ふと気づくと、封筒の内側に何か固いものが貼り付けられていた。
鍵、恐らくはヤヨイの部屋の。
脚がガクガクと震えていた。
怖かった。
だが、行かねばならない。
ヤヨイの部屋に。
ヤヨイの無事を確認する為に。
鍵と財布と携帯だけを手にし、着替えする時間すら惜しんだ私は制服のまま家を出た。
電車の中で母親にはメールを送る。
外出する。
遅くなるかもしれない。
治ったばかりなのだから云々・・の返信を無視してヤヨイの部屋に向かう私は、それどころではなかった。
『びっくりした?』
そう言って笑うヤヨイの笑顔だけを望みながら、私は辿り着いたドアに鍵を刺して回す。
開いた。
「・・ヤヨイ・・?」
返事が無い。
靴を脱ぎ、室内に足を運びながらヤヨイの姿を探すが、誰もいない。
ふと、ダイニングのテーブルにレポート用紙とUSBメモリーが置かれていることに気づいた。
手にしたレポート用紙には、誰宛てでもない告発文が記されている。
性暴力の被害者たる少女達の弱味を握り、管理売春を行う組織の概要と、その証拠たる画像の記録されたUSBメモリー。
「・・何を・・ヤヨイ・・?」
室内を見回しながら、私はバスルームの扉が僅かに開いていることに気づく。
あそこだ。
あそこにヤヨイはいる。
だが何故、隠れる必要があるのだ。
泣きだしそうな想いでバスルームの扉を開けると、脱衣所の奥にある曇りガラスに人影が浮き上がっていた。
がらり
そこには白いキャミソールのみを身に付けた少女が、バスタブの縁に寄りかかるようにして床に座り込んでいた。
湯を張ったバスタブから僅かに立ち昇る湯気。
バスタブには、鮮やかに赤い大量の液体が湛えられていた。
湯に浸けられた左手以外は、冷たくなった身体。
その場に座り込んでしまった私は、衝撃のあまり却って冷静さを取り戻す。
ヤヨイの為に出来ること。
私に累を及ぼさないように、とのヤヨイの配慮は痛い程感じていた。
だがヤヨイの遺体をこのままにしておくわけにはいかない。
考えた末、私が取った行動、それは極めて常識的なものであった。
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