第1話 狂った青狼たち
「ひっ……い、いやっ」
やっとの思いで出せた声は、何とも弱々しかった。
四月初旬の夕暮れ時、校舎の外では新入生を勧誘する運動部の声が響いていた。
「た、たすけて」
十五歳になったばかりの少女は、校舎四階にある教室に引きずり込まれていた。
相手は五人。しかも、いかつい顔をした不良生徒ばかりだ。
少女の方は、百五十センチの背丈とほっそりとした体つき、肩の下まで伸びた黒髪は、ナチュラルに分けられて襟首の位置で束ねられていた。
淡雪のような頬、澄みきった瞳にぷっくりとした涙袋は、あどけない笑顔が可愛い少女そのものだ。
必死に抵抗しても、とてもかなう相手ではなかった。
「番長……田中のやつ、どうしちゃいます?」
子猫のように怯える少女を見下ろしながら、坊主頭の不良生徒が言った。
番長といわれたのは佐山といって、この学校だけでなく、番長連合の総番長もつとめていた。
顔は四角に近く、百八十センチを超える背丈に百キロ近い体重、丸太のような腕、樽のような体型だ。
目元に中学生らしさを残しているが、つり上がった薄くて細い眉とパンチパーマが、それをかき消していた 。
「矢崎……はじめっからひん剥くんじゃ面白みがないってもんだ。こないだみたいに、たっぷり楽しんでからひん剥こうぜ」
矢崎と呼ばれた坊主頭は小柄であるが、がっしりとした体格をしていた。
額に大きな剃り込みを入れ、耳にはピアスを飾っていた。
「お願い、何もしないでっ……」
「ここまで来て、何もしないってわけにはいかねーだろッ……三宅と松沢、もっと奥に連れてっちゃえよ」
恵利は、矢崎の言葉に焦りの表情を浮かべ、全身に力を込めた。
「おい、心配すんなよ……気持ちいい事をしてやるんだからよっ」
ブラウスを通して生あたたかい空気を感じとると、恵利はヒィッと声をひきつらせた。
最初に手をかけたのは三宅だった。
背丈は平均的だが、肉付きのよい体つきで、頭の毛はすべて剃り落とされていた。
「あっ、たすけてッ」
うずくまった恵利の脇に、倍以上ある腕が差し込まれると、たまらず小さな悲鳴が上がった。
「松沢ッ、早く手をかせよッ」
三宅が合図を送ると、短髪を金色に染めた松沢が、巨体を揺らしながら近づいてきた。
「ふふふ、子猫ちゃんよぅ……」
いつものやり方だった。
いやらしい笑みを浮かべた松沢は、いとも簡単に恵利の体を持ち上げてしまった。
「ほれ、こっちだよッ」
「あぁっ……」
恵利は、薄汚れたピータイルの床を引きずられていた。
積み上げられた勉強机やスチール棚の間を進むと、教室の半分ほどの空間があらわれた。
校庭側の窓は暗幕で覆われていて、その前に穴のあいたソファーと黄ばんだ体操用のマットが置かれていた。
マットの上に放り投げられた恵利は、松沢に上半身を起こされた。
「ふふふ……田中、自分から脱ぐか?……それとも脱がされたいか?」
佐山は、ソファーにふんぞり返ってニヤニヤしていた。
「……そ、そんなことっ」
恵利に答えられるはずもなかった。
取り囲んでいるのは、同学年の不良連中だ。
しかも、スキンヘッドの三宅と巨漢で金髪の松沢とは同級生であった。
「答えないようじゃ、こっちから決めてやるぜ」
佐山は、三宅を見ながらニヤリと笑った。
「……どうするよ?」
「ふふっ……とっとと剥いちまおうぜッ」
恵利がお気に入りの三宅にしてみれば、当然の答えだった。
「まっ、待ってっ……」
「へへ、決まったぜ……武川ッ、ちゃんと撮っておけよ」
恵利の叫びを無視するかのように、五人目の不良生徒の手には、ポラロイドカメラが握られていた。
長身で細身の武川には、リーゼントが似合っていた。
つり上げるように剃り落とされた眉に細長いサングラスまでかけている。
武川は、いかにも不良という風貌をしていた。
「へへへ、ちっちゃそうなおっぱいの感触でも確かめてみようぜッ」
佐山は、取り囲んでいる不良連中に声をかけた。
「やっ、やめてッ」
恵利が弱々しい悲鳴をあげた時には、巨漢の松沢に羽交い締めにされていた。
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