また無表情に戻った茉莉香だったが、牧田は感情の無い人形ではなく、一人の少女、それも薄幸だが賢く健気な女の子の運命を、自分が自由にしていることに、とても満足していた。
「これから、この台に上がってもらうが、最後に何か欲しいものはあるか?」
牧田から言われても、茉莉香は、
「出来ましたら、お手洗いを済まさせていただけますか?」
と答えた。
最期を遂げた時に、見苦しくないようにしときたい訳か!
察した牧田は、茉莉香に最後の責めとして、浣腸をしてやった。
さらに、排便を済ませた茉莉香の身体を、ホースの水で洗ってやる。
全身から水滴を滴らせた茉莉香に、
「これで、いいか?」
と聞くと、茉莉香は明らかに微笑んで、
「ありがとうございます。」
と答えた。
それから、絞首刑台に上がる梯子を上らされる。
上まで上がると、そこで牧田から、両手首を前で縛られ、目隠しをされた。
細い首に、輪になった縄が掛けられる。
「いいか、俺がレバーを下げたら、お前の足元の板が下に外れ、お前は穴に落ちる。
縄の長さは、あまり長くしていない。
落ちる長さが長すぎると、速度が付きすぎて首が千切れる。
苦しさは感じる暇が無いけど、見苦しい。
短ければ、首が千切れることはないが、首の骨が折れて即死と言うわけには行かず、苦しむかもしれない。
分かるか?」
牧田の説明に、目隠しされた茉莉香は、
「わかります。
きれいに逝かせてくださるんですね。
ありがとうございます。」
と答えた。
茉莉香の首に掛かった縄の輪っかを調整しながら、牧田は茉莉香の耳元でこう言った。
「お前が話した、オムライスの王子様。
俺には心当たりがある。」
茉莉香の身体が、ビクッと動いた。
「俺がお前をこの手で始末した、とは言えないが、お前は妹と継母を守って逝った、と言うことは、きっと伝えてやる。」
牧田がそう言うと、目は目隠しで見えなかったが、茉莉香の小さな唇が、微笑むのがはっきり分かった。
「それでは、さよなら。」
こう言って、牧田はレバーを下げた。
茉莉香は、身体が空中にふわっと浮いた気がした。
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