リラクゼーションサロンの恥罠35
博美は今日も病院で忙しい一日を過ごしていた。
未知子が居なくなって以来、名医紹介所の実質的なエースとなり、他の同僚医師達からも一目置かれていた。
或る日の名医紹介所にて。
同僚医師「やあ!博美ちゃん」
「頑張ってるらしいね~!」
夕方遅くに現れた博美に向かって、彼は云った。
博美「えっ?」
「何です?、いきなり?」
同僚医師「あちらこちらで評判だよ!」
「出門は最近見ないけれど、堀之内って凄腕の麻酔科医が名を売ってい
るってね!」
博美「ええ~?」
「ホントですか~?」
彼女は口では謙遜しているが、ちょっぴり嬉しかった。
未知子と同列に語られる事が、彼女の自尊心をくすぐった。
同僚医師「でも気を付けなよ~!」
「出る杭は打たれるって云うからね!」
博美「○○さんって優しい~!!」
同僚医師「ははっ!(笑)博美ちゃんも知っての通り」
「特に、大学病院ではね!」
彼女もそれは、ひしひしと感じていた。
白い虚塔と呼ばれる某有名大学病院では、いつ、自分自身の足元をすくわれてもおかしくは無い。
彼女は改めて己の気持ちを引き締めた。
それは、これから産まれて来るであろう、新しい命の為でもある。
アキラ「そう云えば彼の処へ、また挨拶に行かなきゃならないわね!」
アキラ氏が話に入って来た。
アキラ「博美?」
「その後、順調に進んでるの?」
博美「うんっ!」
「彼とは上手くやってるよ!」
アキラ「それだけ?」
「成果の方は?」
博美「うん、それがね・・・」
彼女は妊娠検査薬で陽性反応が出たらしい。
正式に検査を受けて、事実が確定してからアキラ氏に話すつもりであった。
宏とは、あれから3回に渡って逢瀬を重ねて来た。
アキラ「分かった!」
「今度、彼に会いに行くわ!」
博美「ありがとう!!」
「アキラさん!!」
アキラ「全く!!」
「手の掛かる子ばっかりね!」
彼女は、両手を合わせて拝む仕草で彼にお願いをした。
翻って彼、宏の方は相変わらず仕事で忙しい日々を過ごしていた。
びっしりとスケジュールに埋まった予約客の処置を的確に施して行く。
そんな中にあっても、彼には嬉しい知らせがあった。
妊娠22週目に入った未知子からメールが届いた。
何と、お腹の中の赤ちゃんが女の子だと判明したのだ。
彼女は意味の分からない言葉を、いっぱい並べた後、名前を考えて置けと命令して来た。
宏「未知子さんらしいなあ~!!(笑)」
彼は、クスっと笑ってメールを閉じた。
そしてその夜、メールにタイミングを合わせる様に彼は現れた。
スーツ姿のアキラ氏である。
宏「ああ!ようこそ!」
「いつもお世話になってます」
アキラ「いえいえ、こちらこそ」
「出門と堀之内がご迷惑をお掛けしております」
宏「今日は、もしかして・・・」
アキラ「その、もしか・・でございます!」
アキラ氏は前回と同じ様に、脇に風呂敷包みの箱を抱えていた。
アキラ「メロンです!!」
彼は風呂敷包みをテーブルの上に置くと、また同じ様に今度は胸の内ポケットから剥き出しの書類を出す。
アキラ「相変わらず、不躾で御座いますが」
「契約書です!!」
彼は、そう言って宏の前に、契約書を両手で持って差し出した。
彼も両手で、それを受け取った。
宏「これって・・」
「未知子さんの時と同じ物、ですよね?」
アキラ「はい!!」
「全く同じ物で御座います」」
宏は微笑んで、それ以上は何も聞かず、すらすらと署名捺印をして行く。
そして、その契約成立した書類をアキラ氏に手渡す。
アキラ「ありがとうございます!」
「これで、か弱いシングルマザーから非難されずに済みそうです!」
彼とアキラ氏は黙って眼と眼で笑い合った。
するとアキラ氏が彼に向かって一言云った。
アキラ「以前、貴方様からは・・」
「妖しい、あっ、いや・・」
「危険な香りが漂っている様に感じましたが」
「どうやら私の勘違いで有った様です!!」
アキラ氏は彼の心の奥まで見透かす様に、眼光を鋭くして彼を見つめる。
かと思うと、急に柔和な顔になって、彼に謝罪を始めた。
アキラ「大変失礼な事を申し上げてしまいました」
「誠に申し訳ございません」
彼は、そう言って深々と頭を下げた。
そして最後に、こう付け加えた。
アキラ「私の我儘も同様に、お願いいたします!」
宏「認知・・・の事ですよね?」
彼は黙ってまた、深々と頭を下げる。
彼女らの行く末の為なら、彼自身のプライドなど屁とも思わないと云った態である。
それは彼女らへの無償の愛であった。
彼女らに危害を加える何者をも許さずと云った気概が感じられた。
宏は彼に小さな恐怖を覚えた。
その後二人は互いに認め打ち解け合って、未知子の赤ちゃんの性別や趣味の話で盛り上がって別れた。
彼を店の入り口で見送って居ると、物陰から彼女、博美がひょっこりと現れる。
二人の別れ際を見定めていた様である。
博美「お久しぶりです」
「宏さん!!」
宏「博美さん!!」
「また、いきなり?!!」
博美「ごめんなさい!」
「何か、話、上手く纏まったみたい?」
宏「ええ!カンバラアキラって人は凄い人です!!」
博美「すごい?・・」
彼女には意味が分からなかったが、彼の清々しい笑顔に安心して一先ず納得した。
宏「ところで今日は何の用で?」
博美「あぁ!、酷~い!」
「用が無いと此処には来ちゃいけないんですか?」
宏「えっ?」
「プッ!(笑)」
彼は未知子の時と同じ様な言い草の、博美の言葉に思わず反応してしまった。
博美「もうっ!!(怒)」
「また笑った!!」
彼女は、またも意味が分からず憤慨する。
だが、直ぐに笑顔を取り戻して彼に云った。
博美「今日は宏さんに報告とお礼を云いに来たの!」
宏「報告?」
彼女は黙ってお腹の辺りをさすっていた。
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