いつもの居酒屋に着くと、麻衣子はもうメンバーに囲まれていた。
和風の居酒屋で、掘り炬燵が並んでいる。
一見ランダムなように見える席順も、いつからか何となく決まりができていた。
麻衣子は今日も壁を背にして 木村と田中に挟まれて座り、その向かいに座る佐藤祥太と話していた。
「はぁ?バカじゃないの?」
怒った声で佐藤を罵り、佐藤の横に座る吉田に同意を求めていた。
「あ、来たっ!」
俺を見た麻衣子が嬉しそうな笑顔になり、木村と田中が冷やかしてきた。
佐藤も笑いながら俺を見ていた。
いつもと同じノリ、いつもと同じ言葉、いつもと同じ笑顔のはずだが、俺はその視線から逃げたくなり吉田の左側に・・・佐藤とは反対側に腰を下ろした。
「何を話してたの?」
誰にとはなく話しかけると、木村が麻衣子の隣から「佐藤にデリカシーが無いって話だよ」と言ってきた。
「まったくだよ」そう言ってまだ怒ってる麻衣子をよそに、佐藤が俺の飲み物を注文した。
「ほらっ、今日も遅刻したんだから、駆けつけ三杯な!ほらっ」
笑いながら、俺の前にジャッキを並べていく。
「おい、せめて1種類に統一しろよ!」
「いいだろ?俺のセンスだよ」
「センス、ゼロだろ!何だこのビール・焼酎・ハイボールのコンボは!」
「貧乏学生コンボだよ、早く安く酔わないとだろ」
前回もした遣り取りに自分も笑い、飲み始めた。
酔いすぎないように気をつけると、佐藤がどれだけ俺に酒を進めているのかがわかった。
そして、佐藤自身が自分だけ、たまにウーロン茶を頼んでいるのにも気づいた。
酔いすぎないように、けれどいつも通りに酔っている雰囲気を作りながら、壁の時計で日付が変わり 終電が無くなる時間になっていくのを見ていた。
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