実父と死別した時、コダマは三歳、母のノゾミは未だ二十四歳。
正直なところコダマにしてみれば、実父の記憶は皆無に等しい。
女として誰かを頼りたい母の気持ちも分かる。
或いは金銭的な問題もあったのかもしれないが、詳細は分からない。
ある日、母に連れられて家を訪れた一人の男。
「新しい『お父さん』・・よ・・。』
・・『オトウサン』・・?
・・そういえば・・ウチにはいない・・。
それが当時、幼いコダマの頭に浮かんだ最初の感想。
『オトウサン』が『お父さん』として共に暮らすようになったのは、それから半年後。
新居に引っ越した父母と娘の慎ましくも平凡な生活が始まった。
数年後、妹のヒカリが生まれた時、家族の関係に微妙な変化が生じる。
それはコダマだけが、、しかもコダマ自身すら極く稀に感じる些細な違和感に過ぎなかった。
それまで父母の視線は、全てコダマだけに向けられていた。
当然だが、家族は生まれたばかりの妹を中心に動くようになっていく。
・・しょうがないよ・・ね・・。
・・赤ちゃんだもん・・。
無理矢理、、という程ではないが、コダマは敢えて自分の裡に芽生えた違和感を押し殺す。
大人しく真面目な優等生、、出来た姉としての仮面を被ることに徹するコダマ。
或いは『聞き分けの良い子』てして振る舞うことは、コダマ自身の存在をアピールすることであり・・ひょっとしたら細やかにして無意識の反抗だったのかもしれない。
何よりも生まれた妹は可愛かった。
暇さえあれば、眠っている、或いは泣いている赤ん坊を飽きずに眺め続ける少女。
日々成長していく妹。
寝返りを打つようになり、這い始め、掴まり立ちをする妹の成長を喜ぶ三人。
妹も姉に懐く。
母にそっくりな姉妹。
『本当の姉妹みたい。』
ある日、誰かの無神経な発言が三人の神経を逆撫でする。
二人の大人は憤るが、ある事実にコダマは気付いてしまう。
本当の、、血の繋がりがある母娘であり、姉妹であるノゾミとコダマとヒカリ。
父と妹にも血の繋がりがある。
父と母には夫婦という絆がある。
だが、父とコダマは成さぬ仲であった。
血縁という観点から視ると、コダマだけが僅かに、しかし確実に一線を画す存在であることに気付いてしまったのだ。
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