その女性、、如何にも警察官然としたパンツスーツに身を包んだ、、と会ったのは、翌々日の午後であった。
私は多くを語らず、彼女も多くを聞こうとはしなかった。
ヤヨイが残した紙幣の束とUSBメモリーとがあれば、警察内部における説得材料としては、充分であったのであろうか。
私とヤヨイの関係についてもまた、彼女なりの配慮なのか、細かな質問をされることもなかった。
「大切な事、優先されるべき事は他にあるもの。」
そう言って悪戯っぽく笑った彼女の笑顔が、どことなくヤヨイを想起させたことを覚えている。
ヤヨイの実家と連絡先を記した紙を残して彼女は去っていった。
ヤヨイの実家を訪ねてみようか、墓参りに行こうかと悩んだが、結局、私が足を運ぶことは無かった。
ヤヨイの両親に、何をどう話せば良いのか分からなかったということもある。
だが、それ以上に、ヤヨイの本名が刻まれた墓碑の前に立った時、私は困惑してしまうに違いないと思ったのだ。
私にとって、彼女はヤヨイ以外の何者でもないのだから。
高校一年の終わり頃、いつの間にか、私は刷り込み効果から解放されていることに気づく。
それはヤヨイが自らの命を絶った日から、丁度、一年が経った日の夜であった。
夕食を済ませ、早々に自室に引き上げた私は、いつものようにヤヨイのことを考えるともなく考えていた。
不意に私は自分が昂ぶっていることに気づく。
まさか、そんな・・・
この一年間、理由は分からないが、私は性的に昂ぶることがなかった。
ヤヨイとの別れによる衝撃、薬物の影響、理由はどうあれ、果てることが出来ないのであれば生殺しだ。
昂ぶらない方が都合はいい。
にも関わらず明らかに私は昂ぶり、性的に興奮していたのだ。
これが『まさか』である。
『そんな』については、いささか不謹慎に過ぎると感じた為だ。
戸惑いながらも興奮の度合いは増していく。
恐る恐る触れた性器は、しっとりと潤っていた。
丸みを帯びたふたつの膨らみは張り詰め、敏感な突起は尖がっている。
何の根拠も無いが、私には確信があった。
そのまま自慰を始めれば、絶頂に達することが可能だという確信。
だが・・・
その時、不意に脳裏にヤヨイの顔が浮かぶ。
ふんわりと笑うヤヨイの笑顔に、私は突如として理解が及んだ。
これは手向けなのだ。
薬物による刷り込み効果という呪いが解けたことを祝うかのようなヤヨイの笑顔。
ならば。
するべきことはひとつしかない、
私はベッドにタオルを敷き詰め、服を脱ぎ去り、仰向けに横たわる。
くちゅクちュくチゅ・・・
「あ。ああ、ぁああぁ・・あっ・・」
両親に聞こえてしまうかもしれない、そんな想いが頭を過ぎったが、構うことはない。
容易く絶頂を迎えた私は、盛大に喘ぎながらも指を動かし続ける。
ヤヨイ・・。
見てよ・・ヤヨイ・・。
繰り返し果てながら、いつの間にか私は滂沱の涙を流していた。
完結
※元投稿はこちら >>