真希「彩香おはよ~!彩香が元気になって良かったよ~!」
彩香「おはよう!うん…もう大丈夫!真希のおかげだよ…ありがとうね!」
真希「な~に言ってんの!もうすぐ文化祭なんだから、彩香も楽しまないと♪」
手術の後、約束通りに原田からの連絡もピタリと止んだ。彩香の術後の経過も良く、下腹部の違和感も徐々に治ってきていた。
精神的にはまだまだ辛かった彩香だったが、これ以上両親にも心配をかけたくないという思いから、術後2日間だけ学校を休んで水曜日には登校を始め、早くも1週間が経過していた。
(あたしも…どんなに辛くても…日常を取り戻したい…!)
自分を犯した飯塚、増田、2年の3人も練習をしていることや、健人が怪我で練習には参加出来ずに見学をしていることが理由で部活には一度も顔を出さなかったが、彩香は少しでも前向きにこの期間を楽しむことを決め、勇気を出して登校した。
親友の真希が体調を気にかけてくれたり、クラスメイトが心配してくれたりして、彩香は少しずつ元気を取り戻し始めていた。
そんなこの時期…学校は1週間後に迫る文化祭の話題でいっぱいだった。
星降祭(せいほうさい)
照星高校の生徒たちが最も盛り上がる丸3日間の文化祭。病み上がりの彩香だったが、学級委員を任されていたため、早速準備作業に追われていた。
「ねぇねぇ!星は誰に渡す?」
「ロマンチックだよね!交換できたら両思いなんだって!」
「あたしも交換してみたいなぁ~!」
文化祭の準備中、女子生徒たちが盛り上がっていた話題…。文化祭自体に盛り上がっているのはもちろんだが、星降祭にはお年頃の高校生達にとっていくつかの目玉イベントがあった。
文化祭初日、生徒全員に星のバッジが配られ、男子には青い星を、女子には赤い星を渡される。
その星のバッジを好きな者同士交換出来たらカップルが成立するというものだ。
交換はどのタイミングでもいいが、2日目の本祭の夜…キャンプファイヤーが終わった後に好きな生徒に告白し、星を交換し合うのが人気の告白方法だった。
「カップルルームとかいうのもいいよな!」
「噂では中で隠れて結構イチャイチャしてるらしいぜ!」
「あ~!男子って本当にそういうことしか考えてないよね~!」
女子生徒に対して男子生徒が特に盛り上がっていたのはカップルルームというもので、厳密には広い多目的室という部屋を仕切りで区切って休憩所として使えるようにしただけの場所なのだが、本祭で星を交換したカップル達が後夜祭の日の休憩所で、バレないように静かに愛を確かめ合う…というのがもっぱらの噂だった。
女子は星を交換する淡い恋愛を、男子は交換した後の女子との戯れを想像して盛り上がっていたのだ。
もちろん、彩香もこの話は聞いたことがあり、知っていた。
(あたしも…健人くんと…交換出来たら…。)
彩香はそう思いつつも、健人を傷つけて、健人を諦めた私が今更何を言っているんだと自分を戒めた。すると、一緒に準備をしていた真希が話しかけてきた。
真希「どうしたの?神妙な面持ちで!彩香は渡す人いるの~?」
彩香「え!あ…そんなんじゃないよ!ただ…いいなぁって思って…。」
真希「え~?本当に~?…あたしはね、実は…渡したい人いるんだ…!」
彩香「うそ!いいなぁ~!…誰?誰?」
真希「それ聞く~?…じゃあ…彩香だけに言うね…?」
真希が彩香の耳に口を近づけて、声をひそめる。
真希「クラスの…田島健人くん…。」
彩香「…!!」
彩香は一瞬背筋が凍りついてしまうような感覚に襲われた。
(真希の…真希の好きな人が…健人くん…?)
彩香は一瞬、健人と交際していたことを真希は知らないのかと疑った。
しかし、2人が交際していたことはバスケ部員にこそ知られていたが、健人も彩香も交際していることを吹聴するような性格ではなかったために、知らなくてもおかしくはなかった。
それに何より、自分の好きな人伝えて彩香の耳から顔を離した後、顔を赤くして恥ずかしそうに見つめる真希の姿に、彩香は真希が本気であることを悟った。
彩香「…すごく…いいと思う…。あたし、応援する!」
彩香は自分の気持ちを悟られないように真希にそう伝えると、真希の表情はさらに明るくなった。
真希「ホント!?ありがとう彩香~!…じゃああたし、キャンプファイヤーの後に田島くんに渡しちゃおっかな…!」
真希の満面の笑みに、彩香は笑顔で応えた…。
一方…2人と同じ部屋で準備をしている健人は真希の気持ちなど知るはずもなく、気持ちは彩香と同じだった。
(星の交換か…。オレが渡したいのは…彩香以外にはいない。彩香は受け取ってくれるだろうか…。もし受け取ってくれるなら…その時にもう一度彩香としっかり話をしよう。)
しばらく休みがちだった彩香が登校を始めたのを見て、健人も彩香に一刻も早く部活に参加してもらえるようにと治療に専念していた。医者も驚く回復力で、ギプスも取れて松葉杖を使わずとも歩ける状態になっていたが、それでも医者から部活動への復帰はまだまだ止められていた。
(彩香にダサい格好ばっか見せられない…早く足を治して…早く復帰しないと…!)
