忘れよう。
忘れる以外の選択肢は無い。
幸いにして二週間も過ぎた頃、コダマに『月の障り』が訪れる。
ホッと胸を撫で下ろす少女。
もし・・万が一・・。
・・止そう。考えても仕方がない。
努めて考えないようにしながら、その実、常に不安に押し潰されそうになっていた二週間。
最悪の事態は回避出来た。
回避出来たからこそ、考える余裕が出来ていた。
身を守る策を講じる必要がある。
とは言え、同じ屋根の下に暮らしているのだから、策と言っても限界がある。
母と錯誤させるような服装を慎む。
出来るだけ脱がし難い服装をする。
その程度に過ぎなかった。
少女が安堵の溜め息を吐いてから、一ヶ月近くが経過していた。
その間、男は一度だけ、、それは数日前のこと、、泥酔して帰宅したことがあったが、事無きを得ることが出来た。
足許の定まらない男を迎え入れ、布団を敷き、寝かせるだけで冷や汗モノだ。
ビクビクとしながら寝入ることすら出来ず、入浴後も寝巻きの上からオーバーオールのパンツを穿いて身構え、そのままの格好で就寝したのではあるけれど。
更に一ヶ月が経過した頃であった。
平日であるにも関わらず、男は未だ帰宅していない。
ヒカリは既に就寝し、日付けが変わるには、まだ間がある時刻であった。
生理中のコダマは体調を崩していた。
微熱があり、下腹部が痛む。
身体が重い。
所謂、『二日目』だ。
痛み止めをいつもより多めに服み、鈍痛を宥めながら布団に潜り込んだ少女は、クスリの効きめもありウトウトと微睡む。
微睡みが深い眠りに移行した直後、耳障りな金属音がコダマを眠りから引き戻す。
腹立たしい想いとともに布団から抜け出した少女は、ダイニングを横切り玄関に向かう。
開錠し、玄関のドアを開けると、冬の空気とともに男が、タタラを踏みながら雪崩れるように玄関に入って来た。
煽りを喰らい、その場に押し倒されたコダマの頭に浮かび上がる数ヶ月前の悪夢。
繰り返される悪夢。
惨劇が始まった。
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