二十三時。
未だにヒカリは帰宅していない。
中学一年生の半ば頃から妹は家に居着かないようになっていた。
帰宅するにしても、その時刻は遅い。
食事も済ませてくることが多い。
稀ではあるが外泊すらあった。
誰と。
何処で。
姉の問いに妹が答えることは無かった。
要する金銭はどう工面しているのか。
その問いを発することが怖かった。
その回答を耳にすることが怖かった。
妹の衣服に父や姉が買い与えた覚えの無いものが増えていく。
妹には何らかの手段で金銭を工面する手段があるらしい。
妹の洗濯物に体液が付着していることがある。
時には性行為の残滓らしきものすらあった。
中学の教師から父親に対して呼び出しがかかる。
担任教師と生活指導の教師との面談。
妹娘の交友関係、生活態度、学習態度が取り沙汰される。
お世辞にも褒められたものではないらしい。
だが、ヒカリの急激な変化に学校側としても困惑している。
学校内の出来事としては原因に心当たりが無い。
「ご家庭では如何でしょうか?」
言葉を失う父。
父子家庭であることから、眼が行き届かない可能性はある。
通り一遍の面談が何かの役に立ったわけではないが、帰宅した父と姉娘は沈痛な面持ちで頭を抱えることしか出来ない。
心当たりは在った。
逆に言えば確信に近い。
二人の関係が妹娘の居場所を無くしてしまった以外に原因は有り得ない。
「・・どうしたらいい・・?」
「・・どうしたら・・って・・。」
沈黙する父娘。
妹娘に全てを話し理解を求めろというのか。
父の身体的な不備を。
妹娘を守ろうという二人の意図を。
二人の獣じみた情欲を。
話せなかった。
理解してもらえるとは思えない。
話したところで事態が好転するとも思えない。
むしろ二人と一人の間に生じた隙間が広がる可能性が高い。
取り敢えず自宅で交わることを控えようという結論に至ったが、後から考えてみれば、それが破綻への第一歩となってしまったことに間違いはなかった。
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