◎宏海の秘密
宏海の胸がはっきり膨らみ始めたのは高二の晩秋、部活の陸上部を引退してからだ。さらに乳輪や乳首もはっきり大きくなってきた。肩や腕の筋肉の脂肪化が進み、身体全体に丸みがついた上、骨盤が大きくなって、へそのライン辺りにくびれができた。尻から太腿にも脂肪がついて、むっちりしてきた。宏海の胸はその年の春ぐらいから少しずつ膨らみ始めてはいたが、目立つほどではなかった。だが、ハードな練習から解放されたら、巨乳化に加速度がついた感がある。布地が厚い冬の制服は体形変化を隠してくれたものの、薄着になる春夏は、いやでも級友たちに女体化現象を気付かせてしまうだろう。
宏海は小六のころ、急激に太りだして、ちょっとしたアンコ型力士体形になり、一時は「クラス一の巨乳」とからかわれた。心配した母親の希美は、当時は医学部教授だった叔母の祐実の診察を受けさせた。思春期直前の男児にたまにあるホルモンバランスの崩れと診断され、数回のホルモン剤注射を受け、同時に脂肪を筋肉に変えるため運動をするように指導を受けて、ジョギングを始めたら身長が伸び始めて巨乳化症状は収まった。
祐実はその後、新薬開発のトラブルに巻き込まれて大学を辞め、大手化粧品会社が設立したアンチエイジング研究所長(兼付属医院長)に転身した。宏海は経過観察を兼ねて、月一回程度、大学病院で健診を受けていたが、祐実の移籍に伴って、宏海の健診も研究所でやることになった。セレブ御用達の研究所で、利用者には庶民の常識を超える診療費を請求されるのだが、そこは所長と親戚の強み、一般の医院と変わらぬ料金に収まっている。宏海の症例はやや特殊なので、祐実は逆に研究協力費を出してもいいといったが、タカハシ氏は「息子をモルモット扱いはさせない」と突っ張って、協力費の受け取りは拒んだ。
祐実は、やや強めの男性ホルモン剤を投与すれば、今回も症状の進行は抑えられると判断したが、今は大事な受験前、ホルモン剤の副作用で宏海が精神的安定を失っては元も子もない。祐実は本格的な治療は大学受験が終わるまで先送りし、残り少ない高校生活、とりあえずはサラシを巻いて胸を潰し、周囲の目をごまかして乗り切ろうと宏海に告げた。
宏海が急にヤクザ映画張りのサラシ姿で登校したときには、さすがに教師や生徒を驚かせたが、「医学部合格の願掛け」という説明でみな納得した。というよりも、それぞれが自分の受験勉強で頭がいっぱいで、誰がどんな格好をしようと、どうでもよかったというのが正しいかもしれない。親の期待と自分の人生がかかった一番勝負だ。妙な願掛けをした生徒は過去にもいっぱいいる。教師連中もサラシ程度に目くじらを立てる気はなかった。
初夏の放課後、みんな帰った後も、ひとり教室に残って、講義の録音を整理していた宏海は、急に苦しくなったサラシをとって、また膨らんだ自分の胸を調べていた。この様子を陰でこっそり覗いていた同級生がいた。宏海と同じ旧国立大の医学部を目指している渇田だ。渇田少年は、宏海がサラシにスマホか何かを隠し持ってカンニングしているのではないかと疑い、ずっと見張っていたのだ。それが、サラシの下から現れたのはDカップはあろうかというみごとな巨乳、渇田少年が仰天しないはずがない。
宏海は、眉骨突起が未発達で、顎は華奢、ひげは生えていないし喉ぼとけも小さい、つまり中性的というより女性的な顔だちなので、これに巨乳が加わると、もう美少女にしか見えない。そういえば去年の水泳の授業、水泳帽を被った宏海は、坊主頭がカバーされて少女っぽい雰囲気を出していた。男子全員で水中オニごっこをして、渇田少年もオニ役の宏海に抱き着かれたり、自分がオニになって、逃げる宏海の胸の辺りを両手でつかんだりしたが、あのときすでに宏海の乳房は膨らみ始めていて、柔らかい感触があった。護田だったかは、ふざけて「このおっぱい、お乳が出そうだぞ」とかいいながら宏海の乳首に吸い付いて、みんなにボコボコにされていた。あのとき、もう少ししっかり触って、いや観察しておけばよかった…。今年は、宏海は水泳の授業をすべてトバしている。勉強一筋でバリバリ童貞の渇田少年は混乱し、そして自身はまだ気づいていないが、恋に落ちてしまっていた。
