◎セミナーの裏側
セミナー参加教授のギャラは格安だ。優秀かつ豊かな家庭の高校生をスカウトできるからとかなんとか、世間は真っ当そうな理由をつけたがるが、実は違う。このホテル、予備校スタッフの手で、全室に盗撮用カメラが多数仕掛けてあって、受講者が何をしているか、すべて覗けるのだ。お堅い教授たちの、暗い願望を満たすことで、ギャラを抑えているのだ。
いうまでもなく、盗撮カメラの主な用途は、講師のセンセイ方が、受講者の美少女や美少年の裸や、排せつ行為や、オナニーを覗き見ることだ。センセイが、ある受講者をとくに気に入った場合、個人面談で、入学の確約と引き換えに、身体を要求することもある。大半の受講者はためらいなく受け入れるが、拒んだものは当然不合格になる運命だ。気弱な女生徒の中には、合格の約束と引き換えに数人の教授に犯されて、医学部進学後も同じ目に遭わされ続けるのかという不安に勝てず、医師への道を断念したものも少なくはない。
盗撮カメラは思わぬ形で役立つこともあった。過去、自室に入ったとたん、マリファナを吸い始めた受講者がいた。もちろんその名はブラックリストに載って、各校とも即時に不合格決定だ。親には部屋でマリファナの吸い殻を見つけたことにして、親子面談の際に通告、受講者の更生を祈ることとなった。
到着直後から清楚な美少女ぶりで目立った宏海は、教授たちほぼ全員の覗きの対象になった。浴室に向かいシャワーを浴びる宏海を、それぞれの部屋で年甲斐もなくちんぽをしごきながら見つめる教授たちの目に飛び込んだのは、その存在を信じられないイチモツだ。「ニューハーフだったのかよっ」。だが、そこで覗きを止めた教授は半数ぐらいだった。宏海の志望校からは、二人の教授が参加していたが、そのうち一人は画面をしっかり見つめて宏海の身体のどこにも手術跡がないことを確認し、誘拐してでも連れ帰って詳細に調べたいと思った。もう一人は今回急きょ特別参加した八十近い名誉教授で、すぐに覗きを止めたが、録画だけはしっかり続けていた。
セミナー二日目の午後辺りで、教授陣の言動の端々から、宏海は自分が男だとバレているのがわかった。一部の受講者にも知られたようだ。不思議に思って部屋を探すと、十数台のカメラが次々に見つかった。モニターしていた予備校スタッフは慌てたが、宏海が何も言ってこないので、迂闊な行動はとれない。
セミナーの裏の目的を察した宏海は面談室を調べた。ここでもカメラを発見すると、あとは自分のハッキング能力を試すだけだ。セミナー最終日までに、宏海はハックしたサーバー経由で、五人の受講者がヒヒジジィどもに蹂躙される動画を手に入れた。その中で一番かわいい娘は、受講前はまだ処女だったのに、セミナーが終わるまでに経験人数は八人になっていた。スタッフにも犯されたのだ。
予備校側は、宏海が証拠として抑えているカメラを取り戻そうと必死だ。セミナー費用を、旅費も含めて全額割り戻す提案(「キミに現金で渡すから、ご両親には報告しなくていい」)から、大学合格後に奨学金を支給する計画(同)まで提示したが、宏海はうつむくだけで返事をしない。ついに焦ったスタッフが、宏海が受講中に合鍵で部屋に侵入したら、宏海が仕掛けていたアラームで警察に通報され、下着泥棒の疑いで拘束されてしまった。完全黙秘しているため、セミナー後も保釈されていない。結局、予備校側は不利な証拠を可能な限り減らすため、今回と過去に撮ったすべての録画を破棄し、教授らにも手持ちの録画を引き渡すように要請した。宏海は最初から自分を含めた全録画の破棄を狙っていたのだが、この種の案件で、明示的だろうが暗示的だろうが要求を突きつけると、恐喝の罪に問われる危険がある。あくまで自らやらせることが肝心だ。ここでうっかり証拠のカメラを返すと、予備校側が窃盗だなんだと居直る可能性があるから、そのまま家まで持ち帰った。