健人はダメ元であることは分かっていても、たとえ嫌われたとしても、もう一度彩香に想いを伝えたいと思った。
その日の放課後…。
教室から帰ろうとする彩香を健人は呼び止めた。
健人「彩香!!」
彩香「…!!」
健人「彩香…ちょっと話があるんだけど…いいか?」
彩香「…健人くん…あたしとなんか…喋っちゃダメ…。」
真希を応援すると言った手前、健人と話しづらくなってしまった彩香は素っ気なく答えた。
健人「なんだよそれ…。とにかく、ちょっと話したいことがあるんだけどいいか?」
彩香「…え…?あ、ちょっと!」
健人は返事を待つことなく彩香の手を握ると、人気の無い校舎裏へと彩香を引っ張っていった。
彩香「ちょっと!…そんな…急にどうしたの?」
健人「ごめん……でもオレやっぱり、彩香のこと諦められないんだ…気持ち悪いよな、オレ…。」
彩香「そ、そんなこと…ないよ…。」
(そんなことない…健人くん…。悪いのはあたしなの…。)
俯いて答える彩香に健人は本題を切り出した。
健人「あ、あのさ。オレ、文化祭の…アレ!あの…星!あるだろ?…それなんだけど、彩香に渡したいと思ってる。」
彩香「…!!」
顔を上げて驚いた彩香は、すぐに自分もそのつもりだったと答えたかったが、今更そんな都合のいいことは言えない。
また、親友の真希のことを思い、彩香は自分の気持ちを押し殺すと、黙って俯いた。
健人「本祭のキャンプファイヤーの後…彩香が嫌なら来ないでくれていい。オレは部室で待ってる。…ごめんな!無理矢理連れてくるようなマネして。それじゃあ、また明日!」
彩香「え!あ、ちょっと…!」
彩香の制止を振り切るように、健人はニコリと満面の笑みを彩香に見せると、いつものように部活の見学に向かった…。
彩香は健人が去って行った後、部活には行かずに学校から帰宅した。
夕飯を食べた後、ゆっくりと湯船に使って一日の疲れを癒すと、いつものパジャマに着替えてベッドに横になる。
(健人くん…なんであたしなんかに…まだそんなに優しくしてくれるの…?)
健人の優しさに涙が目に滲む。
親友の真希の為にも、もう健人を想ってはいけない。
しかし、そんな風に思えば思うほど頭から離れない、健人のあの笑顔…。
(あたし…健人くんのことが…大好き…!)
彩香の体の奥で、何か熱いものがジンジンと疼く…。
水泳部の倉庫でレイプされて以降、様々な男たちの性欲を満たすために行為を強要されてきた彩香にとって、原田からの連絡も来ないこの期間は、いわば始めて与えられた自由、女子高生の日常。
普通の女子高生として、勉学に励み、恋愛が出来る、約半年ぶりに性行為とは無縁な日々を送れるかけがえのない期間…。
だが、それを彩香の身体は許さなかった…。
性行為が彩香に与えたものは、恐怖や痛み、屈辱だけではない…。彩香のレイプされた凄惨な記憶を一時的にでも忘れさせるもの…それもまた、性の悦びだった。
性行為が安堵や快感をもたらすことも彩香の身体は覚えてしまっていたのだ…。
(健人くん…っ……健人くん……!)
健人を想う度に身体の火照りを感じると、彩香の指は無意識にパンティの中の性器をなぞり始めた…。
彩香「……ひぁっ………んっ……くぅっ……。」
彩香自身のしなやかな指でクリトリスを優しくこね回し、熱をもって愛液を滲ませるワレメをなぞるように上下させる…。一番気持ちいい場所は、彩香自身が一番理解していた。
(け…健人くん…健人くんのが…あたしの…中に…っ!)
