◎宏海の秘密
宏海の胸がはっきり膨らみ始めたのは高二の晩秋、部活の陸上部を引退してからだ。乳輪や乳首もはっきり大きくなってきた。宏海の胸はその年の春ぐらいから少しずつ膨らみ始めてはいたが、目立つほどではなかった。だが、ハードな練習から解放されたら、乳房の成長に加速度がついた感がある。肩や腕の筋肉の脂肪化が進み、身体全体に丸みがついた上、骨盤が大きくなって、へそのライン辺りにくびれができた。尻から太腿にも脂肪がついて、むっちりしてきた。もともと身体は柔らかい方だったが、今は女性のようなM字開脚もできるほど、骨格も変化したようだ。布地が厚い冬の学生服は体形変化を隠してくれたものの、薄着になる春夏は、いやでも級友たちに女体化現象を気付かせてしまうだろう。
宏海は小六のころ、急激に太りだして胸も膨らみ、アンコ型の相撲取りみたいな身体つきになった。同級生の女子は、まだほとんど全員、胸がペタンコだから、一時は「クラス一の巨乳」とからかわれた。心配した母親の希美は、当時は医学部教授だった叔母の祐実の診察を受けさせた。思春期直前の男児にたまにあるホルモンバランスの崩れと診断され、数回のホルモン剤注射を受け、同時に脂肪を筋肉に変えるため運動をするように指導を受けて、ジョギングを始めたら身長が伸び始めて巨乳化症状は収まった。
祐実はその後、新薬開発のトラブルに巻き込まれて大学を辞め、大手化粧品会社が設立したアンチエイジング研究所長(兼付属医院長)に転身した。宏海は経過観察を兼ねて、月一回程度、大学病院で健診を受けていたが、祐実の移籍で、宏海の健診も研究所でやることになった。セレブ御用達の研究所なので、利用者には庶民の常識を超える診療費を請求されるのだが、そこは所長と親戚の強み、一般の医院と変わらぬ料金に収まっている。宏海の症例はやや特殊なので、祐実は逆に研究協力費を出してもいいといったが、タカハシ氏は「息子をモルモット扱いはさせない」と突っ張って、協力費の受け取りは拒んだ。
祐実は、宏海の胸の経過観察を続けながら、やや強めの男性ホルモン剤を投与すれば、今回も症状の進行は抑えられると判断した。しかし、今は大事な受験前、ホルモン剤の副作用で宏海が精神的安定を失っては元も子もない。祐実は本格的な治療は大学受験が終わるまで先送りし、残り少ない高校生活、とりあえずはサラシを巻いて胸を潰し、周囲の目をごまかして乗り切ろうと宏海に告げた。
三年の新学期初日、ヤクザ映画張りのサラシ姿で登校した宏海は、さすがに教師や同級生を驚かせたが、「医学部合格の願掛け」という説明でみな納得した。というよりも、それぞれが自分の受験勉強で頭がいっぱいで、誰がどんな格好をしようと、どうでもよかったというのが正しいかもしれない。親の期待と自分の人生がかかった一番勝負だ。妙な願掛けをした生徒は過去にもいっぱいいる。教師連中もサラシ程度に目くじらを立てる気はなかった。
あれは五月初めの放課後、みんな帰った後も、ひとり教室に残って、ICレコーダに録音した講義を整理していた宏海は、急に苦しくなったサラシをとり、また膨らんだ自分の胸を見て、ため息をついた。どうにかならないかと、きゅっとつかむと、柔らかくハリがある感触が心地いい。そのまま揉んでみたら乳首が立ってきた。外は雨、蒸し暑いから、サラシはもう巻きたくないが、ここまで大きくなると、なにか支えるものがなかったら、揺れていやでも目立つ。宏海はまたため息をついて、サラシを手に取った。
この様子を陰でこっそり覗いていた同級生がいた。宏海と同じ国立大の医学部を目指している渇田だ。渇田少年は、宏海の成績が急上昇しているのに危機感を抱き、もしやサラシに隠したスマホか何かでカンニングしているのではないかと疑い、ことあるごとに見張っていたのだ。それが、サラシの下から現れたのはDカップはあろうかというみごとな巨乳、渇田少年が仰天しないはずがない。
宏海は、眉隆突起が未発達で、顎は華奢、ひげは生えていないし喉ぼとけも小さい、つまり中性的というより女性的な顔だちなので、これに巨乳が加わると、もう美少女そのもので、股間にあんなモノが生えているのが信じられない。
