「歩く時、一歩一歩が痛いの、分かるよね?」
コクリと頷いた私に向かってヤヨイの話は続く。
あの痛みたるや、経験者でなければ分かるまい。
休日の昼下がり、自宅に近づくにつれ人影は増えていく。
そのうちの何人が知人で、何人が少女の身に起こった出来事に気付いたかだろうか。
自然、俯向き加減に歩く少女の視野に自分の足元が映る。
スカートの裾から覗く膝から踝まで褐色の轍が何条か、さらには鮮血の雫が新たに流れ落ちていく。
何とか家に辿り着いた少女の姿に両親は仰天する。
何があったのかを問い質しても少女は黙して語らず、呆けたように虚ろな表情を浮かべるのみ。
病院に担ぎ込まれ診察を受けたが、予想通り最悪の結果である。
唯一の救いは避妊具を使用したらしく、膣内から体液が検出されず、膣内の洗浄と裂傷の治療をするが、妊娠や性病の可能性は極めて低いとのことだった。
「サツキは病院に行ったの?」
私はかぶりを振って病院、警察はもとより、両親にすら知らせていないことを告げた。
奇跡的な偶然により、セカンドレイプの被害にも遭わずに済んだことは、僥倖の一言に尽きる。
「一週間入院したのが致命的だったの・・。」
被害に遭った土曜日から翌週の金曜日までを病院で過ごした少女は、結果的に一週間に渡り学校を欠席したことになる。
噂は噂を呼び、臆測に臆測が重なっていく。
そして月曜日。
硬い表情を浮かべ一週間ぶりに登校した少女に対し、周囲は戸惑いを隠せず、一線を画して対応することしか出来ない。
更に一週間が経過した頃、周囲の遠慮がちな雰囲気が緩み始め、下卑た風評が流布していく。
「・・もう、どうなっても良かったの・・。」
誰々の知り合いが見たらしい。
河原で犯されたらしい。
いや、輪姦されたのは別のところらしい。
入院してたのは、妊娠してたから?
え、じゃあ堕ろしたの?
限界であった。
無責任な噂、物見高い視線、卑しい好奇心、鼻持ちならない同情、少女にとって何もかもが煩わしく、誰も彼もが敵であった。
同じ境遇に陥ることがない限り、少女の心情を共有できるわけがない。
忘れられない日から一ヶ月近く経った或る日、ホームルームの終わりに少女は挙手をして発言を求めた。
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