健人の熱く硬い肉棒を想像しながら、自らの膣に中指と薬指を挿入する。
クチュ……
彩香「…はぁぁ…っ…!」
ベッドの中で卑猥な音を響かせて繰り広げられる愛に飢えた自慰行為…。彩香は健人との甘いセックスを妄想し、その快楽に溺れていた。
彩香は顔を真っ赤にして息を荒げながら、自ら性感帯への刺激を続けた。
(健人くんっ……健人くんのを……あたしの中に…っ…中にいっぱい…出して…!)
高校生になってすぐに始まった陵辱の日々…。そこで培われた経験から、それまでの彩香には想像もつかなかった卑猥な妄想が頭の中で繰り広げられ、それに呼応するかのように性器を愛撫する指も一層激しさを増す。
ニチュっ…クチュクチュクチュクチュ!
彩香「ぁっ…あっ…やぁっ…ぁんんっ!…っ!」
彩香の身体の仰け反り軽いオーガズムを迎える。
しばらくして息も整い、オーガズムの波が去ると、その後彩香を襲うのは、自分への嫌悪感とやり場のない喪失感だった。
(あ、あたし…何で…?あたしって…最低…!もう…嫌…!)
自分の指に絡みついた糸を引く愛液…。彩香はすぐにその愛液を洗面所に行って洗い流す。
彩香は親友の真希を裏切ってしまったように感じたこと、健人を想って自慰をしてしまったことから、ベッドで1人、涙を流した…。
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部活を見学し、学校から帰った健人。
彩香がベッドで自慰をしている頃、時を同じくして健人も自慰に耽り、自らのペニスをしごいていた…。
健人「うっ……くっ……!」
限界を迎えるまでしごくと、ティッシュに射精をした。
健人のオカズは、彩香との思い出だった。
ペニスに絡む彩香の舌の感触、熱く柔らかく包み込む膣肉の感触…。健人は思い出すだけで我慢が出来なかった。
(オレ…何やってんだ…!)
健全な男子高校生の健人にとって、彩香との経験を思い出すのは仕方のないことだった。
大好きな彩香によって自分の意思でなく口淫され、筆下ろしまでされたのに、その後急に別れを告げられる…。
それは空腹時に大好物の料理を見せられるだけ見せられた後に、急にお預けをくらうようなものだった。
それでも彩香をオカズにしてしまったことに自分を責める健人は、自分がどれだけ彩香のことが好きなのかを再確認した。
しかし…同時に健人が考えてしまうのは例の動画のことだった。画質も悪く鮮明な映像ではなかったにしても、表情や醸し出す雰囲気が、健人が幼い頃から知っている彩香そのものだった。彩香であるはずがないとは思っていても、気になってしまう。
(くそっ…そんなわけない!…オレは彩香に告白するんだ…!)
交錯する3人の想い…。恋愛のジレンマを感じながら、文化祭を迎えた…。
校門には星降祭と書かれた明るく大きい看板が掲げられ、文化祭の独特の雰囲気を醸し出す。校内には各クラスで出店した屋台やイベントブースなどが所狭しと配置され、集まった一般客などで溢れ返って大きく賑わいを見せていた。
真希「彩香~!ほら、見て見て!お化け屋敷入ろうよ!」
真希「同じポーズで写真撮ろ~!!」
真希「みんなでたこ焼き食べよっか!」
文化祭初日…彩香は学級委員で忙しかったが、空いた時間に真希やクラスメイトに誘われるがままに文化祭を楽しんだ。
(あ、あたし…楽しい…!こんなに…楽しんで…いいのかなぁ…!)