実は宏海の童貞は、中二のとき、祐実が奪っている。治療がうまく行っているか、男性機能に支障はないかの検査をするには、セックスするのが一番手っ取り早かったからだ。関係は健診のたびに続いているが、タカハシ氏の血を引く宏海のちんぽが、月一回のセックスで収まるわけがない。祐実は、勢いあまって宏海が同級生らを次々妊娠させる種馬と化しても困ると、催眠を駆使して、女性としての性的対象を祐実自身と妹の結衣に限定するよう、強固な暗示をかけたぐらいだ。
宏海の秘密を知る人間はもう一人いる。そう、家庭教師の大学院生、田沼だ。田沼は宏海に会ってすぐ、成績の伸び悩みは、長年の性的抑圧が招いていることに気付いた。どうも幼少時に性的虐待を受けた経験があり、さらに血縁者以外の女性を敬遠するような心理ブロックが人工的に置かれているようだ。そのため行き場を失った宏海の性的衝動は男性にむかい、意識下に女性人格を育ててしまったが、それが本来の男性人格と衝突して、勉強への集中力を奪っているのだ。
田沼の専攻は心理学、それもいまどき珍しいフロイト学派なので、何もかもセックスに結び付けたがる傾向はあるものの、この分析には自信があった。過去にも同様の男子生徒を手掛けた経験があるからだ。根源的な治療と人格統合には何年もかかるだろうが、対症療法的に、体内の性的エネルギーのマグマを放出してやれば、また勉強に集中できるようになるはずだ。
田沼は宏海に、心身をリラックスさせるマッサージをしてあげると誘い、打ち解けるにしたがって、性的ジョークや自分の体験談を混ぜながら、宏海の下半身に手を伸ばした。初めのうちはさすがに嫌がったが、マッサージを受けるようになってからみるみる成績が伸びたので、宏海は積極的に田沼に身をゆだねるようになった。とくに田沼が調教中の人妻の話には強く反応し、2連発3連発の射精も珍しくなかった。自分の母親が凌辱されている状況を、それと知らずに教えられて性的に興奮する美少年、なんとも下手くそなポルノまがいの現実だ。
宏海の巨乳化が加速し始めたのは、このころからだ。祐実との月一セックス、週2、3回の田沼の絶妙なマッサージ、そしてほぼ毎夜行われる結衣との素股と、男性ホルモンの収支が流出過多に傾いてもおかしくはない。
田沼はマッサージの効果を上げるため、バイブその他の淫具を持ち込み、宏海の乳房が、さまざまな刺激に感じやすいことを発見した。さらには母親に似て、拘束されるだけで軽い絶頂状態に陥ることも判明した。マゾの血は母から子に遺伝するのだ。
「これで成績が上がるから」の殺し文句を唱えれば、宏海は田沼のやることをなんでも受け入れた。手足を拘束し、リング状の口輪をつけて、乳首をひねりながらイラマチオさせると、そそり立った宏海のちんぽから精液があふれ出る。宏海に使う淫具はもちろん、希美を喜ばせたお古ばかりだ。Dカップのパイズリからフェラへの移行も最近の定番コースだ。もちろん宏海の処女アナルも近くイタダくつもりだが、まず宏海に母親の希美を犯させて、その最中に自分が宏海の処女を奪うという鬼畜な案をもて遊んでいる。
宏海は六月に入ったぐらいから、帰宅後や休日はブラをつけ始めた。サラシが暑くてやりきれなくなったからだ。ノーブラだと、胸が揺れすぎて痛い。それ以前に、タカハシ氏が息子の乳首に過敏になっていて、上着にぽちっと浮き出た乳首を見つけると、ヒステリックに「だれか来たらどうするんだ。さっさと隠せ」と怒鳴る。下も男物のパンツから、ハーフバックのパンティーに変えた。尻から太ももにかけてもむっちりと脂肪がつき、これまでのブリーフでは暑すぎる。ビキニも試したが、イチモツを覆いきれなくて零れ落ちてしまう。
