「・・頭、痛てぇ・・。」
呟きながら、のっそりとダイニングに姿を現した四十半ばを過ぎた男。
昨夜までは父と呼んでいた男、そして妹にとっては今尚、父であり唯一無二の存在として在り続けている男。
怒り、哀しみ、そして何よりも恐怖の為であろうか、背を向けたまま、少女の躯は小刻みに震えていた。
コダマの動揺に気付かぬまま、妹と父は会話を続けている。
「お父さん、呑み過ぎ?」
「うん。何にも覚えてない・・」
途中までの記憶はあるが、どの店で呑み、いつどうやって帰宅したかすら覚束ない。
朝、目が覚めたら自分の布団であった。
声を上げて笑うヒカリ。
「コダマも寝てたんだろ?」
「・・う、うん。寝ちゃった・・みたい。」
・・覚えて・・いない・・?
或いはこれが最善の結果なのかもしれなかった。
いや、この状況に導く為に少女は屈辱に耐え、惨めな想いをしながら苦痛を我慢したのではなかったのか。
全てはコダマの想い描いた図に収まったのだ。
だが、しかし・・。
少女の想いの持って行き場が無かった。
単純に犯されたのではない。
家族に襲われたのだ。
男の亡き妻の代わりに、だ。
信じていた保護者に代用品として性行為を強いられたのだ。
欲望の対象として予め標的にされていた方が、まだマシだったかもしれない。
まるで何かを忘れようとするかのように黙々と朝食の準備を進めるコダマ。
手を止めたら、その場で泣き崩れてしまうに違いない、そんな確信。
「出ぇー来た。お待ちどう様ぁ・・。」
殊更、朗らかに振る舞う少女は、震える手で朝食を食卓に並べながら妹を促す。
「お箸・・とお皿、お願・・い。」
限界であった。
朝から具合が悪い。
少し横になりたい。
せめて、この場から席を外したかった。
・・それくらい・・
・・許して・・よぉ・・。
ささやかな、あまりにも細やか過ぎる望みは、あっさりと聞き届けられた。
「『後始末』は俺とヒカリがするから・・」
負担を掛けて悪かった。
疲れているのかもしれない。
無理するな。
ゆっくり休め。
『後始末』・・だと・・?
それは・・後片づけに過ぎない。
僅か数枚の食器を洗い、拭き、所定の位置に納める作業に過ぎない。
昨夜、辱しめられた後、絶望の淵に佇みながら為した行為。
それこそが『後始末』だ。
最低の娼婦にすら耐えられないであろう昨夜の『後始末』。
その身に欲望を無理矢理、押し付けられ、一方的に解消させられた思春期真っ只中の少女、、それが十四歳のコダマであった。
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