リラクゼーションサロンの恥罠19
未知子と一つになった、あの日からひと月近く経った。
彼女は普段、メール一つ寄こさないが、久し振りに電話を掛けて来た。
未知子「宏さん、久し振り~」
「あの、いきなりだけど、人間ドックに入らない?」
「前に、受診したいって言ってたよね!」
宏「ええっ?〇帝大病院さんで、ですか?」
未知子「そう!」
「良い部屋、押さえといたよ!」
宏「あ、はい!」
「是非とも、お願いします!」
彼は、二つ返事でOKした。
前々から身体のチェックをしなければと思ってはいたが、仕事にかまけて中々重い腰を上げられなかった。
未知子の病院なら安心である。
彼は彼女から聞いたプランと日程で仕事の調整を図る。
そして当日の朝。
彼は未知子の通う、〇帝大学病院へと向かった。
その頃彼女は、既に病院で勤務に就いている。
場所は外科の医局。
彼女は書類の整理をしていると、同僚の男性外科医が二人で話をしながら部屋に入って来た。
A 「そうそう、あの、民自党のせんせい!」
「結局、出門先生がオペしたんだろ~」
B 「最初は(私、いたしません!)とか言ってたのにね!」
A 「そしたら急に(私が切る!)とか言い出してさぁ」
B 「全く、やりたい放題だよなぁ」
A 「教授も、ほとほと手を焼いてるって感じ?」
B 「あっ、でも、あれで寝顔とか結構可愛いいんだぜ!」
A 「ホントかよ?、当直の時に?、偶々?」
B 「まっ、いずれにしても俺らはなるべく関わらない様に・・」
そんな彼女の悪口を言いながら二人は自分のデスクに座ると、奥のソファーに座っている未知子の姿を発見した。
未知子「あんたら!」
「下らない話をしてる時間があったら、オペの技術でも磨いたら?」
二人は彼女の言葉へ適当に相槌を打って、その場から退散した。
そして、その入れ替わりに一人の看護師がやって来て彼女に伝えた。
「あの、先生の紹介でいらっしゃった方が、今、問診を受けています」
未知子「ん?・・・あぁ!、はい」
「ありがとう!」
彼女は急いで彼の元へ行こうとすると、一人の医師に呼び止められた。
ハラ「あっ!出門先生!」
「病院長が呼んでますよ!」
「例の代議士のせんせいの件だと・・」
未知子「えっと、だれだっけ?」
「あっ!きんちゃん?」
ハラ「きんちゃんじゃない!!」
「マモル! ハラマモルゥ!!」
彼女は、きんちゃんを無視して彼の元へと急いだ。
そして、個室の病室で荷物を解いている彼に会った。
彼女は荒い呼吸を上手く誤魔化して、彼に言った。
未知子「ようこそ!我が〇帝大病院へ!」
彼は目を見張った。
白衣姿の彼女が新鮮に映った。
いや、想像以上に凛々しい姿に感動した。
そして改めて、彼女に強烈に惹かれた。
宏「未知子さん!」
「お久しぶりです!」
未知子「そうね!」
「元気してた?」
彼女は努めて平静を装う。
だが彼女の片脚はつま先で、小さくリズムを取っていた。
彼は、そんな彼女がいじらしくて、可笑しいやら愛しいやら。
宏「何か、立派な部屋ですねえ~」
「いいんですか?僕なんかが使って?」
未知子「またぁ、なに遠慮してんの?」
「貴方が気を遣う事はないの!」
彼女は過去の、ある出来事での取引で彼に特別室を用意していた。
未知子「じゃあ、ゆっくりしてってね!」
「後で、また来るから」
彼女は、そう言って悠然と部屋から出て行った。
そして辺りを、きょろきょろと見渡して誰も居ない事を確認すると、小さなスキップをして仕事に戻って行った。
そして今日は未知子にとって特別な日になった。
彼女は振り返って、そう思うであろう。
兎に角、その一日が始まった。
昼間の病院は忙しい。
患者の外来から診察、治療、そして入院患者への対応。
特に大きな総合病院では手術室も殆ど空く暇が無い。
更に大学の付属病院では研修医などの教育の場でもある。
だが、その様な状況にあっても彼女は至ってマイペースであった。
朝から夕方まで次々とオペをこなし、作業を積み重ねて行く。
助手「出門先生、少し休みません?」
手術室で周りの医師の悲鳴が響く。
未知子「私、オペ、速いので!」
手術室内の医師や看護師は辟易としていた。
堀之内「出門先生!、お昼、まだなんですけど!?」
名医紹介所の同僚である、麻酔科医の堀之内までもが、やんわりと抗議をする。
未知子「さあ! サクサクと終わらせるよ~!」
「この後、もう一つオペ行くからね~!」
と、どこ吹く風で完全無視なのであった。
堀之内もビックリする程のハイテンションである。
彼女、堀之内は不審に思った。
一日のオペがひと段落就いて、食堂で遅い昼食を摂る未知子に堀之内が噛みついた。
堀之内「何だか、何時にも増して酷いね!」
「どうしたの?」
「今日のオペ?」
未知子「別に・・」
堀之内「はぁ?」
「何?、その言い草!」
未知子「・・・・・」
そこへ彼を担当する看護師が、初日の検査結果を持ってやって来た。
「出門先生、こちらです!」
看護師が彼女に用紙を手渡すと、それを見て彼女はニンマリとした。
未知子「よしよし、至って健康だ!」
その様子を見て、堀之内は更に不審に思う。
堀之内「見せてっ!!」
彼女は未知子からカルテを奪って、その名前を確認する。
堀之内「これって・・・?」
未知子「そうよ!」
「彼!」
堀之内「あぁ~、あの、彼?」
「妊活の!」
堀之内は納得した。
彼女が今日、これ程までにハイテンションであった事を。
そして彼女、堀之内は、はっとした。
堀之内「出門さん、まさか!」
「今日、ここで?!!」
未知子は彼女を一瞥すると、ニンマリと笑って答えの代わりにした。
堀之内「はあぁ~!」
「貴女、本当に相変わらず大胆ね!」
未知子「ど~も!」
堀之内「まっ、でも、そこが出門未知子の良いところ・・・かぁ~?」
堀之内は呆れ果てて、何も言えなくなってしまった。
そして暫くして、そんな未知子が可笑しくて、頼もしくて、思わず笑わずにはいられなかった。
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