いよいよ暑くなってくると、宏海はスカートにも手を伸ばした。下着だけとはいえ、いったん「女装」を体験したら、抵抗感はどんどん下がってくる。古着屋の格安コーナーで探すと、座ったら確実にパンツが見えるミニスカや、スケスケのワンピースばかりがたくさん見つかった。流行の服はそれなりの値段だし、基本、布地の量と価格は比例するから、安さ優先の選択では、そこのところに文句は言えない。むしろ、本当に誰か着ていたのかと思うような露出度の高い服、どうやって着るかもわからない奇抜なデザインの服が、古着屋の安売りコーナーに、こんなにあることが不思議なぐらいだ。しかし、どんな非現実的な服でも、妹の結衣にコーデを任せれば、ちゃんと着られるようになる。結衣から見れば、今の宏海は、お気に入りの等身大の着せ替え人形のようなものだ。
宏海は女装に自信がついてくると、濃い目の大きなサングラスで顔を隠して、街中を出歩くようにもなった。手持ちの服は露出度が高いものが中心だから、一人歩きは不用心なので、ナンパ除けや痴漢除けの意味で田沼を付き添わせている。たまたま二人が歩いているところを目撃した田沼の友人らは「あいつは売れないグラドルと付き合ってる」と噂しているようだ。
渇田少年は家が裕福とはいえないため、小学生相手の塾講師のバイトをしている。九九すらまともに言えなかった子が、渇田少年にかかると、みるみる他の子に追いついていく。塾長が渇田少年に「きみは天性の教師だから、医学部なんかやめて教育学部に行きなさい」と勧めるほどだ。毎週、土日の各4コマで月二十万超の講師代は、渇田少年にはありがたい収入だが、もう少し多くてもいいぐらいだ。
そんなバイト帰りのバスの中から、黄色のふわっとしたミニスカワンピ姿の宏海が、ガタイのいいイケメン男と手をつないで歩いているのを見つけた。学校で隠し撮りした宏海の姿と、あのときのDカップをおかずに毎日オナニーしているのだ、間違えるはずがない。妄想の中では宏海は本物の女で、あの時は見られなかった、もっときわどいポーズも取らせている。もっとも女を知らない渇田少年、空想の宏海の肝心の部分はぼんやりしているのだが。
渇田少年は宏海に男がいた衝撃で、バスの車内で崩れ落ちそうになった。「目の前が真っ暗になる」という言葉が、ただの例えではなかったことを思い知らされた。思わず停止ボタンを押してしまい、これまで降りたことがないバス停の、誰もいないベンチに座り込んだ。泣いている姿を他の乗客に見られたくなかったのだ。しかし少し時間がたつと、必ずしも悪いことばかりではないと思い当たった。宏海が男とデートすることに抵抗がないなら、自分にも可能性が開けたということではないか。恋人持ちの女を、いやあのイケメンが宏海の恋人かどうかもわからないし、第一、宏海は男だけど、寝取りこそ最高の快楽というではないか。今まで顔を伝っていた涙はいつの間にか引っ込み、代わりに渇田少年の分身から欲望の先走り液がにじみだした。
その日、宏海は田沼と、学園アニメの制服を買いに行くところだった。可能な限り忠実に再現した品物だから、フルセットで六万円以上とかなり高額だが、いつもなら吐き出す精液を思い切って飲み込んだあと、田沼におねだりしてみたら、あっさり「買ってやる」と承知した。この手のモノはネットでプレミアを上乗せしたのを落とすより、アダルトグッズの実店舗で、定価で売っているのを買う方が安い。田沼は、いつも淫具を探している大型店にもおいてあったのを思い出したので、宏海を連れてきたのだ。コスプレ衣装は入口のすぐ横に展示されていて、そこまでならカップル客も意外に多い。
お目当ての制服をみつけてはしゃぐ宏海、更衣室で試着する様子、田沼の前でクルクル何度も回ってアニメのキャラになり切った姿を見せる宏海、すべては店内のカメラで盗撮されていた。店長の照内は、初めのうちこの少女が、とくにDカップを惜しげもなくさらす生着替えの模様は、ひそかに売っている着替え盗撮モノの目玉になると喜んでいたが、ふと着エロやAVの事務所に本人を売り飛ばした方が儲けは大きいかな、と考え始めた。少女の名前も住所もわからないけど、金を払った連れの男は、20%のポイント還元に釣られて会員登録しているから、そこからたどり着けるだろう、なんなら少し痛めつけてやれば、洗いざらいしゃべるだろうと思った。