彩香は悩みこそ絶えないが、高校生になって、初めて自分なりに思う存分青春を謳歌した。
あと数日したら原田との日々が再び始まることなど忘れ、はしゃぐ彩香。
だが…まるで0時を回ると魔法が解けてしまうシンデレラのように、彩香の幸せな青春のタイムリミットは、人知れず、彩香も、原田さえも知らない場所で迫っていた。
彩香の感じている青春など、所詮は夢や魔法ででしかなかったことを思い知らされることになる、タイムリミットが…。
迎えた2日目…。
文化祭の本祭にあたるこの日の醍醐味は、何と言っても夜から校庭で行うキャンプファイヤーだった。
真希「わあぁ!すごいね、彩香!」
彩香「うん!すごい…綺麗…!」
火の粉を飛ばしながら火傷しそうなほど熱く燃え滾るキャンプファイヤーの炎が、照星という高校名にふさわしく、夜空を赤く照らしていた。
彩香はこの日も文化祭を存分に楽しんでいたが、この日が来るまで健人と真希についてずっと悩んでいた。
自分と星を交換する為にキャンプファイヤーの後部室で待っていると言ってくれた大好きな健人…。
しかし、いつも彩香を元気にしてくれる真希が、健人に告白して星を交換しようとしている…。
好きな人と親友のどちらかを選ばなければならない…。
そんな彩香だが、真希と一緒にふざけたように踊るフォークダンスは本当に楽しく、心の底から笑うことが出来ていた。
手を繋いで踊る真希が、彩香に口を開いた。
真希「あ、あのさ?彩香にお願いがあるんだけど…田島くんて彩香は中学一緒だよね?」
彩香「うん…そうだよ?」
真希「うーん、お願い!!キャンプファイヤーが終わった後……あ、学級委員の仕事が終わってからでもいいから、これ、渡してくれないかな…?」
真希が彩香に渡したのは一通の手紙、おそらく健人を呼び出す内容が書かれたラブレターのようなものだろう。
彩香「真希……うん。大丈夫、任せて!今、渡してくるよ…!」
真希「え、本当に…?恥ずかしいけど…じゃあさ、絶対に学校から帰る前に開いてって伝えておいてくれないかな??」
彩香「わかった!」
一旦真希の元を離れると、駆け足で健人を探す。彩香にとって誰よりも輝きを放つ健人の存在は、すぐに見つけることが出来た。
彩香「健人くん!!」
健人「…!…彩香…!」
輝くような目で彩香を見つめる健人に、彩香は目を合わせることが出来ないまま、口を開いた。
彩香「こ、これ!真希ちゃんから…。あ!必ず帰るときに開いてって。それじゃあね…!」
半ば強引に健人に真希からの手紙を渡すと、すぐに踵を返して去ろうとする彩香。
健人「あ、待ってくれ!」
健人は彩香の手を掴んで引き止めた。
健人「約束した通り、オレ…待ってるから…!部室で…ずっと…!」
彩香「………っ!」
彩香は健人に掴まれた手を振りほどき、思わず涙が溢れそうになってしまったことを悟られないようにそそくさと走り去る。
引き止めてくれる健人の優しさが、かえって彩香を辛くさせた。
感情を押し殺し、何事も無かったように真希の元に戻ると、彩香は笑顔で健人への手紙を渡してきたことを真希に伝えるのだった…。
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生徒達は小一時間は踊り続けただろうか…。自分の骨組みの殆どを燃焼させて、役目を終えたように崩れ始めるキャンプファイヤー。星降祭の本祭が終わりを告げる瞬間だった…。
彩香はしばらく、プスプスと音を立て、最期の力を振り絞るように弱々しい火を上げるキャンプファイヤーを見つめていた。
(あたしも…あたしなりのケジメを付けないと…!)
燃え尽きたキャンプファイヤーから勇気をもらったかの様に、彩香は悩むことをやめて決心した。
部室で待つ健人に会いに行き、本当の意味で別れを告げ星の交換を断るーーー。
真希のためには、会いに行かない方がいいかも、会いに行ってはいけないかもしれないと思ったが、健人、そして真希へのケジメとして、健人にもう一度ちゃんと別れを告げて、健人との連絡も一切断つべきだと思った。この別れを告げた後、彩香はバスケ部も退部することを決めていた…。
彩香にとってはとても辛い選択だったが、真面目な彩香らしい選択だった…。
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キャンプファイヤー終了後、彩香は学級委員の片付けの仕事に追われていた。
(仕事、早く終わらせて、健人くんに…伝えないと…!)
彩香は健人に別れを告げ、真希の手紙を一刻も早く健人に見せなければならないと思った。
その為、教室に運ばなくてはならない道具や荷物を、少し無理をして大きめの段ボールに詰め込むと、段ボールを抱えて早足で教室へ向かった。
彩香が階段を登り、教室へ続く廊下へと向きを変えた…その時…!!
彩香「きゃあっ!!」
何かに足が引っかかり、彩香は思いっきり廊下に転倒してしまう!
ガシャア!……
文化祭で使った道具や荷物が段ボールから廊下に散乱してしまう。
?「彩香、久しぶりだなぁ…!そのコケっぷり…いい気味だぜ…!」
どこかで聞いたことのある声…倒れてしまった彩香が後ろを振り向くとそこには……!!
彩香「ぁ!……ぁぁ!…」
怒り、悲しみ、憎しみ、そして恐怖…。彩香の頭の中様々な感情が爆発し、震えが止まらず腰は抜けたように動けなくなってしまう。
彩香「……さ……佐野……くん…!」
震える身体から絞り出すように目の前の男の名前を呼ぶ彩香…。
地獄から舞い戻ったようにギラつく目で彩香を見下す佐野という男…。
彩香の魔法が解けてしまう鐘の音が今、鳴り響く…!
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