第3章 10年前(2)
さらに、薫が3年生から古着を買わされ、それを同級生に売りつけるという事件が起きた。売りつけられた生徒の親からの連絡で発覚した。3年生から売りつけられた古着のジャンパーを万単位の金額で転売したようだ。この事件で、3年生のリーダー格の生徒は補導され少年鑑別所に入れられた。この事件をきっかけに3年生たちのグループはおとなしくなり、やがて卒業していった。
薫が2年生になると、立場が逆転した。今まで後ろ盾になってくれていた3年生がいなくなり、新3年になった連中が、一年前の恨みを晴らすように薫に襲い掛かってきたおだ。
薫は新3年の秋山真一らに公園に呼び出され、これまでのことを土下座して謝罪しろというのだ。もちろん薫は断った。すると、秋山ら3人に囲まれて、薫はリンチされた。公園の片隅で、投げとばされ、転がされ、馬乗りになってきて、顔を何発も殴られた。倒れている薫に、寄ってたかって何発も蹴りをいれてきた。そして最後は強制的に土下座させられ、謝罪させられた。
「いいか、二度と、でけぇつらすんじゃねぇぞ」
秋山たちは、そういって高笑いしながら帰っていった。薫は学校にも母親にも、だれにも言わなかった。
秋山たちの要求はエスカレートしていった。学校に行くたびに呼び出され、金品を強要された。このことは、母親の麻衣子が学校に相談に来て発覚した。担任が母親の麻衣子と一緒に薫を問いただしたが、薫は本当のことをしゃべろうとしなかった。
もともとパニック障害の病気をもつ麻衣子は、この事件がショックで病気が再発し学校で倒れてしまった。母親思いの薫は、ぜぇぜぇ息をする母親に説得され、初めて3年生の秋山たちに脅迫されて現金を巻き上げられていたことを告白した。そしてこの現金数万円は、東京にいたころ薫が貯金していたお金だったこともわかった。
次第に薫は学校に行かなくなった。2学期が過ぎると、とうとう不登校になってしまった。担任は管理職を目指す40歳代後半の男で、薫が学校に来て問題が起きるのなら、学校に来ない方がいいと考えていたので、不登校になっても、何の働きかけもしなかった。薫は家にひきこもるようになり、2年生の時は、どうどう最後まで登校することはなかった。
4月7日、。始業式。若い玲子は生徒に人気があった。中西麗奈が駆け寄ってきて、
「玲子先生、よろしくお願いいたします。今年は受験の年なんで、頑張ります」と目を輝かせていた。玲子も、ニコニコしながら、「うん、頑張ろうね」と笑顔で返したが、気持ちは引き締まっていた。
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