◎大川家の野望
祐実はいら立ちが収まらなかった。製造開始直前だった新しいアンチエイジングクリームの販売に、親会社のコンプライアンス部門からストップが掛かった。新製品は効果がありすぎるので、医薬品に分類されるべきだと主張する一派が現れ、四人ほど研究所に乗り込んできたのだ。
祐実は、外見だけなら希美と同じぐらいの年齢に見える。付属医院での外科療法も併用はしているが、大半はこのクリームの効果と自負している。医薬品となれば安全性審査にまた長い時間がかかるし、その過程でアンチエイジング効果の秘密が漏れる可能性が高い。そもそも安全性は若さを求めるセレブ婆ァたち、そしてなにより祐実自身が被験対象になった人体実験で確認済みだ。
もしかしたら会社としては、今まで通り希少品として、セレブ層に超高価格で恩着せがましく若返りクリームを売ると同時に、政財界の裏側にコネを作る方が社益にかなうと考えて、一般向け商品の発売を先送りしようとしているのか?
堂々巡りの会議の途中で、筆頭格の女性秘書が取り乱した様子で宏海の来訪を告げた。そういえば定期健診の日だが、優先されるべきは会議であり、途中でわざわざ連絡してくることでもない。過去には同じような状況が何度もあったが、そのときは秘書たちは宏海を適当な部屋に案内して、待たせている。怒りが沸点に近づいていた祐実は、思わず大声で秘書を叱り付けた。
結論が出ないまま会議を終えたのは、三十分ぐらい後だったろうか。終わったというよりは、秘書を叱る祐実の剣幕に、会社側の人間どもが恐れをなして撤退した感が強い。今となっては、親会社の小役人めいた下っ端どもに一人で立ち向かったが多勢に無勢、押され気味だった祐実に、あの女性秘書はわが身を犠牲にして反撃のチャンスを作り出した功労者だ。所長室に戻る前に、秘書室に立ち寄った祐実は、まだ涙っぽい目つきの筆頭秘書を捕まえて「あなたがあそこで顔を出してくれたおかげで、一方的な負け戦を引き分けに持ち込めたわ」と笑顔で感謝すると、秘書はまた泣き出して、伝えなければいけないことが言葉にならず、黙って診察室を指さした。祐実がドアを開けると、そこには髪をショートにした、高校生のころの希美がいた。
そんなわけはない。よく見れば座っているのは、アラカンの祐実でも知ってるぐらい、若者に人気のアニメの制服を着た宏海だった。アニメのショートカット巨乳の人気キャラが、二次元から3Dに抜け出してきたかと思うぐらい似合っている。これでは秘書が驚いて会議室に走りこんできたのも無理はない。
「どうしたの。その恰好…」。宏海は学園アニメの大ファンで、今ならこの制服を自分が来ても不自然じゃないから着てみたが、祐実にもぜひ見せたかったのだと、かわいらしいことをいう。ただ、この姿で踊っている動画をSNSに投稿したら、撮影場所の公園を特定されて「キモい連中が周辺をうろついて困っちゃった」と舌をだした。きょうは研究所まで希美に車で送ってもらい、健診が終わったら、また迎えに来てもらう算段になっているそうだ。
宏海が小六で巨乳化したとき、祐実は、男の子にはほとんどないはずの乳腺が、宏海には思春期前期の少女並みの密度で存在することを発見していた。今回はその乳腺が急成長し始めたことが巨乳化の原因だ。これまでの健診でも、宏海の女性ホルモン濃度は、男にしては高いレベルで推移していたので、乳房の肥大化はいつか起きるとは予想してた。予想外だったのは、成長のスピードと、理想的ともいえるような、美しい形だった。
