤーが終わった後……あ、学級委員の仕事が終わってからでもいいから、田島くんにこれ、渡してくれないかな…?」
真希が彩香に渡したのは一通の手紙、おそらく健人を呼び出す内容が書かれたラブレターのようなものだと彩香はすぐに分かった。
ふざけて踊っていた時とは打って変わり、真希の瞳は真っ直ぐに彩香を見つめている。
健人に対する真希の気持ちは本物だと彩香は確信し、彩香も真希に真剣な目を向けた。
彩香「真希……。…うん。大丈夫、任せて!…今、渡してくるよ…!」
真希「え、本当に…?恥ずかしいけど…じゃあさ、絶対に学校から帰る時に開いてって伝えておいてくれないかな??」
彩香「うん…わかった!」
一旦真希の元を離れると、駆け足で健人を探す。彩香にとって高校の誰よりも輝きを放つ健人の存在は、すぐに見つけることが出来た。
彩香「健人くん!!」
健人「…!…彩香…!」
輝くような目で彩香を見つめる健人に、彩香は目を合わせることが出来ないまま、口を開いた。
彩香「こ、これ!真希ちゃんから…。あ!必ず帰るときに開いてって。それじゃあね…!」
半ば強引に健人に真希からの手紙を渡すと、すぐに踵を返して去ろうとする彩香。
健人「あ、待ってくれ!」
健人は彩香の手を掴んで引き止めた。
健人「約束した通り、オレ…待ってるから…!部室で…ずっと…!」
彩香「………っ!」
彩香は健人に掴まれた手を振りほどき、思わず涙が溢れそうになってしまったことを悟られないようにそそくさと走り去る。
引き止めてくれる健人の優しさが、かえって彩香を辛くさせた。
感情を押し殺し、何事も無かったように真希の元に戻ると、彩香は笑顔で健人への手紙を渡してきたことだけ、真希に伝えるのだった…。
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自分の骨組みのほとんどを燃焼させて、キャンプファイヤーは役目を終えたように崩れ始める。生徒達は小一時間は踊り続けただろうか。
星降祭の本祭が終わりを告げる瞬間だった…。
彩香はしばらく、プスプスと音を立て、最期の力を振り絞るように弱々しい火を上げるキャンプファイヤーを見つめていた。
(あたしも…あたしなりのケジメを付けないと…!)
燃え尽きたキャンプファイヤーの前で、彩香は悩むことをやめて決心した。
部室で待つ健人に会いに行き、本当の意味で別れを告げ星の交換を断るーーー。
真希のためには、会いに行かない方がいい、会いに行ってはいけないかもしれないと思ったが、健人、そして真希へのケジメとして、健人にもう一度、中途半端ではなく、ちゃんと別れを告げて、健人との連絡も一切断つべきだと思った。この別れを告げた後、彩香はバスケ部も退部することを決めていた…。
彩香にとってはとても辛い選択だったが、生真面目な彩香らしい選択だった…。
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キャンプファイヤー終了後、彩香は学級委員の片付けの仕事に追われていた。
(早く終わらせて、健人くんに…伝えないと…!)
彩香は健人に別れを告げ、真希の手紙を一刻も早く開いてもらわければならないと思った。
そのため、教室に運ばなくてはならない道具や荷物を、少し無理をして大きめの段ボールに詰め込むと、重い段ボールを両手で抱え、早足で教室へ向かった。
彩香が階段を登り、教室へ続く廊下へと向きを変えた…その時…!!
彩香「っ!…きゃあっ!!」
何かに足が引っかかり、彩香は思いっきり廊下に転倒してしまう!
ガシャア!!……
彩香の両手から飛び出した段ボールから文化祭で使った道具や荷物が廊下に散乱してしまった。
彩香「………っ…?」
転倒した彩香が顔を上げると、ボンヤリとした視界に男子生徒だろうか、黒い学生ズボンが見えた。
?「よぉ彩香、久しぶりだなぁ…!そのコケっぷり…いい気味だぜ…!」
どこかで聞いたことのある声…倒れてしまった彩香がその人物を確認しようとさらに見上げる…そこには……!!
彩香「ぁ…ぁぁ…ぁぁ!…」
怒り、悲しみ、憎しみ、そして恐怖…。彩香の頭の中に様々な感情が爆発すると、身体の震えが止まらず腰は抜けたように動けなくなってしまう。
彩香「……さ……佐野…くん……!」
震える身体から絞り出すように目の前の男の名前を呼ぶ彩香…。
地獄から舞い戻ったようにギラつく目で彩香を見下す佐野という男…。
彩香にかかっていた魔法が解ける鐘の音が今、鳴り響く…。
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