父と母と娘、、三人の共同生活は、至極平凡なものではあるが、幸せな毎日であった。
夫婦の夜の営みを除けば、だ。
夫は妻の躯を丁寧に愛撫する。
手、指は勿論、唇、舌を用いて妻の全身を隈なく愛するが、反応を示さぬペニスは萎えたままだ。
それでも妻の躯が悦んでくれれば、夫としても嬉しい。
入念な愛撫により、妻は果てることも出来てはいるのだが、夫が妻との行為において射精に到ることはなかった。
夫婦として挿入行為により、互いが果てたいのだと主張する妻。
妻も夫の躯に様々な刺激を加え、機能の回復を試みるが、結果は悉く思わしくない。
二年に渡り、二人は互いの躯に想い付く限りのことは試みた。
妻に済まないと思いながらも、打つべき手が思い浮かばない夫。
そんなある日、頬を染め視線を逸らせながら、ある提案を妻が持ち掛けてきた。
「あたしが・・じ、自分で・・してるところを見たら・・どうなのかな・・?」
「自分で・・?」
妻の提案内容。
それは妻が自慰に耽る姿は、夫に何らかの刺激を与えるのではないか、というものであった。
「・・し、したことあるの?」
女性の性に疎い夫は、あたかも思春期の少年のように問い掛ける。
まるで少女のように羞らいながら、小さく頷いた妻は愛らしかった。
「・・見せて・・くれる?」
恐る恐る申し出る夫。
こくりと頷く妻。
無言のまま服を脱ぎ始める妻は、その表情からして普段の表情ではなかった。
挿入行為こそ無いものの、夫婦が睦み合うに際してさえ見せたことのない表情。
夫が初めて眼にする妻は、その裡に秘めた性欲を誰かの眼に晒す羞らい故に昂ぶり始めていた。
「・・電気、消して・・。」
戸惑いを隠せない夫。
消灯したら見ることが出来ない。
すぐに妻も自身の発言が、この場の趣旨にそぐわないことに気付く。
「そっか。そうだよね・・。」
どちらかと言えば、あっけらかんとした態度で性行為に臨む妻。
だが、睦み合うに際しては、必ず照明を暗くすることが常ではあった。
その妻が煌々と照らしつける照明の下、全裸を晒しながら自慰に耽るのだ。
己れの性欲の存在を認め、快楽を得ることを目的とした行為。
少なくとも誰かの眼に晒す性質の行為ではなく、むしろ秘匿されるべき行為。
妻に済まないと想っていた。
はしたない姿を自ら晒させてしまう事態に恐縮する夫。
妻に感謝していた。
自分の機能不全を何とかしようと考え、恥を忍んで提案をしてくれた妻に対する感謝。
妻に驚いていた。
どちらかと言えば、性的な営みに対しては淡白な妻。
二十代後半ではあるが、二十歳そこそこに見える容姿。
スリムと痩せ気味の中間地点、絶妙なバランスを保つ肉付きを魅せる躯。
その割には、みっしりと必要な部分に必要なだけ肉が付いていた。
特に胸、そして腰から尻にかけてだ。
対照的に肩の辺りの肉は薄く華奢な印象を与えている。
その肉体を覆う抜けるように白く、肌理の細かい肌はしっとりと潤いがあり、張りがった。
成熟に至る直前のような処々に未熟さを残したアンバランスな躯は、独特の妖しくも清楚な美しさを備えている。
そんな妻が、その心の闇にひた隠しにしてきた情欲を己れの指により引き出そうとしているのだ。
夫は固唾を呑んで妻を見つめていた。
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