根本的な治療としては、将来的な乳がんの危険を避ける意味も含めて、手術で乳腺を全摘する必要がある。そのためにも、受験が終わるまでは保存療法でいいという自分の診断は自信過剰だったのか、手をこまぬいているうちに宏海は心まで女性化してしまったのではないかと、祐実は不安になった。急いで宏海を裸にすると、想定以上に成長した胸に軽い驚きを覚え、服を脱いだ祐実の裸に反応して、以前と変わらずソソリ立った宏海のペニスを見て安心した。そのまま押し倒して騎乗位で挿入し、これまでのいら立ちのすべてをぶつけるように腰を振った。宏海の乳房をわしづかみにすると、少年の身体はブリッジをするように何度も反り返って、祐実の膣奥まで若い精液を噴出する。これまでにない反応がおもしろく、これはこれでありかな、と祐実は思った。
きょうの宏海の主な相談は、夏休み中の医学部受験対策泊まり込みセミナーに行くべきかどうか、だった。全国規模の大型予備校主催のセミナーで、主要大学の有名教授たちが臨時講師を務めるのがウリだ。毎日、臨時講師との個人面談があり、優秀な学生を早めに確保したい私立大の中には、この面談結果で合格者を決めてしまうところもあるという噂だ。宏海が志望する旧国立大医学部の教授も講師に名を連ねているので、参加すれば今年度の入試の出題傾向ぐらいはつかめるかもしれないと思うが、日程が七日間もあり、費用が高額な上、身体の変調をどう誤魔化すか、参加のハードルは高かった。
祐実は、セミナーがホテル借り上げで、参加者はそれぞれ個室に泊まること、そして宏海と同じ高校からの参加者はいないことを確かめたうえで「この制服で行きなさいよ」と簡単に言い放った。今日の宏海を見て、サラシ姿より女装の方がよほど周囲は受け入れやすいだろうと思ったのだ。級友や担任でもなければ、今の宏海を男と思う人間はいないだろう。
たまっていたうっぷんを宏海の身体で発散させた祐実は機嫌よく、セミナー費用の全額を負担することにし、一番高いランクの部屋を取れといった。パンフレットを見ると、4つに分かれた宿泊プランの最高と最低では、料金が一桁ぐらい違う。あきらかに親の資産状況を知りたいのだ。ここで下手にケチると、受講の意味そのものがなくなるだろう。
もともと祐実は、宏海が医者になるなら、その学資は自分が持つと言っている。藩の御典医の系譜を引き継ぎ、多くの医師を輩出してきた大川家、古い名門によくある話だが、代々、女系で、男の子がなかなか生まれない。希美の父は二代ぶりの直系男子ではあったが、希美自身は愛人の子、芸者の娘で、認知はされたものの、一族では疎外され気味、味方は祐実だけだったと言ってもいい。それが宏海を生むと皆から掌を返すようにほめたたえられ、一族のためにもっと男の子を生め、そして一族の各家に養子に寄越せと圧力をかけられて閉口した経緯がある。
祐実は学生時代から結婚と離婚を繰り返していて、三人の娘を生んだが男の子には恵まれなかった。しかも甘やかして育てたためか、みんなアソビ惚けて成績は悪く、医学の道に進めたものは一人もいない。宏海をかわいがるわけだ。
祐実と母校は、一時は喧嘩別れしたとはいえ、アンチエイジング研究の評判が高くなると、母校の方からすり寄ってきた。今の祐実なら、宏海を医学部に押し込むことぐらい難しくない。宏海がこのセミナーでしくじって志望校を落ちても、どうということはない。むしろ、大しくじりをやって志望をわが母校に切り替えてくれれば、祐実が将来的に母校の学長として帰還する足がかりになるから歓迎したいぐらいだ。
セミナーに出発する宏海を見たタカハシ氏は激怒した。セミナーが「可能な限り制服で集合を」と求めているので、たしかに自分の高校の制服を着てはいるが、目の前にいる宏海は、どうみても女子高生だ。宏海は古着屋巡りで、自分の学校の女子制服をいくつか見つけたから、変な連中の手に渡らないように回収してきたのだと、レシートまで示して説明した。進学校だから人気が無いみたいで、意外に安い。夏物の制服は手に入らなかったらしく、合い服の白い長袖セーラー服に薄手の紺のプリーツスカートだが、会場は高原のホテルなので、季節感の面ではおかしくはないかもしれない。スカートも短すぎる。買ったときは普通の長さだったのだが、妹の結衣が「かわいくない」と言って、切ってしまったのだ。いや、問題はそんなこっちゃない。女装でセミナーに出ようというのが、本質的におかしい。