宏海の映った録画を取り上げられて、一番不機嫌になったのは大川名誉教授だった。そう、宏海の祖父である。祐実から宏海がこのセミナーに参加すると聞いて、急きょ講師陣に加わったのだ。だからセミナーのパンフには名前が載っていない。大川は、かつて愛した芸者のひなこ、希美の母親そっくりに宏海が成長していたことに、ちょっと動揺した。たしかに希美にも似ているが、座敷でお披露目されたときのひなこと瓜二つだ。なにより、あの見事な形の大きく美しいバストが、ひなこの遺伝子の存在をしっかり示している。これが三月には切除されてしまうのは惜しいが、映像として手元に残るのは慰めだった。それが、主催者の予備校側が、宏海の映像を破棄しろと無茶をいう。この腹立たしさをどう収めろというのか。
大川は宏海が生まれるとすぐ、めったに会うことがない希美のもとに駆け付けて、孫は自分が引き取ろう、大川一族にふさわしい教育をしようと申し出た。身勝手な提案に怒ったのは、まだ若かったタカハシ氏だ。妾腹の娘だからと結婚式にも出席しなかった横暴なジジィに、自分の息子をむざむざ奪われては男が廃る。その場で大喧嘩になって、タカハシ氏は今後、大川を一歩も家に入れさせないと啖呵を切った。宏海はものごころついてからは一回も祖父に会っておらず、何をしているかも知らない。母の希美は、大川に認知されたとはいえ、ひなこの籍に入ったから旧姓は谷原なので、セミナー開会式で大川教授が紹介されたときも、ピンと来なかった。
大川自身は、ずっと祐実から宏海の成長状況について報告を受けていて、自分が名誉教授を務めている国立大の医学部を志望していること、合格圏内にはいるものの、成績にむらがあるので、合格確実とまでは言えないという情報も知っていた。受験ストレスで一時的な女体化現象が起きていることも報告は受けていたが、ここまで本格的な症状とは知らなかった。最初の覗き場面で、すぐに席を離れたのは、祐実を捕まえて、宏海の精神面への影響、性的嗜好の変化を問いただすためだった。
大川は祐実から宏海が女の裸でちゃんと勃起すること、性交も問題なくこなすと聞いて一安心した。宏海が女の格好で出歩くのは「期間限定」だからこそのお楽しみらしい。それよりも、試験管の中でだが、宏海から採取した精液に浸した卵は、かなりの高確率でXY型に受精するという、新たな報告が大事だった。宏海本人が純粋な異性愛か、両刀使いかは大きな問題ではない。大川の血筋をひく男の子を、女に孕ませることができるのか、それだけが肝要なのだ。祐実は、大川家の血を濃くするため、妹の結衣に宏海の子供を産ませたいと言っていたが、大川自身もいいアイデアだと思っている。母親の希美に種つけするのは、高齢出産になるのでいろいろ危険が大きいだろう。試験に使った卵子は、せっかくの男の子なのに、現状の法規制の中では廃棄せざるを得ないのがもったいなかった。
実はこの夏、希美を妊娠させたのは宏海の精子だ。元カレとの温泉旅行で、さんざん生中出しされた希美は、心配になって祐実に妊娠や性病感染の有無の診断を依頼したのだが、祐実はこのチャンスに、保存しておいた宏海の精液で、採取したばかりの希美の卵子を受精させ、麻酔で眠らせた希美の体内に注入したのだ。悪夢にうなされながら目覚めた希美は、祐実から金井の子は妊娠していないと告げられて安心した。そして、浮気したお詫びもかねて、今晩、夫のタカハシ氏に抱かれなさい、そうすれば無用な良心の呵責からも解放されるだろうと、祐実に諭された。
祐実は本当は自分が宏海の子供を受胎したかったのだが、三人目の娘を産んだあと、複数回にわたって妊娠中絶した後遺症で、子宮が弱っていて着床しないのだ。むろん、堕胎したのは検査で女の子とわかったからだった。結衣が妊娠して健康な子供を無事出産できるまで、まだ数年かかる。一刻も早く宏海の子供をこの手に抱くためには、希美に産んでもらうしかなかった。
宏海はセミナーから帰ってすぐ、田沼に事情を話すと、盗撮カメラを引き渡して後始末を依頼した。受講生が凌辱されている動画を持っていることは話さなかった。十数台のカメラのうち、数台のメモリには予備校スタッフが設置作業をする様子が残っていた。動作テストをしたあと、消し忘れたようだ。田沼がこの証拠をどう使って、予備校とどういう交渉したのかはわからないが、十日ほどたってから、田沼は宏海に「お前の取り分だ」と言って、二百五十万円を持ってきた。
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