「おはよ。休みの日だけ早起きさん。」
「へへ。お腹、空いちゃった。」
・・ちょっと待ってて・・・。
そう言いながら歩を進めれば、未だ鈍い痛みが下腹部を疾る。
湯を沸かしつつ冷蔵庫から食材を取り出し、手早く朝食の用意をしながら、自分自身に問い掛けるコダマ。
自分の声は、表情は、態度は不自然ではないだろうか。
どうやら妹は気付いていないらしいが、昨夜の出来事を自分の胸だけに納めることは、果たして可能なのだろうか。
男は・・父はどんな顔をして自分に向き合うのだろうか。
「お父さん、起こして来よっか?」
「え。あ。昨日、遅かったから・・」
・・寝かしておいてあげよっか・・。
それが可能であれば、男と顔を会わせないで済ませたいというのが少女の本音であった。
だが、次の瞬間、妹、、ヒカリが口にした無邪気な言葉がコダマの胸を抉ぐる。
「・・・お姉ちゃん、何だかお母さんになったみたい。」
妹に背を向けシンク台に向かい、朝食の支度をしていた少女の細い背が固まった。
背中だけではない。
全身、表情、そして内臓が強張っている。
咽喉がカラカラだ。
母になったのではなかった。
妻にされたのだ。
母の代わりに。
しかも強引に、だ。
無理矢理に、だ。
突如として心臓の鼓動が早まり、呼吸すら儘ならないコダマ。
「そ・・そう?・・お姉ちゃん・・お母さんに似てる・・か、な・・。」
大きく息を吸い、吐き出して呼吸を整えたコダマは、誤魔化すように問い掛ける。
「うん。後ろ姿とか、雰囲気とか・・・」
・・ホントにお母さんだって・・
・・ビックリする時あるもん。
時として残酷ですら在り得る無邪気な回答が少女の精神を押し潰す。
ああ。
だから、か。
だからなのだ。
コダマの脳裏に昨夜の悪夢が蘇る。
包丁を握る手が小刻みに震える。
涙が滲み、視界が霞む。
「・・お姉ちゃん・・?」
異変に気付いたヒカリが不審そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫。タ、タマネギ・・」
我ながらベタな言い訳だと思いつつ、コダマは平静を装う。
今、妹に不安を与えるわけにはいかない。
その時、コダマにとって最大の動揺をもたらす事態が勃発する。
「あ。お父さん、おはよー。」
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