気付いた瞬間に駆け出していた。
エレベーターのボタンを連打し、扉にぶつかりながらサークル棟を出た。
本館の横の歩道を走り、裏手に向かった。
坂道を登り切ると、大学の敷地の奥に 平行に並んだ小さな建物が見えた。
サークル棟が新設される前までの、部室棟の列だ。
いくつかのサークルが倉庫代わりにしているらしいが、見る限り その周りに人気はなかった。
2階建ての建物にはどれも、コンクリートブロックが剥き出しの壁に5つの扉が並んでいる。
建物の端には青いペンキに塗られた鉄の階段が、ボロボロに錆びていた。
俺は息を切らしたまま、ゆっくりと坂道を下っていった。
足音を殺しながら移動した。
一つずつ扉に耳を当て、中の音を探った。
靴の底が鉄の階段に擦れる音が、やけに大きく感じた。
そして3つ目の棟の2階、真ん中の部屋の扉で物音を聞いた。
聞こえたのは、低いこもった声だった。
内容は聞き取れないが、確かに何かを話している。
男の声だ・・・そう思った瞬間に汗が噴き出た。
俺はゆっくりと隣の扉に近づいた。
ドアノブは回ったが、鍵が掛かっていて開かなかった。
反対側の扉に近付き、祈るような気持ちでドアノブを回した。
扉は、油の切れた音をたてながら、ゆっくりと開いた。
その部屋には何もなかった。
小さな棚が一つあるだけの、ぶら下がる電灯の玉さえ外された部屋だった。
俺は部屋を区切る壁・・・コンクリートブロックの隙間を探した。
ひび割れの一つ一つを覗いた。
そして、いくつ目かのひび割れの向こうに、隣の部屋を見た。
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