そういえば去年の水泳の授業、坊主頭が水泳帽で目立たなくなった宏海は、どことなく少女っぽい雰囲気を出していた。男子全員で水中オニごっこをして、オニ役になった渇田少年、逃げる宏海の胸の辺りを両手でガバっとつかんだりしたが、あのときすでに宏海の乳房はAカップぐらいの膨らみがあって、柔らかい感触にびっくりした。普段からホモっ気を疑われている護田は、ふざけて「このおっぱい、お乳が出そうだぞ」とかいいながら宏海の乳首に吸い付いて、みんなに「この変態野郎」とボコボコにされていた。あのとき、もう少ししっかり触って、いや観察しておけばよかった…。今年は、宏海は水泳の授業をすべてトバしている。運動部は部活動の時間も体育の単位と数えられるから、三年になれば、ほぼ出席義務はなくなるのだ。勉強一筋でバリバリ童貞の渇田少年は、目の前のDカップに混乱し、そして自身はまだ気づいていないが、恋に落ちてしまっていた。
実は宏海の童貞は、中二のとき、祐実が奪っている。治療がうまく行っているか、男性機能に支障はないかの検査をするには、セックスするのが一番手っ取り早かったからだ。関係は健診のたびに続いているが、タカハシ氏の血を引く宏海のちんぽが、月一回のセックスで収まるわけがない。祐実は、勢いあまって宏海が同級生らを次々妊娠させる種馬と化しても困ると、催眠を駆使して、女性への性的関心を祐実自身と妹の結衣に限定するよう、強固な暗示をかけたぐらいだ。
宏海の秘密を知る人間はもう一人いる。そう、家庭教師の大学院生、田沼だ。田沼は前年の秋、家庭教師センターからタカハシ家に派遣されてすぐに、宏海の成績の伸び悩みは、長年の性的抑圧によるものだと気付いた。どうやら宏海は幼少時に性的虐待を受けた経験があり、性に関しては常に受け身で、極度に押しに弱い。さらに血縁者以外の女性を敬遠するような心理ブロックが人工的に置かれているようだ。そのため行き場を失った宏海の性的衝動は男性にむかい、意識下に女性人格を育ててしまった。それが宏海の支配権を求めて本来の男性人格と衝突、勉強への集中力を奪っているのだ。
田沼の専攻は心理学、それもいまどき珍しいフロイト学派なので、何もかもセックスに結び付けたがる傾向はあるものの、この分析には自信があった。過去にも同様の男子生徒を手掛けた経験があるからだ。根源的な治療と人格統合には何年もかかるだろうが、対症療法的に、体内の性的エネルギーのマグマを放出して衝突水準を下げてやれば、宏海は勉強に集中できるようになるはずだ。
ただ、性的エネルギーの放出は、現在優位な男性人格を弱体化させ、女性人格を表面に浮上させてしまう。女性人格は、これまで意識下にいて、人間関係には無知だから、とにかくわけもわからず、手近なところに愛情の対象を求める。つまり田沼には宏海に惚れられる危険性がある。前回は体重一二〇キロの男子中学生にしつこく付きまとわれる結果になり、男色の趣味は一切ない田沼、逃げ切るのに大変な苦労をした。
田沼は勉強の効率を上げるために心身をリラックスさせるマッサージをしてあげると宏海を誘い、首筋や肩を揉んで雑談に性的ジョークや自分の性体験を織り交ぜて、頃合いを見ながら宏海の下半身に手を伸ばした。宏海は初めのうちはさすがに嫌がっていたが、田沼が手コキマッサージを始めてから成績がみるみる伸びたので、次第に積極的に田沼に身をゆだねるようになった。とくに田沼が調教中の人妻の話には強く反応し、2連発3連発の射精も珍しくなかった。自分の母親が凌辱されている模様を、それと知らずに教えられて性的に興奮する美少年、なんとも下手くそなポルノまがいの現実だ。
宏海の巨乳化が加速し始めたのは、このころからだ。祐実との月一セックス、週二、三回の田沼の絶妙なマッサージ、そしてほぼ毎夜行われる結衣との素股と、男性ホルモンの収支が流出過多に傾いてもおかしくはない。
よく女の子は父親に、男の子は母親に似るというが、宏海は、髪の長さを除けば希美にそっくりだ。目を閉じて手コキマッサージを受ける宏海をみて、田沼は衝動的にキスをしてしまった。宏海は驚いて目を開けたものの、何も言わなかった。その後、田沼はマッサージの効果をさらに上げるためという口実で、オナホやバイブその他の淫具を持ち込み、宏海が母親に似て、拘束されるだけで軽い絶頂状態に陥ることを知った。マゾの血は母から子に遺伝するのだ。