妻の希美は「初めはあの、アニメの制服を着てくっていったけど、冬物だからおかしいって止めたの」とか、例によってズレた言い訳をする。
「冬物でよかったんなら、腹にタオル入れてサラシ巻いて、学ランの前ボタン全開で行け。大学の応援団はそうしてるだろ」。タカハシ氏のイメージにあるのは、どおくまんの「花の応援団」の青田赤道だが、あんな恰好してる大学生は、もうどこにもいない。
「今しかできないことだから、許して」。これまで聞いたことがない、女の子っぽい声で宏海が懇願する。宏海が自室から降りてきてから、なんとか直視するのは避けていたのだが、つい見てしまう。かわいい。希美が女子高生だったころは、きっとこうだったに違いない。タカハシ氏は一時的な症状に過ぎないと信じていた息子の女体化が、もう引き返せなくなりつつある予感におびえた。
タカハシ氏は女装での外出に最後まで反対だったが、一人で電車で行くという宏海を、自分が車で直接会場まで送ることで妥協した。車中の話題はずっと、受験後、できるだけ早い時期に行うはずの乳房の切除手術と男性ホルモン治療についてだった。外見的には手術すれば「女」には見えなくなり、男性ホルモン治療が効果を上げれば、また細マッチョ体形に戻るほか、ひげも生えてくるのだという。宏海が巨乳化し始めてから、タカハシ氏は、裸にどう対応すればいいのかわからなくて、親子で風呂に入っていない。手術後、春になったら一家で温泉旅行にでも行くか、いやその前に、今の宏海の姿を確かめるために、今度一緒に近くの健康ランドの家族風呂にでも入ろうか、車を運転しながら、タカハシ氏はぼんやりと考えていた。
セミナー参加教授のギャラは格安だ。優秀かつ豊かな家庭の高校生をスカウトできるからとかなんとか、世間は真っ当そうな理由をつけたがるが、実は違う。このホテル、予備校スタッフの手で、全室に盗撮用カメラが多数仕掛けてあって、受講者が何をしているか、すべて覗けるのだ。実用的な意味もある。過去、自室に入ったとたん、マリファナを取り出して吸い始めた受講者がいた。もちろんその名はブラックリストに載って、各校とも即時に不合格決定だ。親には部屋でマリファナの吸い殻を見つけたことにして、親子面談の際に通告、受講者の更生を祈ることとなった。
いうまでもなく、盗撮カメラの主な用途は、講師のセンセイ方が、美少女や美少年の裸や、排せつ行為や、オナニーを覗き見ることだ。とくに気に入った場合、センセイは個人面談で入学の確約と引き換えに、身体を要求することもある。大半の受講者は計算高く受け入れるが、拒んだものは当然不合格になる運命だ。気弱な女生徒の中には、合格の約束と引き換えに数人の教授に犯されて、医学部進学後も同じ目に遭わされ続けるのかという不安に勝てず、医師への道を断念したものも少なくはない。
到着直後から、清楚な美少女ぶりで目立った宏海の着替えは、当然ながら覗きの対象になった。浴室に向かいシャワーを浴びる宏海を、それぞれの部屋で年甲斐もなくちんぽをしごきながら見つめる教授たちの目に飛び込んだのは、その存在を信じられないイチモツだ。「ニューハーフだったのかよっ」。だが、そこで覗きを止める、性的に保守的な教授は半数ぐらいだった。宏海の志望校からは、二人の教授が参加していたが、そのうち一人は画面をしっかり見つめて宏海の身体のどこにも手術跡がないことを確認し、誘拐してでも連れ帰って詳細に調べたいと思っていた。もう一人は今回急きょ特別参加した八十近い名誉教授で、すぐに覗きを止めたが、録画だけはしっかり続けていた。
セミナー二日目の午後辺りで、教授陣の言動の端々から、宏海は自分が男だとバレているのがわかった。一部の受講者にも知られたようだ。不思議に思って部屋を探すと、十数台のカメラが次々に見つかった。モニターしていた予備校スタッフは慌てたが、宏海が何も言ってこないので、迂闊な行動はとれない。
