その日の夜の九時過ぎ、綾乃の
自宅に白石大輝から電話があった。
大輝の声は沈み、涙声になりながらイジメの事実を肯定した。
「先生、もう……僕、消えたい……」
綾乃はそんな大輝の苦しみに満ちた告白にイジメた生徒への怒りを覚えると共に、今まで気がつけなかった己を恥じた。
必ず先生が力になって早急に解決する。
イジメなどはどんな理由があれ絶対にあってはならない。
綾乃は大輝を親身になって励まし電話を切った。
朝の6時に自宅の電話が鳴った。
取り次いだ母から電話を受けた、
綾乃は大輝の父親の話に言葉を失った。
校長室で校長の向井と荒木の
詰問に綾乃は知っている事実をありのまま答えていた。
まだ、気持ちの整理はつかない。
どうして?という思いが胸に去来する。
大輝は自室のドアのノブに紐を
巻きつけ首を吊っていた。
幸い発見が早く命に別状はなく
怪我もなかった。
ただ、ショックは大きく大輝は
病院のベッドの上で顔を伏せたまま父親や私の問いかけにも、言葉を発することはなかった。
白石家は父子家庭である。
大輝の両親は三年前に離婚していた。
向井は机を指先で叩きながら、
苦虫を潰したような表情で綾乃と
荒木に厳しい視線を向けている。
「まあ、事実確認が先だな。
幸い白石大輝君は無事なんだ。
まだイジメが原因と確定したわけじゃない。
藤村先生、むやみな犯人探しはいかんよ。
それに、マスコミに嗅ぎ付けられたらえらいことになるからね」
校長の向井は定年まで後一年の、保身を絵に書いたような男だ。
荒木は向井の言葉に頷くと
担任一年目の女教師に指示
を出した。
給食の時間が終わる頃、職員室に
白石の父親から電話が入った。
職員室に戻った綾乃が折り返しの
電話をいれると、父親は大輝のことで話したいことがあるので自宅の方に来て欲しいとのことだった。
綾乃は五時の約束で白石家を訪ねる約束をした。
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