「これで成績が上がるから」の殺し文句を唱えれば、宏海は田沼のやることをなんでも受け入れた。手足を拘束し、リング状の口輪をつけて、乳首をひねりながらイラマチオさせると、そそり立った宏海のちんぽから精液があふれ出る。宏海に使う淫具はもちろん、希美を喜ばせたお古ばかりだ。Dカップのパイズリからフェラへの移行も最近の定番コースだ。宏海の処女アナルも近くイタダくつもりだが、まず宏海に母親の希美を犯させて、その最中に自分が宏海の処女を奪うという鬼畜な案をもて遊んでいる。
宏海は五月中旬ぐらいから、帰宅後や休日はブラをつけ始めた。サラシが暑くてやりきれなくなったからだ。ノーブラだと、胸が揺れすぎて痛い。タカハシ氏が息子の乳首に過敏になっていて、上着にぽちっと浮き出た乳首を見つけると、ヒステリックに「だれかに見られたらどうするんだ。さっさと隠せ」と怒鳴るので、宏海のブラは父親の血圧対策でもある。ついでに下も、尻の割れ目が透けて見えるぐらい薄手のハーフバックのパンティーに変えた。尻から太ももにかけて、さらに脂肪が厚くのってきたので、これまでのブリーフでは蒸れて不快なのだ。ビキニも試したが、イチモツを覆いきれなくて零れ落ちてしまう。
いよいよ暑くなってくると、宏海はスカートにも手を伸ばした。下着とはいえ、女物をすでに身に着けているので、本格的な女装への抵抗感はどんどん下がっている。古着屋の格安コーナーでミニスカやワンピースをまとめ買いしたが、どれも座ったら確実にパンツが見える丈だったり、そのままでは下着が透けて見える薄さだったりした。流行の服はそれなりの値段だったし、基本、布地の量と価格は比例するから、安さ優先の選択では、そこのところに文句は言えない。むしろ、グラドルでもイメージビデオの中でしか着ないような露出度の高い服、どうやって着るかもわからない奇抜なデザインの服が、地方都市の古着屋の安売りコーナーに、こんなに多くあることが不思議だ。しかし、どんな非現実的な服でも、妹の結衣にコーデを任せれば、ちゃんと着られるようになる。幸いというか、希美と宏海は体形がほぼ同じなので、希美のキャミやショートパンツなどを(希美には無断で、結衣が勝手に)流用して、服の欠点をカバーするのだ。結衣から見れば、今の宏海は、お気に入りの等身大の着せ替え人形のようなものだ。
宏海は女装に慣れてくると、濃い目の大きなサングラスで顔を隠して、街中を出歩くようにもなった。男の格好で胸を隠す苦労に比べれば、はるかに楽だからだ。手持ちの服は露出度が高いものが中心だから、一人歩きは不用心なので、ナンパ除けや痴漢除けの意味で田沼を付き添わせている。たまたま二人が歩いているところを目撃した田沼の友人らは「あいつは売れないグラドルと付き合ってる」と噂しているようだ。
◎見たくなかった事実
渇田少年は家が裕福とはいえないため、小学生相手の塾講師のバイトをしている。九九すらまともに言えなかった子が、渇田少年にかかると、みるみる他の子に追いついていく。塾長が渇田少年に「きみは天性の教師だから、医学部なんかやめて教育学部に行きなさい」と勧めるほど教え方がうまい。受験エリートの面目躍如だ。毎週、土日の各4コマで月二十万超の講師代は、渇田少年にはありがたい収入だが、もっと多くてもいいぐらいだ。
そんなバイト帰りのバスの中から、胸の谷間を大胆に見せた黄色のワンピース姿の宏海が、ガタイのいいイケメン男と手をつないで歩いているのを見つけた。あの日、スマホで隠し撮りした宏海のDカップをおかずに毎日オナニーしているのだ、間違えるはずがない。妄想の中では宏海は本物の女で、あの時は見られなかった、もっときわどいポーズも取らせている。もっとも女を知らない渇田少年、空想の中の宏海の肝心の部分はぼんやりしているのだが。