セミナーの裏の目的を察した宏海は面談室を調べた。ここでもカメラを発見すると、あとは自分のハッキング能力を試すだけだ。セミナー最終日までに、宏海はハックしたサーバー経由で、五人の受講者がヒヒジジィどもに蹂躙される動画を手に入れた。その中で一番かわいい娘は、受講前はまだ処女だったのに、セミナーが終わるまでに経験人数は八人になっていた。そう、スタッフにも犯されたのだ。
予備校側は、宏海が証拠として抑えているカメラを取り戻そうと必死だ。セミナー費用を、旅費も含めて全額割り戻す提案(「金はキミに直接渡すから、ご両親には報告しなくていい」)から、大学合格後に奨学金を支給する案(同)まで提示したが、宏海はすっとぼけるばかりだ。ついに焦ったスタッフが、宏海が受講中に合鍵で部屋に侵入したが、宏海が仕掛けていたアラームで警察に通報され、下着泥棒の疑いで拘束されてしまった。完全黙秘しているため、セミナー後も保釈されていない。結局、予備校側は宏海を盗撮した分を含めて、今回と過去に撮ったすべての録画を破棄し、教授らにも手持ちの録画を引き渡すように要請した。教授らの何人かは自分も録画されていたと初めて知り、怒っていたが、自分のやったことを思えば訴え出るわけにもいかない。
宏海の映った録画を取り上げられて、一番不機嫌になったのは大川名誉教授だった。そう、宏海の祖父である。祐実から宏海がこのセミナーに参加すると聞いて、急きょ講師陣に加わったのだ。だからセミナーのパンフには名前が載っていない。大川は、宏海がかつて愛した芸者のひなこ、希美の母親そっくりに成長していたことにちょっと動揺した。あの見事な形の、大きく美しいバストも瓜二つだ。これが三月には切除されてしまうのだが、映像として手元に残るのは慰めだった。それが、主催者の予備校側が、宏海の映像を破棄しろと無茶をいう。この腹立たしさをどう収めろというのか。
大川は宏海が生まれるとすぐ、めったに会うことがない希美のもとに駆け付けて、孫は自分が引き取ろう、大川一族にふさわしい教育をしようと申し出た。身勝手な提案に怒ったのは、まだ若かったタカハシ氏だ。自分の息子を、結婚式にも出席しなかった女房の横暴な父親に、むざむざ奪われては男が廃る。その場で大喧嘩になって、今後、大川は一歩も家に入れさせないと啖呵を切った。宏海はものごころついてからは一回も祖父に会えておらず、何をしているかも知らない。セミナー開会式で大川教授が紹介されたときも、ピンと来なかった。
大川自身は、ずっと祐実から宏海の成長状況について報告を受けていて、自分が名誉教授を務めている旧国立大の医学部を志望していること、合格圏内にはいるものの、成績にむらがあるので、合格確実とまでは言えないという情報も知っていた。受験ストレスで一時的な女体化現象が起きていることも報告は受けていたが、ここまで本格的な症状とは知らなかった。最初の覗き場面で、すぐに席を離れたのは、祐実を捕まえて、宏海の精神面への影響、性的嗜好の変化を問いただすためだった。
大川は祐実から宏海が女の裸でちゃんと勃起すること、性交も問題なくこなすと聞いて一安心した。宏海が女の格好で出歩くのは「期間限定」だからこそのお楽しみらしい。それよりも、宏海から採取した精液のサンプルが、かなりの確率で男の子を妊娠させるという報告が大事だった。宏海本人が純粋な異性愛か、両刀使いかは大きな問題ではない。女に大川の血筋をひく男の子を孕ませられるのか、それだけが肝要なのだ。祐実は、大川家の血を濃くするため、妹の結衣に宏海の子供を産ませたいと言っていたが、大川自身もいいアイデアだと思っている。母親の希美に種つけするのは、高齢出産になるのでいろいろ危険が大きいだろう。試験に使った卵子は、せっかくの男の子なのに、現状の法規制の中では廃棄せざるを得ないのがもったいなかった。
