きゃっ
そう小さく叫び、けれど強くは抵抗せず、麻衣子は俺に抱き寄せられた。
俺は脳裏にこびりついて離れない 昨夜見た佐藤との濃厚な・・・貪るようなキスを思い出しながら、固く閉じた麻衣子の唇に何度も舌を押しこもうとした。
けれど麻衣子の唇は開かず、俺はどうする事もできずに 何度もフレンチなキスを繰り返した。
「んっ・・・ちょっとぉ・・・」
麻衣子の手が俺の体と顔を押した。
「もぅ・・・どうしたの?」
俺の方と顔を手で押したまま、不思議そうな顔を俺に向けている。
俺は何も言えず、押し倒す事を思いつきもせず・・・・・愛する女性に不貞の事実を突きつける事すらできないまま、ただ 愛しい彼女の目を見つめていた。
何かを言わなくてはいけない気がしていたが、言葉が口から出てこない。
何を言えばいいのかわからず、頑張って考えているつもりだが 何も思いつかなかった。
ただ、俺の体を押す麻衣子の左手と、顔を押す麻衣子の右手の感触だけを感じていた。
「・・・ほんと、どうしたの?」
麻衣子の表情は、本当に俺を心配しているように見えた。
ようやく俺の口から出たのは、「大丈夫・・・何でもない・・・・・・ゴメン」だった。
少しの沈黙の後、麻衣子は俺から離れた。
そして、何度も俺を心配しながらバイトに行くためにカバンを手に取った。
「もう少し、休んでから出た方がいいよ」
「・・・ほんと、大丈夫?」
「・・・じゃ、あたし、出るね」
その顔は、本当に俺を心配していると感じた。
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