渇田少年は宏海に男がいた衝撃で、バスの車内で崩れ落ちそうになった。「目の前が真っ暗になる」という言葉が、ただの例えではなかったことを思い知らされた。思わず停止ボタンを押して、これまで降りたことがないバス停の、誰もいないベンチに座り込んで泣いた。しかし少し時間がたつと、必ずしも悪いことばかりではないと思い当たった。宏海が男とデートすることに抵抗がないなら、渇田少年の誘いも断らないんじゃないか。恋人持ち夫持ちの女を奪う(あのイケメンが宏海の恋人かどうかもわからないし、第一、宏海は男だけど)寝取りこそ最高の快楽というではないか。今まで顔を伝っていた涙はいつの間にか引っ込み、代わりに渇田少年の分身から欲望の先走り液がにじみだした。
その日、宏海は田沼と学園アニメの制服を買いに行くところだった。可能な限り忠実に再現した品物だから、靴まで含めたフルセットで六万円以上とかなり高額だ。いつもなら吐き出す精液を思い切って飲み込んだあと、田沼におねだりしてみたら、あっさり「買ってやる」と承知した。この手のモノはネットでプレミアを上乗せしたのを落とすより、アダルトグッズの実店舗で、定価で売っているのを買う方が安い。田沼が、いつも淫具を探している大型店にも置いてあったので、宏海を連れてきたのだ。コスプレ衣装は入口のすぐ横に展示されていて、そこまでならカップル客も意外に多い。
お目当ての制服をみつけてはしゃぐ宏海、試着室で着替える様子、田沼の前でクルクル何度も回ってアニメのキャラになり切った姿を見せる宏海、すべては店内のカメラで盗撮されていた。店長の照内は、初めのうちこの少女が、とくにDカップを惜しげもなくさらす生着替えの模様は、ひそかに売っている着替え盗撮モノの目玉になると喜んでいたが、ふと着エロかAVの事務所に、少女本人を売り飛ばした方が儲けは大きいかな、と考え始めた。少女の名前も住所もわからないけど、金を払った連れの男は、20%のポイント還元に釣られて会員登録しているから、そこからたどり着けるだろう。なんなら少し痛めつけてやってもいい。
◎大川家の野望
祐実はいら立ちが収まらなかった。製造開始直前だった新しいアンチエイジングクリームに、親会社のコンプライアンス部門からストップが掛かった。新製品は効果がありすぎるので、医薬品に分類されるべきだと主張する下っ端四人が、研究所に乗り込んできたのだ。
祐実は、外見だけなら希美と同じぐらいの年齢に見える。付属医院での外科療法も併用はしているが、大半はこのクリームの効果と自負している。医薬品となれば安全性審査にまた長い時間がかかるし、その過程で若返り効果の秘密が漏れる可能性が高い。
もしかしたら会社としては、今まで通りセレブ層に超高価格で恩着せがましく若返りクリームを売り、政財界の裏側にコネを作る方が社益にかなうと考えて、一般向け商品の発売を先送りしようとしているのか? 会社の収益を大きく左右する重要な選択だ。本来なら、権限がはっきりした、それなりの役職の人物が来るべきなのに、居丈高にわめくしか能がなさそうな四人組が送り込まれたのは、あきらかにおかしい。祐実は、この連中のいちゃもんには何か裏がありそうだとにらんでいた。
堂々巡りの会議の途中で、筆頭格の女性秘書が取り乱した様子で宏海の来訪を告げた。そういえば定期健診の日だが、優先されるべきは会議であり、途中でわざわざ連絡してくることでもない。過去には同じような状況が何度もあったが、そのときは秘書たちは宏海を適当な部屋に案内して、待たせている。怒りが沸点に近づいていた祐実は、思わず大声で秘書を叱り付けた。
結論が出ないまま会議を終えたのは、三十分ぐらい後だったろうか。終わったというよりは、秘書を叱る祐実の剣幕に、会社側の人間どもが恐れをなして撤退した感が強い。親会社の小役人めいた下っ端四人に一人で立ち向かったが多勢に無勢、押され気味だった祐実に、あの女性秘書は、わが身を犠牲にして反撃のチャンスを作り出してくれた功労者だ。所長室に戻る前に、秘書室に立ち寄った祐実は、まだ涙っぽい目つきの筆頭秘書を捕まえて「あなたがあそこで顔を出してくれたおかげで、一方的な負け戦を引き分けに持ち込めたわ」と笑顔で感謝すると、秘書はまた泣き出して、伝えなければいけないことが言葉にならず、黙って診察室を指さした。祐実がドアを開けると、そこには髪をショートにした、高校生のころの希美がいた。
