契約の後、満里奈が言った。
「折角だから、2匹の子犬ちゃんも呼ぼうよ。」
「そうだね、操ちゃんの先輩になるから、挨拶させとかないとね。」
ああ、まだ誰か来るんだ。
また裸見られちゃう..。
満里奈と光が、それぞれ誰かに電話した。
30分しないで、玄関チャイムが鳴った。
満里奈がドアを開ける。
操は出来るだけ裸を見られまいと踞った。
入ってきたのは、操よりちょっと年上の女の子二人だ。
同じ市内だが、別々の中学校の制服を着ていた。
裸で踞っている操を見て、
「ああ、この子か..」
と納得したような表情はしたが、裸にされていることには、何の疑問も持ってない様子だった。
それどころか、大学生3人に丁寧な挨拶をすると、自分で制服を脱ぎ始めた。
脱いだ制服、下着は自分できちんと畳んでいる。
さすがにショーツを脱ぐときは、幾分恥ずかしいのか、壁の方を向いて脱いだが、脱ぎ終わると前を隠しもせず、それぞれ満里奈、光の横に立った。
満里奈から横の女の子を紹介した。
「小浪瑠衣。美並中学校3年生。
生徒会副会長で、去年は声楽部門全国大会の県代表。成績は..。」
振り返った満里奈に、瑠衣は小さな声で答えた。
「まだ保っています..。」
満里奈が続けて、
「1年の二学期から、学年トップ継続中!」
満面の笑みを浮かべて言って片手で瑠衣を引き寄せると、細い脇腹に自分の頬を押し付けた。
続いて光が、自分の飼い犬の紹介をした。
「山羽中学校3年、高見菜穂。
生徒会書記。文芸部代表で全国規模の受賞5回!
成績は、トップ..の筈なんだけど、今度は大丈夫だった?」
菜穂の表情は変わらなかったが、小さく低い声で言った。
「申し訳ありません。
後で厳しい罰をお受けします。」
それでも光は怒った様子はなく、明るい声で言った。
「鞭打ち30回!後でね。
いや、この子の学校に頭良いやつ居るらしいんだ。
抜きつ抜かれつのライバルって感じ。
仕方ないよね。」
口調は明るく、思いやりもありそうなのだが、少女を鞭打つことを気軽に宣言した。
瑠衣の方が菜穂より少しだけ背が高い。
それ以外はとても似ていた。
痩せて顔色が青く、表情がなかった。
良く見るとその白い肌に、操と同じように鞭の痕等が残っている。
満里奈が命じた。
「私達、ちょっとお酒飲むから用意して!」
瑠衣と菜穂が直ぐにキッチンに向かう。
操も分からないなりに、何かしなければ、っと思って一緒にキッチンに入った。
二人は無表情だが、何も分からない操に、やるべき事はちゃんと教えてくれた。
お皿やフォーク、グラスを出し、チーズやサラミを切り分け、冷凍庫からロックアイスを取り出す。
3つのお盆載せて、バーボンのボトルと共にリビングのテーブルに並べた。
操も見よう見まねで、テーブルに皿をはこんだが、ボトルやグラスに当てないようにと緊張のあまり、皿を傾けサラミを数枚床に落としてしまった。
普通なら手で拾って、捨てるだけだ。
しかし操は明日香の怒りを恐れた。
反射的に、操は床に這いつくばって、口で落ちたサラミを咥えた。
明日香から勉強を教えられている時に、不注意から鉛筆を落とした。
その時にさせられたのを思い出し、反射的にしてしまったのだ。
それでも明日香は、サラミを咥えた操の頬を一度平手打ちした。
しかし、それで気が済んだらしく、
「もう、いいよ!」
と解放してくれた。
満里奈の
「明日香の新しい子犬ちゃんを祝して!」というと音頭で酒盛りが始まった。
光から、
「貴女たち、呼ばれるまで、あっちの部屋に行ってて良いよ。」
と言われ、3人は寝室の方に移動した。
瑠衣と菜穂は、年下の操にとても同情的で自分達のことをお姉さんと呼ばせた。
「明日香様に飼われるんだね..」
「大変だと思う..。
私達に相談したいならしても良いけど、多分あんまり力になれないと思う。」
二人は中学校1年の時に同時に、それぞれ飼われることになった。
これまで約2年間飼われている。
「私のお姉様は、厳しいことは厳しいけど、ちゃんと可愛がってくれるの。」
瑠衣は飼い主の満里奈のことを、お姉様と呼ばせてもらっていた。
「光様は、厳しいけど、無理は言わないから..」
操は疑問を聞こうと思った。
「明日香様は、どうして今まで子犬を飼わなかったんですか?」
二人は顔を見合わせて、ため息をついてから話し始めた。
「去年の12月まではいたのよ。」
「私達と同じ頃に飼われた、鈴ちゃんって名前の子。」
「じゃあ、どうして...」
操の疑問に、また二人は沈黙し、しばらくして話し始めた。
「鈴ちゃん、明日香様に逆らったの。」
「お母さんに全部話してしまうって私達に言ってたわ。」
「じゃあその人は、明日香様と別れられたの?」
「それが..分からないのよ。」
「急にいなくなったの。学校にも来なくなったみたいで..」
「私は鈴ちゃんの家を知ってたから、行ってみたことがあるの。
でも、誰も住んでなかった。」
「それって、お父さんお母さんと別の所に引っ越したわけ?」
「鈴ちゃん、お母さんだけだった。」
「私たち二人もよ。」
操は少し驚いた。
じゃあ、子犬にされるのは、シングルマザーの娘だけ?
「お母さんと別の所に逃げれてたら、良いんだけど..」
操は、さっき明日香から聞かされた恐ろしい話を思い出した。
雪の中...、時期は一致するんだ。
「詳しくは分かんないけど、明日香様の親って恐い人らしいの。」
「暴力団とかより恐いらしい。
でも、本当のことは私達も分かんないの。」
操は本当に恐くなった。
もう自分は逃げられないんだ。
逃げたら、お母さんまで...。
暗くなり過ぎたと思ったのだろう。
瑠衣が話題を変えた。
「でも、操ちゃん、これから成績上がるよ。」
「そんなこと、無いと思うけど..。
私、ずっと成績悪かったから。
お姉さん達みたいに、頭良くないもん。」
「ううん、上げさせられる。
私だって1年の時、そうだったもん。」
「そうだよ。光様、厳しかったけど、おかげで今はこんなになれたんだ。」
操の新しいお姉さん二人は、自分の飼い主を恐がりながらも慕っているみたいだった。
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