結局、事件は家庭内のイザコザとして処理されることになる。
理由はどうあれ、姉娘が父を、父が妹を訴えることもないのでは、事件として成立すらし難い。
世間では、よくある話なのだろうか。
それとも、経済的な問題が無く、保護者と被保護者の関係性が明確に届出られていれば、その内幕で何が起こっていても当事者たる家族内の問題だと判じられたのだろうか。
形式的な保護観察に類する処分を受けつつも、二週間後には、三人は家に戻っていた。
「・・俺は家を出るよ・・。」
そう言って一駅先にアパートを借りた父。
勿論、二人の生活に要する経済的な負担は父がする。
住民票も住んでいるマンションの名義も、全てをそのままに父だけが別居生活を営むことになる。
ただ一緒に住まない方が良い、いや、住むべきではない。
そう父が判断したのだ。
「・・何が・・あったの・・?」
父が家を出た日、二人きりのマンションの一室で呆けたような表情を浮かべた妹は誰にともなく呟いた。
姉は逡巡する。
知らせるべきなのだろうか。
知らせる必要があるのだろうか。
知ったら妹は苦しむに違いない。
知ったことを後悔するかもしれない。
終わったことなのだ。
忘れてしまえば良いのではないか。
だが、姉は憶い出す。
妹を守ろうとした結果、その配慮が逆に妹を孤立させてしまったのだ。
妹を危険から隔絶することは、或いは妹の気持ちを傷付けないことは、必ずしも妹を『守る』ことには繋がらないことを学んだのではなかったのか。
「・・長い話になるよ・・?」
・・それに・・
・・聴きたくなかったって・・
・・後悔するかもしれない・・。
「かもしれない・・。だけど・・」
・・もう独りは・・
・・嫌なの・・。
震える声で呟いた妹の眼は、しかし、もう幼な子のそれではない。
少なくとも真実を受け止める覚悟は出来ている、そう判断した姉は全てを語り出した。
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