そんなわけはない。よく見れば座っているのは、アラカンの祐実でも知ってるぐらい、若者に人気のアニメの制服を着た宏海だった。アニメのショートカット巨乳の人気キャラが、二次元から三次元に抜け出してきたかと思うぐらい似合っている。これでは秘書が驚いて会議室に走りこんできたのも無理はない。
「どうしたの。その恰好…」。宏海は学園アニメの大ファンで、設定資料を読み込んでいるうち、キャラのうちの一人と自分のサイズがほぼ一致することを見つけ、どうしてもこの制服が欲しくなったといった。着てみたら思った以上に似合ったので、祐実にもぜひ見せたかったのだと、かわいらしいことをいう。ただ、この姿で踊っている動画をSNSに投稿したら、撮影場所の公園を特定されて「キモい連中が周辺をうろつきだしたから困っちゃった」と舌を出した。きょうは研究所まで希美に車で送ってもらい、健診が終わったら、また迎えに来てもらう算段になっているそうだ。
宏海が小六で巨乳化したとき、祐実は、男の子にはほとんどないはずの乳腺が、宏海には思春期前期の少女並みの密度で存在することを発見していた。今回はその乳腺が急成長し始めたことが巨乳化の原因だ。これまでの健診でも、宏海の女性ホルモン濃度は、男にしては高いレベルで推移していたので、乳房の肥大化はいつか起きるとは予想してた。予想外だったのは、成長のスピードと、理想的ともいえるような、美しい形だった。
根本的な治療としては、将来的な乳がんの危険を避ける意味も含めて、手術で乳腺を全摘する必要がある。そのためにも、受験が終わるまでは保存療法でいいという自分の診断は自信過剰だったのか、手をこまぬいているうちに宏海は心まで女性化してしまったのではないかと、祐実は不安になった。急いで宏海を裸にすると、想定以上に成長した胸に軽い驚きを覚え、白衣を脱いだ祐実の裸に反応して、以前と変わらずソソリ立った宏海のペニスを見て安心した。そのまま押し倒して騎乗位で挿入し、これまでのいら立ちのすべてをぶつけるように腰を振った。宏海の乳房をわしづかみにすると、少年の身体はブリッジをするように何度も反り返って、祐実の膣奥まで若い精液を噴出する。これまでにない反応がおもしろく、これはこれでありかな、と祐実は思った。
きょうの宏海の相談事の本題は、夏休み中の医学部受験対策泊まり込みセミナーに行くべきかどうか、だった。全国規模の大型予備校の主催で、主要大学の有名教授たちが臨時講師を務めるのがウリだ。毎日、教授たちとの個人面談があり、優秀な学生を早めに確保したい私立大の中には、この面談結果で合格者を決めてしまうところもあるという噂だ。宏海が志望する国立大医学部の教授も講師に名を連ねていて、参加すれば、面接試験の勘所ぐらいはつかめると思うが、日程が七日間もあるので、就寝前や寝起きの直後など、サラシを外した時間帯に、誰かにDカップを見られる危険は小さくない。そこをどう誤魔化すか、知恵を借りに来たのだ。
祐実は、セミナーがホテル借り上げで、参加者はそれぞれ個室に泊まること、そして宏海と同じ高校からの参加者はいないことを確かめたうえで「この制服で行きなさいよ」と簡単に言い放った。今日の宏海を見て、サラシ姿より女装の方がよほど周囲は受け入れやすいだろうと思ったのだ。級友や担任でもなければ、今の宏海を男と思う人間はいないだろう。
たまっていたうっぷんを宏海の身体で発散させた祐実は機嫌よく、セミナー費用の全額を負担することにし、一番高いランクの部屋を取れといった。パンフレットを見ると、八つに分かれた宿泊プランの最高と最低では、料金が一桁以上違う。あきらかに親の資産状況を知るための料金設定だ。ここで下手にケチると、受講の意味そのものがなくなるだろう。
