二人目が身体から離れ、三人目が身体を重ねてきたところまでは記憶があるが、四人目にも貫かれたのか、二巡したのかは定かではない。
曖昧な記憶が確かなものになった次の記憶は、放り出されるようにしてワゴン車から下ろされたこと、水着の入ったバッグと衣類がバサバサと投げつけられたことだ。
「避妊はしたから安心しな・・。」
そう誰かが言い捨てると、次の瞬間、ワゴン車は何処にかへ走り去っていった。
呆然と座り込むことしか出来ない私は、下半身の素肌を刺激する尖った夏草の葉から、今更ながら自分が全裸であることに気付く。
ノロノロと身繕いをする私は、下腹部の芯に残る鈍痛と、左右の太腿の内側に残された何条かの褐色の轍を以ってしても、自分が受けた被害の内容を現実の出来事として受け入れていなかった。
打たれた頬が熱を持って疼き、身体中に擦り傷があるらしく、衣類に袖を通す際に触れた箇所がヒリヒリと痛む。
小さく丸まった布切れを拾い上げた私は、ベトベトに濡れたそれが、口の中に詰め込まれていた涎まみれの下着だと気付き、身に付けることを断念する。
ジャージに脚を通そうとして、片脚で立った瞬間、下腹部の芯に沿って激痛が疾った。
それでも私は事実を事実として受け入れられない、いや、正確に表現すれば、事実として受け入れたくなかったのだろう。
ボロボロとしか表現出来ない姿のまま、私は家に向かって歩き出す。
真夏の昼下がり、照りつける日差しに晒されてはいたが、全ての感覚が麻痺しているかのように暑いとも感じない。
知人と会えば、私の身に何が起きたかなぞ、一目瞭然であっただろうが、幸いにして誰とも出会うことは無かった。
共稼ぎの両親は当然の如く不在で、玄関の鍵を開けて家に入った私は、真っ直ぐバスルームに向かう。
洗面台の鏡には、眼を覆いたくなるような姿をした少女が映っていた。
打たれた頬は薄くアザになり、鼻血を流したらしく乾いた血が鼻から口元、更には顎から首筋にこびり付き、体操服の襟を汚している。
切れた唇からの出血は止まっていたが、腫れていることは隠しようがなかった。
それ以上、自分の被害状況を確認すること自体が恐ろしい。
私はそのままバスルームに入ると衣服を全て脱ぎ、風呂桶に溜めた冷水で衣類に付いた血を洗い流し始めた。
何度も水を換え、手洗いで何度か濯ぐうちに大部分の血は落ちたが、完全に落とすことは不可能だという結論に至る。
全てを元通りにすることは不可能なのだ。
不意に私はその場で泣き始めた。
取り返しのつかない事実を、受け入れざるを得ないことに、ようやく理解が及んだからであった。
※元投稿はこちら >>