リラクゼーションサロンの恥罠27
博美「あの~」
「1時に予約した・・」
「あっ、はい!」
「堀之内博美さん、ですね!」
「どうぞ、彼方の方へ」
彼女は美容室に来ていた。
いつもの味気無いストレートヘアを一新する為に。
色を少しだけ明るくして、軽くウェーブを掛ける。
全ては、混沌とする自分自身の心を落ち着かせる作業の一環である。
髪を整え、店の姿見で自分をチェックする。
普段はパンツルックが多い博美であったが、今日はひらひらの白のミニスカートに濃い目の赤のミュールを履いている。
博美「プッ!(笑)」
「似合わね~!」
彼女は着慣れない服装に、必要以上の自虐ネタを自らにぶつけるが、傍から見れば充分以上に魅力的な装いである。
そして彼女は、気が進まないのであろうか、ゆっくりと店を出て歩いて行く。
だが、どんなにゆっくり歩いても、必ず目的地には到着してしまう。
彼女は宏の店に入り辛いのか、扉の脇から中を伺っている。
未知子「よっ!、堀之内!」
彼女は未知子に背中を、ドンっと押され自動ドアを開けてしまった。
博美「なっ!何すんのよ!、もうっ!」
未知子「あれ~、なに、その格好!?」
「堀之内も女の子だったんだ~(笑)」
博美「ふざけないでよ!」
「貴女こそ、まだ日本に居たの?」
未知子「おあいにく様!」
「頼まれてたオペがやっと終わったんですぅ~!」
未知子は舌を、べぇ~っと出して彼女をけん制する。
博美「この憎まれ口がぁ~!」
彼女は未知子のほっぺを両手で、ぐにぃ~っとつねる。
宏「あの~、一体全体・・」
「どうしたんですか?」
未知子・博美「うるさい!!」
「黙ってて!!」
彼は目が点になる。
すると博美が、ハッと気を取り直す。
博美「あっ、あの、ごめんなさい!」
「この人が云う事聞かないものですから!」
未知子「な~に言ってんのよ!」
「あんたこそ減らず口ばっか!!」
博美「なに~!!(怒)」
「この口が、まだ言うか~!!」
二人で口元を捻り合っていると
宏「いい加減にして下さい!!」
二人は彼に一喝されてしまった。
博美は、そのショックで、しょぼんとしてしまう。
だが、未知子は嬉々として彼に報告を始めた。
未知子「宏さんに最後のお別れを言いに来たの!」
宏「あれ?確かこの間も、お別れって!?」
未知子「ああ!今日が本当のお別れの挨拶なの」
博美「幾つ、お別れがあるんだか!!(笑)」
未知子「うるさいなぁ~!」
宏「ははっ!、まあまあ!(笑)」
彼が間に入って、やっと鎮静化した。
そして、続けて彼が聞く。
宏「未知子さん、このまま旅に出るんですね」
未知子「うんっ!」
「私が居ない間・・」
「くれぐれも、浮気しちゃダメだよ!」
博美はドキッとした。
未知子「じゃ!行ってくるね~!」
彼女は、あっさりと嵐の様な迷惑を撒き散らして去って行った。
後に残されたのは、二人きりの気まずい雰囲気だけであった。
宏「あの~、堀之内さん?」
「ひょっとして、メールを見てくれて?」
博美「えっ?、あっ、はい!」
「・・・すみませんでした・・」
「この間は・・・」
宏「何言ってるんですか!」
「失礼な事をしたのは僕の方です」
「本当にすみませんでした!」
博美「そんな・・・」
「そんな事、言われたら・・・」
彼女は眼が潤んで来てしまった。
これには彼が慌てた。
宏「そうそう!」
「今日は僕からのお詫びとして」
「ゆっくり楽しんで行って下さい!」
彼は彼女を施術ベッドへと誘う。
博美「ありがとうございます」
彼女は微笑を浮かべ、控え室で準備を始めた。
そして、高鳴る胸の鼓動を抑えながら、そのベッドへと横たわった。
彼は、今一番人気のオイルで彼女の身体を丁寧にマッサージして行く。
彼女は、その最高の香りと彼の手さばきに、心と身体を癒されて行く。
宏「堀之内さん?」
博美「はい?」
宏「ああ見えて、未知子さん」
「貴女の事を高く評価して居るんですよ!」
博美「えっ?」
宏「貴女のお陰で、今迄どれ程オペで助かって来たか・・」
「彼女、此処に来る度に貴女の事を自慢して居ました!」
「ホントに仲が良いんですね!」
博美「彼女が・・」
「そんな事を・・」
宏「はい!」
「私の片腕だ~って、いつも言ってます」
「あと、私、友達居ないのでって言ってました!(笑)」
「だから、貴女に嫌われる事が怖いって・・」
「ちぃ~さな声で言ってました!(笑)」
博美「出門さんったら・・」
彼女は、未知子が同じ思いで居てくれていた事が嬉しかった。
二人にとって、二人共が唯一無二の友であった。
その彼女から彼を奪う事など、出来得るはずも無かった。
彼女は彼と出会わなかった事にしようと心に決めた。
博美「今日は本当にありがとうございました」
「また、近い内に寄らさせて頂きます」
宏「ええ!是非!」
彼女は、そうは云ったがもう二度と此処に来ることは止そうと決心した。
すると帰り道で未知子からメールが届く。
未知子(堀之内 アキラさんの事を宜しくね~!)
(それから、前に男の子が欲しいって言ってたよね!)
(一回だけなら目を瞑るよ!笑)
(なぁ~んて! じゃあね~)
博美「もうっ!」
「ばか!(笑)」
彼女は、こう云う事だけには勘の良い未知子が堪らなく頼もしかった。
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