姉、、コダマの中に渦巻く幾つかの想い。
ひとつは羞恥心。
性行為に耽る姿を第三者の眼に晒す羞らい。
しかも躯の内側から溢れ出す肉の悦びを想う存分に味わっている最中の姿なのだ。
ひとつは虚無感。
今まで、ひた隠しにしてきた禁断の関係が明るみに出てしまった。
しかも他の誰よりも知られたくない、知られてはならない相手、妹に知られてしまったのだ。
ひとつは憤りだ。
久々に愉しんでいたのだ。
久々に味わっていたのだ。
獣のように悦んでいたのだ。
それを邪魔された。
何の前触れも無い妹の帰宅。
これでは行為が中断されてしまうかもしれないではないか。
最後のひとつは安堵だ。
最早、コダマの精神は家庭内の緊張感に耐え切れない状態に至っていた。
不毛な犠牲者として、しかも倒錯的な欲望を貪る日々に惓んでいた。
そんな日々に終止符を打つことが出来るかもしれない。
そんなコダマの想いとは裏腹に肉壺を貫いた肉の槍が、その動きを激しくした。
あ。
あぁ。
嫌。
「嫌、いやぁ・・・。」
コダマの発した『嫌』は、性行為を拒絶する『嫌』ではなかった。
妹の眼前で絶頂を迎える姿を晒すことに対する羞らいが『嫌』という言葉として発露されたのだ。
そこまでの状況を正確に把握することが妹には出来なかった。
いや、出来るわけがない。
妹が把握出来た状況。
それは自宅で姉が見知らぬ暴漢に襲われており、『嫌』は強要されている性行為を姉が拒絶する言葉としか認識されていない。
姉を助けなければならない。
自分に何が出来るのか。
考えるより先に身体が動き始めていた。
靴を脱ぐことすら忘れ、二匹の獣に近付くヒカリ。
あ・・嫌・・。
見ないで・・お願い・・。
だが、土壇場でコダマは自分自身に裏切られてしまう。
妹に禁断の行為、しかも嘗てない程に昂ぶる姿を見られている。
徐々に近づいてくる妹は、父と交接している部分すら眼にするであろう。
交接した部分から漏れる淫らな音も耳にするに違いない。
はしたない汁が秘部から溢れ出していることに気付くかもしれない。
見られたくない。
だが、見られたい。
今の姿を見られ、更なる昂ぶりに至りたい。
・・見て・・もっと辱しめて・・。
蔑んで欲しい・・。
一度、浮かんだ想いはコダマの頭の中で増殖していく。
見て見て見て見て見て・・・
もっともっともっともっと・・・
そんな自分自身を恥じるコダマが、皮肉なことに嘗てない絶頂に至る寸前であった。
はしたない自分自身を拒絶する言葉が、切実な想いとともに咽喉から迸しる。
「嫌ぁ・・。」
姉の叫びを耳したヒカリは、反射的に台所に置かれていた包丁を握り締める。
次の瞬間、妹は弾かれたように男に近付き、ぶつかっていく。
全てが同時であった。
父が果てる瞬間。
姉が果てる瞬間。
妹が父を刺した瞬間。
「・・お父・・さん・・?」
そして妹は自分が刺した相手が誰なのかを知る。
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