もともと祐実は、宏海が医者になるなら、その学資は自分が持つと言っている。藩の御典医の系譜を引き継ぎ、多くの医師を輩出してきた大川家、古い名門によくある話だが、代々、女系で、男の子がなかなか生まれない。希美の父は二代ぶりの直系男子ではあったが、希美自身は愛人の子、芸者の娘で、認知はされたものの、一族では疎外され気味、味方は祐実だけだったと言ってもいい。それが宏海を生むと皆から掌を返すようにほめたたえられ、一族のためにもっと男の子を生め、そして一族の各家に養子に寄越せと圧力をかけられて閉口している。
祐実は学生時代から結婚と離婚を繰り返していて、三人の娘を生んだが男の子には恵まれなかった。しかも甘やかして育てたためか、みんなアソビ惚けて成績は悪く、医学の道に進めたものは一人もいない。宏海をかわいがるわけだ。
祐実と母校は、一時は険悪だったとはいえ、アンチエイジング研究の評判が高くなると、母校の方からすり寄ってきた。今の祐実なら、宏海を医学部に押し込むことぐらい難しくはない。宏海がこのセミナーでしくじって志望校を落ちても、どうということはない。むしろ、大しくじりをやって志望をわが母校に切り替えてくれれば、祐実が将来的に母校の学長として帰還する足がかりになるから歓迎したいぐらいだ。
◎息子はJK
セミナーに出発しようとする宏海を見たタカハシ氏は激怒した。セミナーが「可能な限り制服で参加を」と求めている通り、たしかに自分の高校の制服を着てはいるが、目の前にいる宏海は、どうみても女子高生だ。宏海は古着屋巡りで、自分の学校の女子制服をいくつか見つけたから、変な連中の手に渡らないように回収してきたのだと、レシートまで示して説明した。進学校だから制服は人気が無いみたいで、意外に安い。夏物の制服は手に入らなかったらしく、合い服の白い長袖セーラー服に薄手の紺のプリーツスカートだが、会場は高原のホテルなので、季節感の面ではおかしくはないかもしれない。スカートは短すぎる。買ったときは普通の長さだったのだが、妹の結衣が「かわいくない」と言って、切ってしまったのだ。いや、問題はそんなこっちゃない。JKの恰好でセミナーに出ようというのが、本質的に間違っている。
妻の希美は「初めはあの、アニメの制服を着てくっていったけど、冬物だからおかしいって止めたの」とか、例によってズレた言い訳をする。
「冬物でよかったんなら、腹にタオル入れてサラシ巻いて、応援団みたいに学ランの前ボタン全開で行け」。タカハシ氏のイメージにあるのは、どおくまんの「花の応援団」の青田赤道だが、あんな恰好してる応援団員は、もうどこにもいない。
「今しかできないことだから、許して」。これまで聞いたことがない、女の子っぽい声で宏海が懇願する。宏海が自室から降りてきてから、なんとか直視するのは避けていたのだが、つい見てしまう。かわいい。希美が女子高生だったころは、きっとこうだったに違いない。タカハシ氏は一時的な症状に過ぎないと信じていた息子の女体化が、もう引き返せなくなりつつある予感におびえた。
タカハシ氏はJKの制服での外出に最後まで反対だったが、一人で電車で行くという宏海を押しとどめ、変態息子が近所の目に触れないよう、自分が車で直接会場まで送ることで妥協した。父親と二人きりという機会は最近なかったから、宏海はなんだか、はしゃぎ気味だ。車中の話題は大半が、受験後、できるだけ早い時期に行うはずの乳房の切除手術と男性ホルモン治療についてだった。医師志望だけに、専門用語やら難解な最新の研究やらがばんばん話に入ってくる。いろんな意味で忙しいタカハシ氏、これまで息子とのコミュニケーションは、休日に行く銭湯ぐらいだった。それが宏海が巨乳化し始めてから、タカハシ氏は宏海の裸にどう対応すればいいのかわからなくて、親子で風呂に入っていない。切除手術の後、春になったら一家で温泉旅行にでも行くか。だが、長距離ドライブの疲労を考えて、後席に座らせた宏海をバックミラーでチラ見して、もしかしたら、後ろにいるのは宏海ではなくて、若返った希美を乗せてしまったんじゃないか、今すぐ沿線の健康ランドで休憩して、家族風呂で裸を確かめるべきなんじゃないだろうか、車を運転しながらタカハシ氏は妙な考えにとらわれていた。
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