それから2日間、牧田は「仕事が忙しい」と言って、本格的な責めはしなかった。
家畜小屋の3人には、朝に一度、コンビニ弁当が与えられた。
しかし、茉莉香はもう食欲がほとんど無かった。
「桃香ちゃん、お姉ちゃん、本当に食べれないの..。
お姉ちゃん、桃香ちゃんが食べてくれると、本当に嬉しい..」
そう言うと、後は目を閉じてじっと寝たきりだった。
3日後の午後、家畜小屋に厚いカーテンが掛けられ、庭の中で何か工事をしてるような音がした。
完全に夜になって、カーテンが取り外された。庭の内に、高さ2メートルの台が出来上がっていた。
ただの台ではない。
台の上に1本の太く丈夫な柱が立っており、その柱には、やはり頑丈な横木が取り付けられていた。
絞首刑台だった。
まだ桃香には、それが何だか分からない。
それが何か分かっている茉莉香は、それを使われるのは、多分自分だろう、と思った。
まだ高熱と全身の衰弱で動けない筈の茉莉香は、小屋の中で起き上がり、正座すると継母に向かって頭を下げ、土下座した。
「お母様、色々あって、3人ともこんなことになってしまいました。
多分、あれには私が吊るされます。
お母様!どうか桃香を..」
後は聞き取れなかった。
言われた優湖は、今はもう茉莉香に対して、その母親に対する憎しみをぶつけるつもりも無くなっていた。
むしろ、牧田に監禁されてから、自分が直接拷問されなかったのは、全て茉莉香が身代わりになってくれたお陰だ。
しかし優湖は、今さら茉莉香に優しい言葉や感謝の言葉を言っても、取り返しが付かないと思っていたし、茉莉香もそれは分かっていた。
夜の8時過ぎに、牧田が茉莉香を呼びに来た。
茉莉香は、「はい、参ります。」と言うと、自分から小屋から出てきた。
牧田は、小屋から見える位地に折り畳み椅子を置いて座り、その前の地面に薄いマットを敷いて、茉莉香を座らせた。
「あの台が何だか分かるか?」
「絞首刑の台だと、思います。」
「今夜、お前をあれに使う。」
「分かりました。」
死を宣言されても、茉莉香の表情は変わらなかった。
牧田は、自分はウイスキーを飲んでいたが、急にサイドテーブルの上にあったコップに何か薬を入れると、そのコップにウイスキーを継ぎ足した。
「飲め。」
「いただきます。」
茉莉香は、強い香りとアルコールの刺激に噎せながら、注がれたウイスキーを飲み干した。
身体がカッカっと熱くなった。
「お前が死ぬ前に、お前の人生を聞きたい。
責められるようになってからで良い。
何でも全て話してしまえ。
お前が死んでも、俺が覚えててやる。」
ウイスキーの中に入れられた薬は、自白剤のようなものだったのだろうか?
茉莉香は、牧田の誘導に従って、小学6年の時からの事を、少しづつ話し始めた。
これまでされた強姦や拷問、それを初めてされたのは、実父と継母から。
しかし、その継母も、亡くなった実母から責められていたのだから、その娘の自分が責められるのは仕方ない。
妹はとても可愛い。
継母は私との約束を守って、妹には優しくしてくれてる。
だから、継母には恩を感じてる。
貸し出されて売春させられても、継母を恨んではない。
これは今のご主人様に対しても同じ。
私との約束を守って、妹と継母を守ってくれてる。
そこまで聞いても、牧田には本当とは思えなかった。
こんな小娘が、そこまで悟ったような生き方が出来る筈が無い。
「では、これまでどんなことが辛かった?」
「父から犯された時から、私自身にされた事で、辛かったことはありません。」
「変態に貸し出されて、色々な拷問もされたろう?
乳首やおまんこの変形も、そのせいだろう?」
「確かに乳首は、釣糸で2日間錘を下げられてこうなりました。
ビラもピアスされてましたが、そのピアスの穴に通された鎖を引っ張られて、裂けてしまいまました。
痛かったけど、仕方ないと思っています。」
茉莉香の表情は変わらない。
「それでは、反対に楽しかったこと、嬉しかったことはあったのか?」
茉莉香はこれも、即答で答えた。
「ありません。」
この会話の流れなら、話が終われば吊るされるって予想はつくだろう?
こいつ程賢ければ、絶対に分かってる筈だ。
これでは、死に急いでるようなものではないか?
本当は、もっとハラハラドキドキするような、薄幸の少女の、生の話を聞きたかったのに!
少し腹が立ってきた牧田は、話を打ち切る前に、つまらない質問をした。
アメリカでは、死刑囚は最後の食事に好きな物を食べさせられるらしい。
こいつの好きな食べ物を聞いてやるか。
「お前、食べ物では何が好きだ?」
多分、子供らしい食べ物だろう。
これで話は打ち切ろう。
そう思っていた牧田だが、茉莉香の顔を見ると、明らかにそれまでと違う表情になっていた。
相変わらず無表情だが、必死に壊れそうな無表情を保とうとしているのだ。
ウイスキーのせいだけでなく、顔が紅潮している。
次第に泣きそうな顔になった。
「どうした?食べ物は何が好きだ?」
牧田が更に問いかけると、茉莉香はついに目尻から涙を流し始めた。
そして、啜り泣きを必死に押さえながら、
「オムライスが..」
と言うと、ついに泣き出してしまった。
牧田にとっては意外だった。
どうして、オムライスが好きな事が、鉄仮面だったこいつの感情を剥き出しにさせたんだ?
よし、聞こう!
牧田は、座っていた椅子から降りると、正座している茉莉香の横で胡座をかいた。
コップにもう一杯、薬入りのウイスキーを注ぐ。
差し出すと、茉莉香はまた、素直に飲み干した。
牧田は、茉莉香から話を聞き出すのが、面白くなってきた。
これまで他人、特に女を責め、泣きわめかせることで、自分が神様になったような気持ち良さを感じたが、頑なに見せることを拒む少女の心の中を見てしまう事も、神様に近いのでないか?
牧田は、けして話上手ではないが、この時は見事に茉莉香の心の中の、たった一つの宝物を見つけ出した。
「そうか、よりによって痔が悪いのを見られたのがきっかけか..。」
「お前に金を払わせなかったものだが、嫌がるお前を抱き抱えて、無理やりでも病院に連れていったのは、さすがに大人だな。」
「買われて行ったら、お前を買ったのがその王子様だったわけか。
うん、それは死にたくなるだろう。」
「自殺を止めるより、飯を食わせてくれたんだな。
いや、俺でもそうは出来んだろう。」
牧田の適当な相槌が、それまで全く開かなかった茉莉香の心の口を開かせた。
泣きながら、オムライスを食べたこと。
お客様である王子様を放って、一人で勉強してて机で眠ってしまい、王子様からベッドに寝かされたこと。
ベッドでセックスではなく、また一緒にオムライスを食べる約束をしたこと。
翌朝、学校まで、まるで本当のお嬢様のように送ってくれたこと。
話終わった茉莉香は、もう泣いていなかった。
「お話、聞いてくださって、ありがとうございます。」
もう、いつもの無表情に戻っていた。
この顔で死ぬつもりだな..。
牧田は、もう十分だと思った。
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