実はこの夏、希美を妊娠させたのは宏海の精子だ。元カレとの温泉旅行で、さんざん生中出しされた希美は、心配になって祐実に妊娠や性病感染の有無の診断を依頼したのだが、祐実はこのとき、保存しておいた宏海の精液で採取したばかりの希美の卵子を受精させ、麻酔で眠らせた希美の体内に注入していたのだ。そして目覚めた希美に、金井の子は妊娠していないことを伝えて安心させた。そして、浮気したお詫びもかねて、今晩、夫のタカハシ氏に抱かれなさい、そうすれば無用な良心の呵責からも解放されるだろうと諭した。
祐実は本当は自分が宏海の子供を受胎したかったのだが、三人目の娘を産んだあと、複数回にわたって妊娠中絶した後遺症で、子宮が弱っていて着床しないのだ。むろん、堕胎したのは検査で女の子とわかったからだった。結衣が妊娠して健康な子供を無事出産できるまで、まだ数年かかる。一刻も早く宏海の子供をこの手に抱くためには、希美に産んでもらうしかなかった。
◎破滅の予感
アニメ制服欲しさで精液を飲み込んだあと、田沼は毎回、当然のように精液を飲めと要求してくるようになった。田沼は完全に調教したと思った人妻を、仕上げのつもりで仲間と輪姦したら、激怒されてフラれてしまったらしい。その性欲をすべて宏海にぶつけてくるので、うざったいし、最近は宏海の部屋にやってきても、ずっと宏海を裸にして責めたてるだけで、家庭教師の役目をろくに果たしていない。宏海にとって田沼は受験対策とオナニーの道具のひとつに過ぎない。それが増長して、宏海にアヌスで犯らせろなどと言い出してくる。学ぶべきは学んだし、もう切り捨てる時期かも知れない。大学受験後の乳房切除までに経験しておくのが、今、しゃぶらされている田沼のちんぽ一本だけというのも、なんだかもったいない気もする。夏休みの前辺りから、やたら話しかけてくるようになった渇田の顔がちらっと浮かんだ。宏海は口中に広がった田沼の苦い汁を飲み込みながら、飽きた男を破滅させる方法をあれこれ考えていた。
学部長に呼び出された田沼は愕然とした。希美との関係が始まるまで付き合っていた元カノの英子が、リベンジポルノで田沼に恐喝されていると訴えてきたというのだ。そういえば数日前、英子から突然電話があって、ただただ泣いただけで何も言わずに一方的に切られてしまっていた。学部長が示した画像には田沼自身の顔がしっかり映っていて言い訳できない。しかも「きみは研究費を使い込んでいるようじゃないか」。たしかに研究費の目的外使用はあるが、それは指導教授への上納分だ。教授は今回の告発を知って、研究費不正の罪を田沼に押し付ける気になったらしい。内情を説明しようとする田沼を押しとどめて、学部長は「とにかくきみは、きょうから謹慎だ。処分は決まったらすぐに連絡する」と言い渡して、田沼を学部長室から追い出した。
田沼は英子ら過去に付き合った女たちのデータはオフラインのPCで保存していた。帰って調べると、それらのデータは残っていたが、宏海や希美のデータだけすべて消去されている。犯人は明白だ。部屋に置いてあるSMグッズのうち、宏海に使った拘束具なども消えていた。自分のDNAが残った可能性があるものを、すべて持ち去ったようだ。希美を責めた道具はすべてタカハシ家に置いてあったので、最初からここにはない。
宏海を捕まえて、こんなことをした責任を取らせてやる、田沼のちんぽを飲み込めるように、丹念に仕上げてきた宏海のアヌスを引き裂いて、オトナにはかなわないことを思い知らせてやる…。田沼はそう誓ったが、翌日、研究費の使い込みが発覚しそうになった大学院生Tが、その穴を埋めるために、元カノをリベンジポルノで恐喝したという内容の週刊誌記事が出た。家庭教師の派遣センターからすぐに田沼の解雇の連絡があり、タカハシ家を含めて、過去の教え子の情報を漏らした場合は、守秘義務違反で訴訟を起こすと告げられた。大学に届いたのと同じ内容の告発メールが、派遣センターにも届いていたらしい。しばらく頭を抱えていたら、いつの間にかアパートを報道陣が取り囲んでいる。電話は鳴りやまないし、一歩も外に出られなくなって、宏海への復讐どころではなくなった。
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