美羽はチアリーディングの部の帰り道、川上涼介をハンバーガーチェーン店の客席でみつけた。
川上涼介は美羽と同じ上北宮高校の生徒だ。
美羽より一つ上の三年生だが、彼のバスケット部の試合の応援にチア部が駆けつけたことがあり、それからちょくちょく話をするようになった。
彼は182センチの長身。
甘いマスクの端整な顔立ちで
女子に人気がある。
美羽の胸はざわついた。
外からガラス越しに彼を見ながら入り口の方に、向かおうとした時だった。
「えっ!?……」美羽は眼を疑った。
涼介は一人ではなかった。
彼女の前にトレイを置く一人の
女生徒。
同じ上北宮高校の制服。
毎日、学校の廊下で会う顔。
南沢茜だった。
「なぜ、彼女が涼介君と……」
南沢茜 ー 県内有数の進学校の
中でも勉強ではスクールカーストの最下層。
さらに素行も悪く、補導歴もあり、校則違反など当たり前の札付きだ。
今も髪を部分メッシュに染め、大人と見間違う派手なルージュを引いている。
親しそうに談笑する二人。
(なんなの、いつから……)
涼介は美羽と会う度に、さりげなく好意を伝えてきていた。
美羽も交際に発展するものだと
思っていたのだ。
嫉妬の感情が多感な
少女の胸をどす黒く染めた。
美羽はショックで足にまで震えがきていた。
「ハンバーガー食べないの?」
突然、後ろから肩を叩かれた。
聞き慣れた声だった。
義兄、柴田大地。
振り返ると、彼が笑顔で
そこにいた。
嫌がる美羽を店内に押し込んだ大地は、二つのハンバーガーに大盛ポテトを口一杯に頬張っている。
「このジャンクな感じがたまらないね、食べないの?」
義兄の言葉に美羽はチラリと上目遣いに彼を見ると、一口食べただけのハンバーガーをトレイの上に置いた。
美羽はチアリーディングのハードな練習の後に、いつも感じる猛烈な空腹を全く感じなかった。
「あの背の高い、男だろ?
美羽ちゃんが好きなのは?」
義兄の思わぬ言葉にギクリとなった。
「やっぱりね。外からずっと見て
たんだ。格好いいね。あの男の子は……。
でも、どう見てもあのケバいのと
付き合ってるみたいだね……美羽ちゃん、彼氏取られたの?……」
義兄のデリカシーの欠片もない
言葉に美羽の顔が険しくなった。
「何でもないよ。大地君には
関係ないことでしょう……黙っててて」
「関係ないのかぁ、ならいいけど。ルックスなんか完全に美羽ちゃんの方が上なんだけどな……」
俺はコーラの溶け残った氷をストローでかき混ぜながら、首をかしげて残念がった。
「まあ、俺のアドバイスがあれば
、あんなアバズレみたいなのは、
美羽ちゃんの相手にならないけどね」俺は一気に畳みかける。
「アドバイス?それ何?」
初めて美羽が大地の言葉に興味を持ったようだ。
「うん、それは簡単なことなんだけど……そう言えば明日の部活は?」
「明日の土曜日の部活は先生の都合で休みだけど……」
美羽がなんでそんなことを聞くのかと、不可解な表情を浮かべた。
「夏は終わったんだけど、
明日、萌は仕事なんで海の方に
ドライブに行くつもりなんだ。
良かったら美羽ちゃんも一緒に
こないか?そこで美羽ちゃんに
足らないものを教えてあげるよ」
義兄は氷を噛み砕きながら、
手についた汚れをナプキンで
拭った。
「別に知りたくないんだけど……」
ぶっきらぼうに美羽は答えたが、
とりたてて、明日の予定はなかった。
「わかった。じゃあ、わたし恋○ヶ浜がいい」美羽は恋人達の聖地を行き先に希望した。
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