「今度の土曜日、A海岸に行かない?」
マリコが健太に言った。
「いいけど、どうして?」
季節は3月、冬の海は寒々としていて、海岸に出歩く人も少ないはずだ。
「広い海を見たくなったの。毎日職場と家の往復でしょ、
たまには広い自然の中に自分を置きたくて。」
マリコの希望通り、次の土曜日に健太とマリコは
電車を乗り継いでA海岸に向かった。
電車を降りて駅からタクシーで15分も行くとA海岸に着いた。
その日は雲ってはいたが、3月にしては暖かい風の吹く日だった。
砂浜には二人を除いて誰一人いなかった。
海の色は晴れた夏の日とは違い、鉛を溶かし込んだように黒く見えた。
しかしはるか沖合いには雲が途切れて、太陽がその下の海を明るく照らし、
その部分の海だけが明るく光って見えた。
その近くを大型のコンテナ船がゆっくりと進んでいた。
「やっぱり海は気持ちがいいなあ。」
海を見ながらマリコが笑顔で叫んだ。
しばらくして海岸沿いの道路を、数台のバイクが轟音をたてて走ってきた。
その集団が健太とマリコに気が付くとバイクを止めて
次々に海岸に下りてきた。
「やばい、あいつらだ!」
マリコが言った。その声に健太は男たちが歩いてくる方向に目を向けた。
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