中三の春先、私はインフルエンザにかかり、三日間に渡り発熱が続き、四日目にようやく熱は下がったが、衰えた身体は思うように動かない。
年末に推薦入学の合格通知を受け取っていた私は、受験勉強の必要も無い。
金曜日の夕方に発症し、次の金曜日まで伏したままの床の中、ヤヨイに謝らなければと考えていた。
発症した翌日の土曜日には、例の約束があったのだ。
勿論、携帯電話からメールによる連絡はしている。
『インフルエンザじゃ仕方ないよ、早く治してね。可愛がってあげる(笑)』
そんな返信に苦笑しながら、私は布団から出ることはおろか、携帯電話を弄ることすら億劫な状態が続いていた。
発症からは一週間以上が経過し、ようやく体調が戻り始めた土曜日の夜、私はヤヨイにメールを送る。
返信がないまま、日曜日が終わり月曜日の朝が来た。
学校を終え、家に着いた私は郵便受けの中に一通の分厚い封筒を見つけた。
整った筆跡で記された差出人の名前に心当たりは無い。
しかも切手や消印も見当たらないことから、誰かの手により直接、郵便受けに投函されたらしい。
ズッシリとした手応えは、辛うじて片手で持つことが可能な程に重い。
何とか手にしたまま、自室に入った私は封筒の中身を確認することを躊躇っていた。
何故か嫌な予感がする。
全てが変わってしまう転機となった、一年以上前のあの封筒を彷彿させられるのだ。
考えあぐねた挙句、封筒を開いた私が眼にしたもの、それは何枚かのレポート用紙に綴られた手紙と、丁寧に包装された多額の紙幣、そして一通の封筒であった。
一センチ程の厚さで包装された紙幣は六束、およそ六百万円程あっただろうか。
何が何やら分からぬままに私は手紙を読み始める。
その手紙は『サツキへ』で始まっていた。
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