言われるまで気づかなかったが、太腿から膝にかけての内側を何かが這っているような感触がある。
溢れ出した蜜、それ程までに私は昂ぶっていたのだ。
ティッシュを手にしたヤヨイが膝から上に向かって拭き取り始める。
その感触は勿論のこと、このままでは太腿を、そして性器に触れられてしまう。
はしたない汁で汚れた性器に触れられた瞬間、間違いなく私は狂ってしまう。
背後に話しながら歩く人の気配がする。
その距離は、近くはないが遠くもなかった。
やめさせなければ。
今度こそヤヨイの手を押さえ、身体を離さなければならない。
だが私が取った行動は両手で口を塞ぎ、漏らしてしまう声を少しでも押さえる為のものだった。
あろうことか私は僅かに脚を広げ、腰を前に突き出す。
ぁあ・・・
早くぅ・・・
だが無情にもヤヨイの手はピタリと止まり、微動だにしない。
やがてヤヨイは立ち上がる。
「・・そんなの・・・」
『そんなの酷いよ』の後半を辛うじて飲み込んだ私を促して歩き出すヤヨイ。
欲求不満の塊となった私は、仕方なくヤヨイの後ろをトボトボと歩いていく。
混み合うエレベーターに乗り込んだ私達は、向かい合わせに立ち密着することになる。
するり、ふぁさ・・
ヤヨイの右手が、不意に私の左の乳房を包み込んだ。
触れるか触れないか、敢えてギリギリのところまでしか触れてくれないヤヨイの手は私を狂わせていく。
かり・・こり・・こそ・・
曲げられた指の先端、その更に先にある爪が私の乳首を、乳輪を、その周辺の肌を優しく引っ掻き出した。
これでもかとばかりに乳首が尖がる。
これ以上の愛撫を加えられた経験はあった。
むしろ、この程度の快感であれば、何ということもない。
だが、それは密室においてであり、その密室は乱れる為の場所なのだ。
本望の赴くままに欲望を露わにし、淫らな想いに身を委ねることが許された場所であったのだ。
だが今は違う。
数メートル四方の鉄の部屋には、老若男女を問わず、互いの肩を触れ合う程の距離に人がひしめいており、日常を営むべき場所なのだ。
この場で秘かに淫らな行為に及んでいる私達は、異端以外の何者でもない。
こり・・かりこりこり・・・こりかり・・
限界であった。
身も心も、だ。
果てることさえ出来れば。
もはや周囲の眼など関係は無い。
「・・ヤヨイ・・酷い・・。」
分かっていた筈である。
私が、いや私達が容易に果てることの出来ない躯であることを知っているのは、他ならぬヤヨイだ。
私は身体が弾け飛んでしまいそうな歓喜に満たされながら、弾けることが不可能な現実に絶望していたのだ。
知ってるくせに・・・
それでも・・・
期待させるなんて・・・
酷過ぎる・・・・
無けなしの可能性に縋る私には、裏切られたとしか思えなかったのだ。
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